蜘蛛の使い魔・ギゾ

「うあああああっ!!!」



 吐き出された蜘蛛の糸に絡め取られた仲間たちが、続けて上空から降ってくるギゾに圧殺されていく。


 そんな相手に対して、回り込むように走っていた“鹿沼レナ”は手にしたオートボウガンで矢を連射する。




 ズドドドドドドッ



「オオオオオオオン!!!」




 何本かの矢が敵の頭に突き刺さると、咄嗟に口から糸を吐き出して、鹿沼に反撃を開始するギゾ。


 だが、すぐさま鹿沼もボウガンを背中に納め、華麗にバク転を繰り返しながら、降りかかる糸を回避していった。




「天馬さん……っ!!」



「ああ。良いデコイだ!レナ!!」




 鹿沼とは逆方向に位置を取っていた“天馬カケル”は、背中から鉄の槍を取り出しながら天高く跳躍すると、ギゾの背後からを投擲した。


 それは、ただの“鉄の槍”だったはずなのだが、彼の手元から離れた瞬間、閃光のような輝きを放って敵へと一直線に向かっていく。



 天馬カケルのユニークスキル【勇者】の特性・其の二……“生ける伝説”。

 手にした全ての武器を、伝説の武器へとグレードアップさせるというトンデモ技能。

 この特性によって、ただの“鉄の槍”は彼が扱う間だけ“伝説の槍”へと進化を遂げるのだ。




 ズドンッ!!




 見事に、蜘蛛の胴体に突き刺さった“伝説の槍”は、そのまま敵を地面にはりつけにする。

 すぐさま、着地して身動きが取れなくなったギゾのもとへ走り出す途中で、天馬はリタイアした冒険者の落とした剣を拾い上げる。




「海王剣……オルカ・ドライブ!!」




 そして放ったのは、天馬カケル“三種の奥義”が一つ。


“気”を大気中の水に干渉させて、自らの武器へ水刃を纏わせると、まるで波の上を渡るかの如く地面を流れるように音も無く駆けて、全く殺気を出さないまま、ギゾの体を横に真っ二つに斬り裂いた。


 伝説化させた剣に、彼の膨大なオーラが乗った強力な中距離斬撃の威力が上乗せされる。それが『海王剣オルカ・ドライブ』だった。

 あっさりと倒したように見えるが、これでも全力で技を放っていなかったのが、更に恐ろしい事実なのだが、それを知る者は本人しかいなかった。




「もう、終わってるし!さっすが、カケル様!!」



「……ん?モモカか」




 元気溌剌げんきはつらつな彼女の声に気付き、あちらの戦場もかたがついたと悟った天馬は、鳴海ソーマに通話を飛ばした。




「ソーマ。こちらは、片付いたよ。戦況は?」



「どうやら、全戦場で決着がついたようです。相応の犠牲者は出ていますが、主力級は全て生存している模様。これで、四体の使い魔は消え去りました」



「オーケーだ。なら……そろそろ、出てくる頃合いかな?」




 鳴海はボロボロになった剣を、その場に捨てて前方に視線を移した。


 伝説化した武器は強大な力を持つが、本来の性能を大きく超える為に、脆く壊れやすくなる。

 大技の一つでも放ってしまうと、一般的な武器であれば、すぐに使いものにならなくなってしまう。

 それが“生ける伝説”の唯一のデメリットだったが、低コストの武器を短時間だけでも秘宝級の威力に出来るのならば、メリットの方が大きいだろう。


 更に言えば、彼は伝説化にも耐えられる。つまり、天馬カケルにとっては、これだけの強力な技能でさえ、急場凌ぎの技に過ぎなかった。





 砂煙が立ち昇り、その先に薄らと影が現れる。


 開幕で後方に下がっていた秘宝の番人・キマリスが、自身を守る使い魔たちの全滅を受けて、前線へと舞い戻って来たのだ。




「ようやく、大将のお出ましじゃのう!カケル、手柄はやらんぞ!?」




 イェローを倒した部隊のリーダー・牛久ダイゴは、天馬カケルに豪快に言い放った。




「ははっ。望むところだ、僕も負けないよ」




 そう言って、天馬は足下に落ちていた誰かの槍をガッと宙に蹴り上げ、目の前でキャッチした。

 そして、そのまま掴んだ槍をキマリスに投げつける。


 稲妻の如く襲いかかった一投を、騎乗していた愛馬を操り、空高く跳躍させて回避する悪魔の侯爵。



 しかし、その動きを予測していたのか、遥か後方から飛来した弾丸が敵の馬の脚部を撃ち抜く。

 烏丸クロウによる精密狙撃が、刺さったのだ。



 空中で大きく姿勢を崩すキマリスに、更なる追撃。

 ブースターを全開にして突撃してきた、一角ツバサの『モノケロース』。豪快なキックを見舞うと、キマリスは馬から落とされた上に、吹き飛ばされる。


 そこで動きを制止させた一角は、まずは落下していく馬に向け、腕に仕込まれた機銃を見舞っていった。




 ババババババババッ!!!




 為す術なく弾丸の雨を浴びたキマリスの愛馬は、地上へ落下すると同時に絶命し、消滅した。




「敵の馬は、やった。あとは、キマリスだけだ!」



「全く、どいつもこいつも目立ちたがりおって!ワシが活躍する間もなく、倒してしまうつもりか!?」




 肉弾での接近戦を得意とする牛久ダイゴは、どうしても接敵するまでの時間が仲間たちよりも遅く、愚痴りながらキマリスの落下地点まで、せっせと自らの足を使って向かっていた。




「気をつけてくれ、ダイさん。敵の様子が、変だ」




 通話越しに聞こえた鳴海からの忠告に、牛久は敵の姿を改めて注視した。










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