龍宝姉妹
「ヒーラーで、ソロなんて珍しいね。サポーター系は、少なくとも前衛ポジとデュオとかが相場なんだけど……しかも、学生ぐらいの年齢だったよね?見た感じ。うーん、怪しい」
名探偵ばりに、
そんな俺たちの横を天馬先輩たちが、会釈をしながら通り過ぎていく。その後ろをピッタリとついていたのは龍宝モモカだ。
その姿を見たアスカが、何かに気付いたように呼びかける。
「あっ、モモカ」
「ん?何よ!?七海アスカ!」
「サクラは、元気でやってる?」
「えっ!?まぁ、元気だけど……急に、何よ?」
アスカの質問に動揺したのか、いきなり挙動不審になるモモカさん。
「何って、別に。気になったから、聞いただけ……どしたの?そんなに、慌てて」
「あ……慌ててなんて、ないから!急に、話しかけてこないでよね!!」
「あっ、ちょ……!」
無理矢理、話を遮るように立ち去ってしまう龍宝モモカを見送り、アスカは軽い溜め息を吐いた。
そんな彼女に、俺が尋ねる。
「サクラって、誰?」
「モモカのお姉さん。龍宝オーナーには、二人の娘がいるの。サクラと、モモカ」
「龍宝姉妹か……二人とも、面識あるの?」
「うん。どっちかっていうと、サクラとの方が仲は良かったかな。モモカは、あの通りカケルにべったりだったから」
俺たちの会話を聞いていた西郷くんが、業を煮やして割り込んできた。
「いつまで、立ち話しとんねん。どっか、落ち着くとこ行かへん?小腹も、空いたしやな〜」
「はいはい。確か、ここにカフェが併設されてるはずだったから、そこでも行く?」
「そんなんまで、あるんかいな!?さすが、資金力トップのギルドやな。ほな、行こー!」
というわけで、俺たちは“ミストルティン”内にあるカフェへと移動した。ギルドメンバーじゃなくても、中に招待された者なら誰でも利用可能らしい。
しかも、値段設定も普通のカフェよりも良心的に設定されている。
それぞれ、注文したドリンクや軽食を持って、テーブルにつくと、再び会話は“龍宝姉妹”の話題に戻った。
「その、サクラちゃんって子も冒険者なん?」
頼んだココアを飲みながら、周防さんがアスカに聞く。
「冒険者を志願してるらしいんだけど、父親から止められてるみたい。最後に会ったのは、二年前くらいだから……今は、どうかは分からないけど」
「そうなんや。でも、妹さんにの方には、お許しが出たんやんな?」
「うん。龍宝家には男の子がいないみたいだから、サクラを跡継ぎにしたいとかなんだと思う。レアなユニーク持ちらしいのに……」
財閥の令嬢に生まれた上に、レアスキルまで持ってるとは、天は二物を与えすぎだろ。
でも、冒険者になれないんじゃ、戦闘系のスキルとかだったら宝の持ち腐れになるのか。それは、確かに勿体無いな。
がっつりとホットサンドをかぶりつきながら、西郷くんが全くどうでもいいことを質問する。
「で……その、サクラちゃんて子。可愛いん?」
「お前、そんなんばっかりだな。ま、可愛いんじゃない?二年も経ってるから、多少は変わってると思うけど、モモカも綺麗になってたし。性格は、置いておいて」
「ほーう、それは耳寄り情報やん。お姉ちゃんの性格も、あの妹みたいに騒がしいん?」
「ううん、全く真逆だね。大人しくて、人見知りって感じ。姉妹で、こうも性格が変わるのか……って、思うぐらい」
そうなんだ。まぁ、長女と末っ子では性格が変わってくるとも言うし、育ってきた環境の違いも関係してるのかもしれない。
それを聞いた西郷くんは、ホットサンドを平らげて何かを画策し始める。
「あかん、ますます気になってきたわ。探して、声を掛けてみよかな」
「やめとけ。あの姉妹には、元凄腕冒険者の執事が常にボディーガードとして張り付いてるから、見つかったら瞬殺されるぞ?アンタくらいの実力だったら」
「げっ、マジかいな……執事?そういや、モモカちゃんの近くにタキシードを着た変なオッサンが付いて回っとったな。アイツか」
その言葉に、すかさず相方の周防さんがツッコミを入れた。
「タキシードを着た変な男は、アンタやろ。しかも、執事でも何でもあらへんし」
「や、やかましわ!せっかく、忘れとったのに思い出さすな!!」
いつも通りの二人のやり取りには構わず、京極さんがアスカと話し始めた。
「それは、そうと……結局、連携は取れなさそうやったね。うちらの部隊は」
「うん。まぁ、予想はしてた。フリーランスの助っ人は、大抵はソロで活動してるのもあって、チームプレイを苦手としてることが多いんだよ。オマケに活躍次第ではボーナスも出るから、みんなが良いとこ取りしようと必死だし」
「ほんなら、明日の作戦は?」
「あの人達には、好き勝手に前線で暴れてもらう。私たちが、サポートに徹する……それで、丸く収まるんじゃない?」
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