火炎の使い魔・バ・トイェ

 鳴海ソーマ率いる『エクスプローラー』B部隊は、炎の悪魔バ・トイェと交戦中だった。




 ゴオオオオオオオオッ




 見た目通りの激しい炎を吐き出して、B部隊に所属していた『エクスプローラー』の冒険者を焼き尽くしていくバ・トイェ。




「何でもいい!奴を止めろォ!!」




 一人の冒険者が叫ぶと、弓や銃を持つ者たちが一斉射撃で敵を狙い撃つも、バ・トイェの身体に触れた矢は焼き尽くされ、銃弾はその身体をすり抜けて、全くダメージを与えられない。




「コイツ、物理攻撃が通用しないぞ!?どうするんだ?リーダー!」




 B部隊の指揮を任された“鳴海ソーマ”は仲間に尋ねられると、一瞬だけ思案して号令を飛ばした。




「生存者は、一時後退せよ!モモカ、任せていいかい?」



「オッケー。準備は、できてますよ〜」




 鳴海に声を掛けられた“龍宝モモカ”は、何故か氷上を滑るスケート靴を履きながら、陽気に答えた。

 トントンとつま先で地面を叩くと、彼女はパチンと指を鳴らす。




「我が道を、凍てつかせ……アイシクル・ロード!」



 ピキピキピキピキッ!!




 彼女の足下から、氷の道が出来上がっていく。


“龍宝モモカ”のユニークスキル【凍結】によって、地面が凍らされたのだ。

 それは念動シリーズの、クリオキネシス。


 人類はナノマシーンを注入されるようになってから脳の未知領域が解放され、第二ステージに到達されたと言われている。

 そして世に広まったのが“チャクラ”と、念動力だ。


 内部のエネルギーを放出するのはチャクラとオーラ、外部のエネルギーに干渉するのがサイコキネシスである。

“気”の力でも自然界のエネルギー“マナ”には干渉できるが、念動力の方は限定的になる代わりに、より大きな力を動かすことが出来るのだ。


 クリアキネシスとは、“氷”に特化した念動力だった。それは、空気中の水蒸気を凍結させることが出来る力。




 幼少期より嗜んでいたフィギュアスケートの実力で即興のスケートリンクを優雅に滑り出したモモカは、火炎の使い魔のブレスを回避しながら、敵の周囲を回り込むように滑走していく。





「凍てつけ、氷の牢獄……ダイヤモンドダスト!!」




 特に意味は無いが、くるんとシングルジャンプを決めてモモカは、バ・トイェの周囲の水蒸気を凍結させると、徐々に敵の身体が氷漬けにされていった。


 しかし、敵も伊達に炎の身体ではない。

 中から膨大な熱によって、へばりついた分厚い氷牢を少しずつ溶かし始める。




「凍らせれたけど、長くはもちそうにないかもー!溶かされ始めてる!!」




 モモカからの報告を受け、鳴海は慌てることなく側にいた冒険者に指示を出した。




「藤村さん。頼めますか?」



「……御意」




 B部隊の軍師からの指示を受けると、一瞬にして姿を消した“藤村ロイド”は、気付けば氷漬けのバ・トイェの近くまで辿り着いていた。




「対象・藤村ロイド。【キック】付与」




 鳴海ソーマのユニークスキル【付与】は、対象の相手の基本スキル一つに短時間だけrankをプラスさせるという、いわゆるドーピングのような能力だった。

 元から備わっていた戦略家としての才能に加え、強力なサポート能力を有していることで、彼は若くしてトップギルドの軍師として君臨することが出来ていた。




 鳴海の【付与】によって、自身の脚力が増強されたことを感じた藤村は、まるで鎌のような回し蹴りを放つと、その一撃で凍った敵の身体はバラバラに砕け散った。

 物理攻撃が通じない体なら、通じる体にしてしまえばいい。モモカの【凍結】によって、バ・トイェは強制的に氷の義体を装着させられてしまったのだ。




「ちょっと!藤村は、私のボディーガードでしょ!?何で、いつも良いとこ持ってっちゃうかなー!!」



「はっはっは。モモカお嬢様は、私が守る必要の無いほど、お強いということですよ」



「えっ?ま、まぁ……それは、そうだけど〜」




 まんざらでもないのか、こぼれる笑顔を隠しきれないモモカ。幼少期の頃から面倒を見ている藤村にとって、彼女の扱いは手慣れたものであった。


 そんな二人のやり取りを遠目に見ながら、“鳴海ソーマ”は知ってはいたが改めて、その強さに感嘆した。




(モモカのクリアキネシスは、もちろん凄いが……さすが、現役時代に“黒衣の死神”と呼ばれていたほどの冒険者・藤村ロイド。私の【付与】があったとはいえ、あの使い魔を一撃で屠るとは)





 すると、モモカが急にキョロキョロと辺りを見回し始めた。




「そんなことより!カケル様は!?」



「まだ、戦闘中のようですな。カケル様なら、すぐに終わらせてくれると思いますが……と。もう、おられませんな」




 藤村の言葉に聞く耳も持たず、モモカはカケルのある戦場までスケートで滑り去っていった。

 ハァと軽く溜め息を吐いて、すぐに彼は主人である自由奔放な令嬢の後を追って、駆け出す。


 その速さは疾風の如く、氷上を滑る彼女と同等のスピードを誇っていた。




「はは……本当に、何者なんだ。あの人は」




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