エクスプローラー・1

 中世ヨーロッパのギルドハウスをモチーフとして作られた『エクスプローラー』のギルドホームは、オーナーズルームや団員の居住区はもちろん、武器の製造施設やレストラン、スパ施設などなど万全なサポート体制が整った理想のホームであった。




「実はワイ、初めてやねん。こういう大型の集まり」




 来たるレギオンレイドに向けての説明会に参加する為、『エクスプローラー』のギルドホーム“ミストルティン”に招集された俺たち。


 何故かタキシード姿の西郷くんが、まるで都会に初めて来た田舎の少年ばりにキョロキョロと案内された会議室を見回している。

 そんな彼を見て、周防さんは呆れ顔でツッコんだ。




「いいから、はよ好きなとこ座り。その格好の人間と一緒にいるだけで、恥ずかしいんやから。こっちは」



「何でやねん!普通、こういう場は正装やと思うやろ!?」



「正装にしたって、何でタキシードやねん!舞踏会か!!よう持ってたな、ほんで」




 しばらく見ない間に、やり取りが洗練されてきてるな。いっそ、漫才動画でも出せばいいのに。


 見渡すと、他の参加者たちもチラホラと姿が見受けられる。年齢層は高めで、ベテランの冒険者が集まっている印象だ。やはり、上位のダンジョン攻略となると経験者が多くなるのだろうか。


 目立たないよう、先頭の端っこに座る我々一行。



 すると、入口の方から甲高い声が響き渡る。




「あー!七海アスカ!!」




 白のゴシック・アンド・ロリータなファッションをしたドールチックな少女が、こちらを指差し叫ぶと、ずんずんと鼻息荒く近付いてくる。

 心当たりがあるのか、名前を呼ばれていた当の本人は厄介な奴が来たとばかりに、小さい溜め息を吐いた。




「知り合い?」



「……龍宝モモカ、ここのオーナーの娘。前に何回か、『エクスプローラー』のレイド戦に参加したことがあって、面識はあるんだけど」




 アスカが説明してくれてる間に、その“オーナーの娘”は俺たちの前まで到着していた。




「久しぶりね、七海アスカ。また、に取り入って、のこのこと現れたの?」



「だから、呼ばれたから来てやっただけだっつの。あと、フルネーム呼び捨てやめて?」



「幼馴染だか何だか知らないけど、しつこくカケル様に粘着しないでもらえる?彼も、きっと困ってるわ!」



「人をストーカーみたいに言うな!アンタこそ、カケルのこと好きすぎて、厄介ファンみたいになってるから。気をつけた方が良いんじゃない?」




 バチバチにガンを飛ばしあいながら、言い合う二人。仲が良いわけでないのは、理解した。

 あと、ゴスロリ少女が“天馬カケル”のファンガールらしいということも。

 そんな口論が繰り返されると、周囲に座っていたコワモテ冒険者の一人が立ち上がって、怒声を上げた。




「やかましいんだよ、ピーチクパーチク!ここは、ガキ共の遊び場じゃねえんだ!!女子供は、とっととおうちに帰りな!!!」




 そんな言葉に、二人の少女は鎮まるどころか怒りのベクトルを一斉に、その男性冒険者へと向ける。

 まずは、アスカが。




「うっさい!女子供って、いつの時代の人間の差別よ。うちらの実力も分からないようなら、黙っとけ!!この三流冒険者!!!」



「な……なにぃ!?」




 次に、ゴスロリガールが。




「誰に、喧嘩を売ってんの?私は、龍宝モモカ!ここのオーナーの娘だぞ!?こらー!!」



「え……ええっ!?」




 さすがに、オーナーの娘と聞いては強く出れないと観念したのか、しおしおと男は黙って着席した。

 なんだか、ちょっぴり可哀想な気もする。


 そんな中、異様なオーラを放つ集団が部屋に入ってきた。





「何があったか、知らないが……穏便に、頼むよ?短い期間とはいえ、今から我々は背中を預け合う仲間なんだ。いがみあうのは、よろしくないな」





 集団の先頭にいた美青年が話し出すと、一斉に場内がザワつき始める。





「あれが……天馬カケルか」



「何度も、高レベルのダンジョンを制覇に導いた『エクスプローラー』の若きエース……まだ十代らしいが、既に風格もある」




 ベテラン冒険者たちも一目置く存在・天馬カケルは一言でその場の空気を自分のものにしていた。


 その後ろについてきていた人たちも、よく見ると見覚えのある顔に思える。そういえば、体育祭の棒倒しで戦ったアスカたちのクラスの面々だ。

 みんな、『エクスプローラー』に所属していたのか。




「カケル様っ!!」




 一直線に天馬カケルに駆け寄っていた、龍宝モモカは勢いよく彼に抱きついて、周りを再びザワつかせた。




「モモカ嬢。おおやけの場で、こういうことはやめてくれと前々から言ってるだろう?」




 優しく彼女の体を引き離しながら、注意を促すカケルにご令嬢はぷくっと頰を膨らませて、不満げだ。




「いいじゃん、別に!ハグなんて、海外じゃ挨拶みたいなもんだよ!?」



「ここは、日本だ。とにかく、キミも冒険者なら大人しく席に着きなさい」



「ちぇっ。わかりましたよ〜」






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