LV4「名もなき荒野」

 その後、送迎バスで一行が送られた先は、とある河川敷。そこにはレベル4のダンジョンに繋がる“赤のゲート”があり、『エクスプローラー』の団員たちが他の冒険者が立ち入らないように周囲を占拠していた。




「早速ですが、皆さん……準備は、よろしいでしょうか?これより、レベル4のダンジョンへアタックを開始したいと思います」



「おうよ。こっちは、いつでも準備が出来てるぜ。とっとと、終わらせちまおう」



「ふっ……そうですね。では、ご武運を!参りましょう!!」




 天馬先輩が一人の傭兵と言葉を交わし、先頭を切ってゲートの中に足を踏み入れていく。意外に、ぬるっと始まったが、場数を踏んでる冒険者たちは日常的に行っているダンジョン攻略で、いちいち気負ってられないのだろう。

 とはいえ、本格的なレイド戦は初めてとなる俺と西郷くんは緊張した足取りで後に続く。

 女性陣の方が腹を括っているのか、談笑しながら先を歩いていて、少し情けない気持ちになった。





 LV:4 赤色のダンジョン

 ミッション

 90分以内に、秘宝の番人を撃破せよ




 ゲートをくぐると広がっていたのは、地平線まで続く広大な荒野。言われてた通り、岩山などの遮蔽物は全くといっていいほど存在せず、休める場所が無い。

 表示されたテキストを見ると、単純なバトルミッションに思えたが、制限時間が今までのものより長めに設定されている。それだけ、難易度が高いということだろう。





「……そろそろ、来る頃だ」





 天馬先輩の声に呼応するように、目の前に馬に跨った一人の戦士が出現する。あの姿は、作戦会議で履修済みだ……侯爵級の悪魔・キマリス。


 すると、キマリスは持っていた槍を天高く掲げた。


 それと同時に、キマリスの前に四体の大型クリーチャーが召喚された。例の使い魔たちだ。

 そして、キマリスは敵軍の将であるかのように馬のきびすを返して、後方へと撤退していく。

 あとは、使い魔たちに任せるということだろう。


 それを見て、天馬先輩の隣にいた鹿沼さんが叫ぶ。





「ここまでは、想定通りです!ヘイト役の皆さんは、目標の敵を引きつけてください!!」





 各自が散開する中、俺ら傭兵部隊のヘイト役と思われるベテラン冒険者が、ターゲットである“ジゴ”を誘き寄せていく。





「こっちだ、化け物!かかってこい!!」




 彼のユニークスキル【挑発】によって、ジゴは見事に釣られて、向かってきた。

 挑発行為をすることで相手の憎悪を増幅させるという、およそ日常生活では役に立たないようなスキルだったが、このダンジョンにおいては非常に重宝されるヘイトコントロールとなる。


 見ると、他の部隊のヘイト役も各自でターゲットとなる悪魔を引きつけることに成功し、戦場は四分割のような状況へと変わってゆく。




 この様子を遠くから見つめていた“鳴海ソーマ”が、全体通話で指示を飛ばす。戦術理解度の高い彼は若くして『エクスプローラー』の軍師役を任されるほどの逸材だった。




「十分な距離まで引き離したことを、確認。各部隊、目標に向かって攻撃を開始して下さい!」



「攻撃命令が下りた!全員、突撃ぃ!!」




【挑発】待ちのタンク役が持っていた剣の切先をジゴに向けると、様子を伺っていた傭兵部隊の冒険者たちが一斉に総攻撃を仕掛けていく。


 その時、ジゴの周囲から小さな魔物が大量に出現する。『ダンジョン・アイランド』にも現れた“インプ”の大群だ。

 この使い魔自身も、更に下級魔物を従えてるということか。これは、なかなかに厄介だ。





「うおおおおおっ!!!」




 だが、しかし。飛び出して行ったベテラン冒険者たちも、伊達に経験を積んでるわけではない。

 それぞれの武器によって、迫り来るインプたちをバッタバッタと薙ぎ払っていく。口だけの人たちでは、なかったようだ。





「こいつら、大したことないぞ!いける!!」




 俺たちは、予定通り後方から彼らの支援に徹する。そうしているうちに、最前線の味方たちがターゲットであるジゴに接敵した。


 近付いてくる冒険者を感知したのか、ジゴは不気味に開いた口から紫色の毒々しい吐息を吹き出す。





「なんだ!?ブレス攻撃か?」



「分からん!だが、注意しろ!!決して、吸い込むなよ!?」




 片腕で自らの鼻や口を塞いで、敵の息を吸わないように攻撃を仕掛けていく傭兵部隊だったが、次々と顔を青白くして倒れ込んでいった。




「が……はっ。なんだ?身体が……寒くて、重いッ」



「この息……触れただけで、効果をもたらす……のか。ごほ、ごほっ!」





 後方支援に徹していたため、俺たちは被害に遭うことは無かったが、一瞬にして瓦解していく前線部隊に動揺は隠せなかった。





「何や?何が、起こっとるんや!?アイツの息か!」




【虚飾】が、【鑑定】rank100に代わりました




 スキルを使って、倒れた味方たちを分析スキャンしてみると、全ての人間に“疫病状態”という文言が表示された。




「そのブレスに触れると、疫病状態になってしまいます!気を付けて下さい!!」



「疫病?気を付けろ……つったって!うおっ!?」




 倒れ込んでいる冒険者たちも巻き添えにしながら、ジゴは巨大な三叉槍みつまたやりを振り回し、前線にいた傭兵たちを根こそぎ現実世界送りにしていく。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る