作戦会議・2

「そこで、まずは部隊を大きく四つに分けて、四体の使い魔たちを引き離し各個撃破できる状況を作り出します。それに関しては、ヘイトコントロールの出来る冒険者を一人ずつ各隊に配置して、対処する予定です」




 ヘイトコントロールとは、ユニークスキルや秘宝アーティファクトを使って、敵に自身を狙わせる行為である。

 主に敵を誘導したり、仲間の身代わりに攻撃を引き受けたりできるので、強力な敵が複数出現するミッションなどでは、重要となってくる行動だ。


 天馬先輩の後、鹿沼さんが続ける。





「部隊の詳細については、この後に資料を配布します。大まかには、天馬さんが率いる『エクスプローラー』A部隊、鳴海ソーマさんが率いる『エクスプローラー』B部隊、牛久ダイゴさんが率いる『エクスプローラー』C部隊、そして助っ人の皆さんによる傭兵連合のD部隊に分けるつもりでいます」




 全員に部隊分けの詳細が書かれた資料が配布される。助っ人の俺は、もちろんD部隊だ。


 D部隊のリーダーは決まってないのだろうか?

 そう思っていたら、ちょうど天馬先輩が教えてくれた。




「ちなみに、D部隊の指揮は七海アスカさんに任せたいと思ってるんですが……やってくれるかな?」



「まぁ……別に、いいけど」





 頬杖ほおづえをつきながら、面倒くさそうにアスカが答えると、天馬先輩はニッコリと微笑んだ。





「なら、決まりだ。ちなみに、担当する敵と同じ部隊メンバーの各ポジションも資料に記載しておいたので、各自確認をして下さい」





 そういえば、隣の子も助っ人なんだよな。

 名前は、載ってるのかな?ちらっと、聞いてみようかな。




「あの……同じ、D部隊ですか?」



「えっ、あ、はい!し、白石アヤメです……」



「白石さん……ああ、名前あった!サポーターなんですね」



「はい。一応、ヒーラーです」




 おお、確かヒーラーって貴重なんじゃないか?

 これは、心強い仲間かもしれない。




「凄い。やられた時は、よろしくお願いします。自分、一応……スイーパーやってるんで」



「そうなんですね!憧れます、前衛が出来る人」



「いやぁ、大したことないですよ……はは」




 目だけしか見えないが、美少女だと分かる。

 珍しいマスクをしているが、顔を隠したい理由でもあるのだろうか?

 とはいえ、マスクを取ってみせて下さい……なんて、気持ち悪いこと言えるわけないのだけれど。


 そんなことを考えていると、天馬先輩が締めの挨拶を始めた。




「大まかな説明は、これぐらいかな。敵を引き離してからは各班リーダーの指示のもと、臨機応変に戦って欲しい。ゲートは、既に我々『エクスプローラー』によって保護されています。よって、決行は明日の正午。各自、準備を済ませて、一時間前にギルドホームに再集合して下さい」




 アタックは、明日か。意外と作戦はアバウトなんだな。まあ、事前調査で敵の全ての行動が判明できるわけではないから、決めすぎても予定外の事態に対応できなくなるのかもしれないな。




「それでは、ここでブリーフィングは終了とします。質問のある方は、この後、個人的に聞きに来ていただければと思います。今回は、ご参加ありがとうございました」




 天馬先輩が頭を下げて会議が終わると、助っ人の冒険者たちがぞろぞろと席から立ち上がり、帰りの準備を始める。そんな彼らに、アスカが声を掛けた。




「あの!一応、同じ部隊なんで、当日の動きとか共有しておきませんか?」




 彼女の言葉に、ピタッと動きを止めた熟練の冒険者たちは嘲笑うように返した。




「さっき、リーダーが言ってたろ?各自、臨機応変に動けってな。お前らは、大人の足を引っ張らないことだけを考えておくんだな」




 一人の男がそう言うと、「ぎゃはははは!!」と周囲の冒険者たちも笑いながら、次々に部屋を出て行ってしまう。




「はぁ……ったく。あんな大人にだけは、なりたくないわ。マジで」



「しょうがあらへんね。うちらは、うちらで連携を取って、頑張っていこ」



「……だね。そうしよ、そうしよ」




 半ば呆れ気味になったアスカに、京極さんが優しくフォローを入れている。

 向こうのベテラン達からすれば、俺らは冒険者見習いのような感じに見えてるのだろう。実際に、養成校に通っている生徒だし、仕方のないことかもしれないが。




「それでは、私も行きます。さっきは、ありがとうございました」



「あ、あぁ……どういたしまして、明日は頑張りましょう」




 隣に座っていた白石さんは、俺に対して丁寧に頭を下げると、早足で部屋から出て行ってしまう。

 その瞬間、ふわっと良い香りが彼女の髪から流れてくる。




「……おい、お前。ここは、出会いの場じゃないぞ」




 鼻をひくひくと動かしていた俺に、背後からドスの効いた声が響く。振り向くと、人を殺しそうな眼光でアスカが立っていた。




「違う!違う!あの子が、一人じゃ不安だって言うから!!」



「ふーん。あの子、ソロだったんだ……何者?」



「えっと、白石アヤメさん?サポーターで、ヒーラーっぽいよ」

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