戦闘服

 作戦当日



 後日、再び『ミストルティン』の前にやって来ると、数台の送迎バスと共に、フル武装した冒険者たちが集結していた。


 中には、ゴツイ鎧や武器などを持っている人もいて、さながらゲームの世界に紛れ込んだようだ。まさか、あの格好のまま、ここに来たわけじゃないよな……などと、無粋なことを考えていると。




「あ!あの……昨日は、どうも」



「白石さん。おはようございます」




 ペコリと頭を下げた彼女は、フード付きの白いケープコートを着ていた。相変わらず、顔半分は隠れたままだが、こういう衣装だと白魔道士って感じで、ヒーラー感がある。




「私、あまり経験が無いので……色々と、迷惑をお掛けしてしまうと思いますが、よろしくお願いします」



「いえいえ!経験が無いのは、お互い様なので。あっ、えっと……植村ユウトと、いいます。今日は、頑張りましょう」




 ちょっぴり恥ずかしかったが、俺が手を差し伸べると、彼女も少し躊躇してから、その手を握り返してくれた。

 ヒーラーである彼女を守るということは、パーティーの損害を減らすことにも直結するはずだ。そういう意味でも、守ってあげなくてはならないだろう。


 てか、まあ……違う意味でも、守ってあげたいけど。



 ぺこっと頭を下げながら、どこかへ行ってしまう彼女を、ぼーっと見送っていると背後から殺気を感じた。




「ほーう。懲りずに、またナンパですか?植村さん」



「ア……アスカ!?お、おはよ〜」



「おはよう……じゃ、ないよ!全く。決戦前に、呑気な奴だな」



「いやいや!普通に、挨拶してただけだってば」




 赤と黒を基調とした、モダンなチャイナドレスを着ているアスカ。これが、彼女の戦闘服なのだろうか?普通に、オシャレで格好良い。


 そんな俺の視線を、向こうにも気付かれたようで。





「ん?格好いいっしょ、これ。オーダーメイドの戦闘服なんだ……ってか、ユウトのそれ」



「そう!一応、確認してみたら、実家にあったんだ。父親のお下がりの戦闘服。ちょい大きめだけど着れそうだから、来る途中で取りに行ってきた」





 胸の部分に太極図の印をあしらった白と黒の戦闘服。見た目はジャケットスーツなのに、着てみた感じは動きやすく通気性も良い。

 すると、まじまじとアスカが俺の戦闘服を覗き込んできた。




「アンビバレント社の“スレイプニル”じゃん!さすが、冒険王……めちゃくちゃ良いもの、着てたんだね〜」



「何、それ!?そんなに、良いものなの?」



「アンビバレント社は、海外でも有名な戦闘服の高級ブランド。その太極図が、会社のロゴだよ。“スレイプニル”は少し前まで、一番の高性能って呼ばれてたシリーズだね」



「マジか……ラッキー」




 有名な冒険者を親に持っても、それほど恩恵は感じてこれなかったが、今回ばかりは父親に感謝だ。

 そんな俺に、アスカが釘を刺してきた。




「ちなみに、それ……普通に、一着100万以上するらしいから。大事に着た方が良いよ?うん」



「ひゃ……100万!?」



「耐刃、防弾、耐火……多種多様な攻撃に対する加工が施されてるからね。それぐらいは、かかっちゃうんだよ。どうしても」




 やばい、逆に動き回れなくなるかも。

 いや、ダンジョン内で負った服の損傷も、帰ってきたら復元するはずだから、そこまで心配しなくても大丈夫か。




「おいっすー。おはようさん」




 欠伸しながら歩いて来る西郷くんを先頭に、周防さんと京極さんが、こちらに向かって歩いて来る。

 それぞれ、個性的な戦闘服を着用していた。

 一種のアイデンティティみたいなものなのか。



 西郷くんは、コックのような白を基調とした戦闘服。さすがは、調理師といったところか。


 周防さんは、青を基調とした女戦士を彷彿とさせるハーフプレートアーマー。


 京極さんは、紫の着物タイプの和風な戦闘服。


 どれも、オシャレでサマになっている。



 周防さんも、俺の戦闘服に気が付いたようで。




「あれ!?植村くん、学生服じゃないやん。しかも、アンビバレントのやつ!どうしたん?」



「父親の、お下がり。みんな、知ってるんだ?そんなに有名なブランドなのか……」



「カタログで見て良いな〜と思ってたけど、高すぎて手が出せへんかったんよなー。うらやましい」



「いやいや、中古みたいなもんだから。それより、周防さんも、その武器どうしたの?」




 周防さんの左手には小さな盾。そして、背中には立派なハルバードが装備されていた。




「ふっふっふ。気付いてしまったかね?実は、私……スイーパーに、転向したんよ。本格的に」



「えっ、そうなの!?戦えるようになったってこと?」



冒険者養成校ゲーティアで、ユニークの応用を学んだ結果やね。私の【断絶】は、ダメージを遮断することしか使い道が無いと思ってたんやけど、よく考えたら攻撃にも転用できるんじゃないかと思って、色々と試してみたの」





 なるほど。確かに【断絶】の意味は、攻撃にも当てはまる。そういう意味では、ユニークスキルは単純に性能だけでなく、使用者の感性で潜在能力が引き出されていくのかもしれない。








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