病気の使い魔・ジゴ
「まずいで!期待はしとらんかて、アレはやられすぎや!!」
二本の出刃包丁を両手に構えて、後方支援に甘んじていた西郷くんが満を辞して飛び出していく。
その姿を見て、京極さんが慌てて引き止めるも……。
「マサキ、待ちぃ!無闇に、突っ込んだらあかん!!」
そんな制止も届かず、彼は立ち塞がるインプを切り裂きながら、ジゴへと突撃していく。
そして、再び吐かれる紫色のブレス。
「なん……や、これ。力が、入らん……」
疫病状態とは、ブレスに触れた相手を瞬時にして、重度の風邪のような状態に変えてしまうことだった。
体がだるくなり、頭が熱を帯び、戦う気力そのものが削がれてしまう。そういった意味では、毒や麻痺よりも危険な状態異常といえる。
そして、動けなくなった相手へ三叉槍でトドメを刺す。それが、ジゴの必勝パターンであった。
「アホ!考え無しに、突っ込むからや!!」
あわや、串刺しにされそうになった彼を救ったのは、周防さんの光の障壁であった。それと同時に、ハルバードを構えて距離を詰めると、それを大きく振り上げて、障壁によって動きを止めた敵の武器を破壊してみせた。
ガキィィィン!!!
これが、スイーパーに転向した“周防ホノカ”の新たな戦闘スタイルだった。
敵が怯んだ隙に、倒れていた西郷くんを抱きかかえる周防さん。しかし、ジゴは体勢を崩しながらも念動力のような技を使って、折れて飛んだ槍の刃先を空中で制止し、眼下の二人に向かって弾丸のように射出した。
ギャンッ!!!
「ぐうっ!?」
飛来してきた槍先を、今度は守りの【断絶】を込めた小盾で防ぐも、その衝撃で周防さんの体は吹き飛ばされてしまう。
そして、ジゴの口元から例の息が漏れ始める。
「させへん!玄武流薙刀術……
さすがの仲間の危機に、ついに後方支援に甘んじていた俺たちも前線へと走り出す。
京極さんが伸ばした薙刀を、ジゴの首に巻きつけてブレスの放出を阻止すると、【玄武】の効果で硬化させ、そのまま締めつけていった。
「今や!植村くん、アスカ!!」
京極さんの右側から、俺が
「マルチウェポン……メタモルフォーゼ!」
それは、レベル2の
見た目は、ただの鉄の棒だが、所有者が強くイメージすることで、様々な武器に姿を変えられるという代物。
ただし、変えられる武器は一般的に流通してるような兵器に限られる。その為、秘宝などの特別な武器を作り出すことは出来ない。
その代わり、銃火器などにも変化させることができ、銃弾は無制限に発射できるというオマケ付きである。アスカのように、様々な戦闘スタイルを持つ冒険者にとっては、非常に相性の良い専用武器といえる。
【虚飾】が、【近接戦闘(刀剣)】rank100に代わりました
「シルエット・シックス……“
俺とアスカが臨戦態勢を整えると、首を絞められていたジゴの瞳が妖しく輝いた。
ヤバい!あれは……麻痺にらみか!?
過去に受けた経験があったからか、咄嗟に目を閉じて、敵の眼光を逃れた俺だったが、それは麻痺にらみではなかった。
次の瞬間、横から不意を突かれた攻撃を受け、自動回避で何とか躱すも、その仕掛けてきた相手に驚愕する。
それは、眼の色が紫に濁った“七海アスカ”だった。
その瞬間、敵の眼光は“麻痺”をさせるものではなく、“混乱”を誘う効果であったことを悟る。
よりにもよって、想定する最悪の状態異常だ。
ギン!ギン!ギン!
俺と、正気を失ったアスカが激しい剣戟を繰り返していると、インプたちがジゴを助けるように、首に巻きついた京極さんの薙刀を力を合わせて引き剥がしていく。
くっ!拘束が解かれれば、また疫病ブレスが襲いかかってくる。そうなると、一気に危険な状況に陥るぞ。何とかしなければ……だが、どうする!?
「天使の光よ、その奇跡を持って、全ての厄災を退けたまえ……オール・リフレッシュ!!」
パアアアアアッ
俺たち全員が光に包まれると、疫病に倒れていた者、そして正気を失っていたアスカが一斉に元の状態に回復してゆく。
ハッと後ろを見ると、そこには目を閉じて祈りを捧げながら強い光を放つ“白石アヤメ”さんの姿があった。
ヒーラーとは聞いていたが、これほどとは。
そして、自我を取り戻したアスカが俺への攻撃を止める。
「あれ……私、何を?」
「敵の攻撃で、混乱してたんだ。でも、白石さんが治療してくれた!」
「えっ……!?」
皆の視線が集まる中でも、白石さんは敵の挙動に集中していた。再び、吐かれそうになる疫病ブレスを防ぐ為、彼女は続けて新たな術式を発動する。
「天使の加護よ、その加護を持って、勇敢なるものたちを守りたまえ……サンクチュアリ!!」
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