猛獣の使い魔・イェロー

 バババババババッ!!!



 空中から、腕に内蔵されたバルカン砲で巨大なハイエナに牽制射撃を行う一角いっかくツバサ。



 ここでは、牛久ダイゴ率いる『エクスプローラー』C部隊が猛獣型の使い魔・イェローとの交戦を繰り広げていた。



 ヘイト役を買って出たのは、全身が青色のメタリックボディーで覆われた最新鋭パワードスーツを装着する一角であった。

 それは、一角ツバサのユニークスキル【発明家】のアイデアと、彼の父が経営する軍事企業の技術力によって生み出された多種多様な武装を搭載する『モノケロース』の名を冠する機械の鎧であった。



 背中のブーストパックで飛行しながら、地上にいるイェローへ一方的に弾丸を見舞っていく一角。

 とはいえ、敵の耐久値も高く、それだけでは決定的なダメージは与えられない。

 しかし、注意を引きつけることがヘイト役の目的だとするならば、その役目は十分に果たしていた。




「今だ!クロウ!!」




 一角からの通話を聞き、遥か遠くからスナイパーライフルを構えていた“烏丸クロウ”が照準を合わせて、引き金を引いた。

 ユニークスキル【狙撃】によって、正確無比な射撃がイェローの前足を撃ち抜く。




「……命中。牛久さん、出番だよ」



「任せんしゃい!!」




 大きな体躯ながら、俊敏な動きで体勢を崩したイェローに身一つで駆けていく“牛久ダイゴ”。

 首根っこを捕まえようと果敢に飛びかかるも、敵が巨大な口を開けて強烈な咆哮を放った。




 ゴウッ!!




「ぬおおおおっ!?」




 その強烈な衝撃波によって、吹き飛ばされる牛久。

 そこへ怪我した足を無理矢理に動かして、追撃してきたイェローの鋭い牙が襲いかかる。

 あわや、空中で噛み砕かれるところだったが、敵の上顎と下顎を全身の筋肉だけで抑えてみせ、九死に一生を得る。


 敵の歯からしたたってくるよだれが、牛久の体に落ちると硫酸のようにジュワッと煙を上げて、皮膚を溶かした。




「う……ぐぅ!!」




 苦悶の表情を浮かべる彼を救ったのは、一筋の銃弾。


 それは再び、烏丸が放った狙撃の一射だった。

 今度は敵の鋭い牙に貫通させると、その痛みに悶絶したイェローが口の中にいた牛久を吐き出す。





「……牛久さん、生きてる?」



「おう。助かったぞ、クロウ!恩に着るわい!!」




 地面に吐き出されゴロゴロと転げ回るも、すぐに立ち上がった彼は何事も無かったかのように、再びイェローのもとへと突進していく。

 清々すがすがしいまでの脳筋。だが、それは彼のユニークスキル【剛体】の頑強さを、自分自身が良く理解しているからでもあった。




「行くぞい、犬っころ!牛久スペシャル……ロケットこけし!!」




 歯の痛みに苦しんでいるイェローの真下に到着した牛久は、その場に思いっきりしゃがむと、その名の通りロケットのように勢いよくジャンプし、敵の下顎に強烈な頭突きを見舞った。

 何のことはない、の技・ロケットこけし。

 しかし、【剛体】によって全身の筋力が強化された“牛久ダイゴ”が放つことによって、それは唯一無二の必殺技へと昇華される。



 四足歩行だったイェローが、今の一撃で二足歩行のような状態にまで突き上げられると、通信機能を使えばいいものを知ってか知らずか、牛久が大きな地声で叫ぶ。




「ツバサ!お膳立ては、しといてやったぞい!!決めてやれ!!!」




 空中で姿勢を維持しながら、背面に備え付けられていたレーザーブレードを抜き取り、一角は構えた。




「やれやれ……相変わらず、むちゃくちゃな戦い方なんだから。あの人は」




 そう誰にも聞かれないような声で呟くと、彼はブースターの出力を最大にして、動きを止めたイェローに向かって降下していく。

 そして、その勢いのまま携えていたレーザーブレードを敵の頭へと突き刺した。




「ライトニング・ブレード!!」



 バチバチバチバチバチバチッ!!!




 突き刺したレーザーブレードの刀身から激しい電撃が放出されると、イェローの全身に強い電流が駆け巡り、瞬く間にその身を焦がしていく。

 そして、ゆっくりと一角が剣を抜いて、空へと浮上すると、全ての力が抜けたようにズンッと猛獣の使い魔は地に伏した。

 そして、ついには霧となって消滅したのであった。




「うぉっほ!派手に、やったのう!!ツバサ」



「ビビらせないでよ、ダイゴ。やられたかと思ったじゃないか」



「がっはっは!すまん、すまん。ちと、油断したか。だが、まぁ……勝ったんだし、何でも良いじゃろ!!」




 牛久のもとに、ゆっくりと降下してくる一角。

 二人が談笑してるところへ、ライフルを抱えた烏丸も合流した。




「二人とも。まだ、本丸が残ってる……勝利の余韻に浸るのが、早いよ」




 20名弱がいた植村たちの傭兵部隊に対し、彼らはたった3人の少数精鋭で使い魔を撃破してみせた。日頃から連携の取れた間柄とはいえ、個々の実力が評価されてるからこそ、この人数での討伐を任されたのだろう。

 そして、その期待に見事に彼らは応えてみせたのだった。



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