ギルドカフェ

「何か、しゃくやな〜。なんで、俺らがアイツらの引き立て役にならなあかんねん」




 不満たらたらな西郷くんに、アスカは諭すように言った。




「それが一番、まとまるんだって。もし、あの人達が苦戦するようだったら、ウチらが良いところを掻っ攫っちゃえば、いいんだから」



「ほー、なるほど。それ、ええな!アイツら、どうせ口だけで大したことあらへんやろ。せいぜい、敵の情報を取るだけ取って、消えてもらおか」



「少しは、言い方にリスペクトを持て。一応、冒険者の先輩方なんだから」




 一応と言ってるあたり、アスカもリスペクトが足りてないのでは……と、思ったものの口には出せない。


 そんな俺に、周防さんが話しかけてきた。




「そういえば、植村くんは戦闘服とか持っとる?」



「戦闘服?」



「そうそう、ダンジョンに挑む用の防具なんやけど」




 言われてみれば、『ヴァルキュリア』も専用の戦闘服があった。こういう本格的なダンジョンに挑む場合は、着ていくものも重要になるわけか。




「防具は……持ってないなぁ。どうしよ」



「私たちギルド所属の経験者は、専用の戦闘服を持ってたりするけど。ユウトは、冒険者養成校ゲーティアの学生服で良いんじゃない?そこそこ、耐久性もあって動きやすいし」



「学生服か、なるほどね。ちなみに今の冒険者の主流って、どんな感じなの?」



「その人の戦闘スタイルにも、よるけど……やっぱ、今だと学生服みたいなのが多いよ。ある程度、動けて耐久性もある感じの。あとは、防弾チョッキとかライトなものから、甲冑とかヘビーなものまで色々あるけど」



「ん〜……じゃあ、今回は制服で行こうかな。 無難に」




 俺が悩んでいると、アスカがアドバイスしてくれた。


 そういえば、実家に父さんの戦闘服とか無いのかな?浴衣のお下がりは見当たらなかったけど、冒険者なんだから、そっちの方は一枚ぐらい置いてあっても良さそうなものだが。


 一応、母さんに聞いといてみるか。




「とにかく、今回の主役はソロの冒険者たちでもなく、『エクスプローラー』や。ウチらは、学生として貴重な経験を積ませてもらえればええ」



「セイラの言う通り。まずは、生き残ることを最優先に。慎重に行きましょう」





 アスカと京極さんの会話に、俺らも賛同して一斉に頷いた。確かに、俺にとっては初めての大型レイドだ。経験を積むつもりで、挑もう。


 そんな中、カフェに一組の男女が入ってきた。

 天馬先輩と、鹿沼さんだ。向こうも、こちらに気付いたようで。





「やぁ。キミたちも、いたんだね。良いところだろう?ウチの自慢のカフェなんだ、ここは」




 さっきのリーダー然とした雰囲気から一転して、柔和な表情で話し出す天馬先輩。オン・オフの切り替えが上手だ。


 そんな彼の言葉に、漫才コンビも反応する。





「はい!めっちゃ、ええとこです。ここ!!」



「はんっ。作戦会議の後に、しっぽり美女とカフェデートでっか?さすが、勇者様は違いますのう」



「こら、アホ!口の利き方に、気をつけろ!!マサキ」




 皮肉めいた西郷くんの言葉にも、天馬先輩は動揺を見せずに笑顔で対応した。




「ははっ。彼女は、うちの作戦参謀なんでね。今から、明日に向けての最終ミーティングってところかな」



「みなさん、はじめまして。鹿沼レナと、申します。以後、お見知り置きを」




 鹿沼さんが、改めて俺らに対して頭を下げて挨拶すると、西郷くんが前のめりで答える。





「西郷マサキです。ほんなら、お近づきのしるしに、連絡先の交換でも……ぐぇ!?」





 右からアスカ、左から周防さんの掌底サンドイッチを喰らい、西郷くんの顔がグニャリと歪む。

 この人だけは、成長するどころか退化してるような気がする。まぁ、そこが良いところでもあるけど。


 フォローするように、アスカが鹿沼さんに対して謝罪した。





「気にしないで?こいつ、バカだから。根は、良い奴なんだけどね」



「ふふっ。いえ、気にしてませんから……あの、七海アスカさんですよね?ずっと、お会いしたかったです」



「え、そうなんだ。私が、前にココのレイドに参加した時は、いなかったよね。最近、入ったの?」



「はい。天馬さんにスカウトされて……」




 チラッと横にいる天馬先輩の顔を見ながら、心なしか少し顔を赤らめてる鹿沼さん。


 そんな彼女を見て、女の勘を働かせた周防さんが、こっそりと俺に耳打ちしてきた。




「あれ、マウントとってんで。アスカちゃん、全方位から敵視されとんな〜。ま、それだけ天馬先輩がモテるってことかー」




 マウントだったのか、気付かなかった。鹿沼さんも、天馬先輩のことが好きなのか。よく分かるな、こんな短い挙動で。

 モモカちゃんに、鹿沼さんに、アスカ……何角関係になるんだろ。これ。


 と、ゆーか……アスカは、どう思ってるんだろう。やっぱり、天馬先輩のことが好きなのだろうか。




「おーい。どしたん?植村くん」



「え?あ、いや!何でも……はは」



 周防さんの言葉で、ふと我に返る。


 何を気にしとるんだ、俺は。どっちでもいいだろ。まずは、目の前の大型レイドに集中せねば。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る