反撃

 彼女が展開させた巨大な結界は、敵の疫病ブレスを完璧にシャットアウトし、全員の感染を防いでみせた。

 病から回復した西郷は、目の前に広がる光の壁に驚きの声をあげる。





「何や、アレ……周防が、やったんか?」



「ううん。私の【断絶】は、物理ダメージしか遮断できへん。アレはバリアというより、“聖なる加護”って感じかも」




 周防が、聖域を展開させたであろう少女の方に視線を送ると、“白石アヤメ”は酷く消耗したように、ぐったりとひざまずいた。


 それを見た京極は、唖然としていた仲間たちに発破をかける。




「あの子が作ってくれたチャンスを、逃したらあかんで!今が、勝鬨かちどきの声をあげる時や!!」



「「「おおおおおおおっ!!!」」」




 ブレスがおさまった頃を見計らって、回復した冒険者たちが一気呵成に武器を構えて突撃していく。


 ジゴもまた迎え討つように、再び念動力を発動させると、今度は槍ではなくを操ってみせ、高速の射出物として冒険者たちに向けて次々と撃ち込んでいった。



 それは、まるで生きた大砲の玉の如く、直撃された冒険者たちは阿鼻叫喚の声をあげながら消え去ってしまう。そして、撃ち込まれたインプたちも消耗品のように地面に息絶えていた。


 そして、ジゴが人差し指をクイッと上にあげると、弾丸がリロードされるように、数体のインプが侯爵級悪魔の背後に円を描くようにして規則正しくセットアップされた。




「そこか……蛇咬鞭じゃこうべん!!」




 冷静に敵の動きを見極めていた京極が伸ばした薙刀は、今度はジゴの指先に絡まって、その動きを止める。彼女の狙い通り、その指こそが念動力のトリガーだった。

 その証拠に、念動から解放されたインプたちは無規則にバラバラの方向へと飛び去っていく。


 ジゴがググッと力任せに拘束された指を引っ張ると、綱引きのように京極の身体がジリジリと引き寄せられる。何とか両の足で地面を掴んで、耐え忍んでいると……今度は、敵の瞳が妖しく光輝き始めた。




「させるかいっ!!」




 すぐに、それが“混乱睨み”であると察知した西郷が、二つの出刃包丁を敵の瞳に投げつけた。

 見事に命中……とまではいかなかったものの、一本は右眼のまぶたに突き刺さり、一本は左眼を掠めて切り傷を負わせることに成功した。

十分に瞳が開けれなくなれば、ジゴの眼光は発動できなくなる。




「はああああっ!!!」




 次にハルバードを構えて、敵の足下に駆け寄って行くのは“周防ホノカ”だ。

【断絶】の効果を付与させた戦斧の切先を、敵の足首に向けて振り下ろす。




 ズドンッ!!




 斬れ味抜群となったハルバードは、見事にジゴの太い右足を切断し、その巨体をぐらりと前に傾けさせた。

 その後に次ぎ、植村が光剣クラウ・ソラスで突撃していくと、後ろから七海の声が聞こえる。





「ユウト!少しの間、奴をひるませられる!?」



「わかった!やってみる!!」





 その言葉で、彼女がフィニッシュの為の準備を始めることを察知した植村は、速攻で前傾に崩れてくる敵へ技を放った。





「七星剣術・一つ星!貪狼ドゥーべ!!」




 まずは、衝撃波を放って一瞬だけ敵を足止めする。




「三つ星!禄存フェクダ!!」




 次に、瞬足の歩法で敵との距離を一気にゼロにし、残っていた片足に居合いの一撃を放つ。


 両の足首にダメージを負ったジゴは、堪らず前のめりに倒れ込んできた。再び“禄存フェクダ”の歩法で大きくバックステップすると、落ちてくる敵の頭蓋に狙いを定め、三つ目の技へと移行した。




「五つ星!廉貞アリオト!!」




 アッパー気味に、下から上へと掬い上げた強烈な一閃が敵の顎を跳ね上げる。

 七星剣術の本領ともいえる、即興の連続技コンボ。“刀剣rank100”の恩恵はあるとはいえ今の植村は、ほぼ完璧に一人で技を繋げられるほどに熟練度を上げていた。

「少しの間、怯ませる」という仕事は、十分に果たしただろう。彼は、後方で準備しているであろうフィニッシャーに向けて、合図を出す。




「アスカ!今だ!!」




 彼女の持つ『マルチウェポン』は、いつの間にか立派な猟銃へと形を変えていた。そして、熟練のマタギを彷彿とさせる構えで、アスカは照準を定めた。




「シルエット・フォー……“狩人ハンター”。ドレスアップ」




 その【七変化】は、“狩り”に特化した第四形態フォーム。この瞬間、彼女の短剣・斧・銃のスキルは格段に向上する。




「……人型ひとがたなら、弱点も人間と同じだろ?」





 ズドンッ!!




 彼女が撃ち込んだ一発の銃弾が撃ち抜いたのは、ジゴの眉間みけんだった。

 思った通り、そこは敵の急所の一つ。

 だが、ピンポイントで小さな標的を狙い撃てたのは、“狩人ハンター”の性能があったからだろう。

 次の瞬間、病気の使い魔は黒い霧となって消滅した。



 その最後を見て、生き残った冒険者たちが歓喜の声をあげる。


 そして、作戦会議で散々、植村たちを煽っていた冒険者は信じられないといった表情で、ボソッと呟く。




「なんなんだ……あのガキ共は。ただの見習いじゃなかったのかよ」




 かくして、傭兵部隊は植村たちと一人のヒーラーの活躍によって勝利を収める。

 しかし、同時進行で各所による戦闘は続いていた。






 








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