龍宝財団

 龍宝財団・オーナールーム



「ダンジョンカメラの売上は今もなお、伸びております」



「そうか。我々だけで占有しないで正解だったようだな」



「はい。さすがは、タイジュ様の先見の明にございます」




 純白のスーツを身に纏った貫禄のある白髪の中年男性は、龍宝財団お抱えの執事である藤村ロイドから渡された報告書に目を通していた。




「ダンジョンは、馬鹿な一般人にとって格好のオモチャだからな。大々的に宣伝すれば、すぐに釣れてくれると思ったさ」



「加えて、『エクスプローラー』のライブ配信における広告収入も上々であります」



「いよいよ、私のギルドが日本のトップに立つ基盤も、整ってきたか。そういえば……近く、レギオンレイドがあるんだったな」




 眼鏡を外し、目を通していた資料を置くと、前に立っていた執事に目配せする龍宝。




「はい。明日、ギルドホームにて全体集会が開かれるようです」



「そうか。今回は、他ギルドに協力要請をしているんだったな。『漆黒の鎌』……いや、今は『白銀の刃』な改名したのか」



「そうです。あとは、フリーランスの冒険者が十数名。団長は別件のゲート攻略を抱えているので、今回は天馬さまが陣頭指揮を取ることになっております」



「天馬カケルか……アイツは、いずれウチの大黒柱となる男だ。どんどん、経験を積ませておけ」




 全く隙の無い佇まいで立つタキシード姿の老紳士・執事の藤村ロイドは、静かに雇い主である龍宝タイジュの話を聞いている。




「あと、今回のミッションにはモモカ様も参加なされるようですが……いかがいたします?」




 龍宝タイジュには、二人の娘がいた。

 龍宝サクラと、龍宝モモカである。




「いつも通り、お前が護衛についていれば問題なかろう。モモカは基本、自由にさせている。好きにやらせておけ」



「かしこまりました。サクラ様も、参加を希望していましたが……」



「それは、ダメだ。あの子に、冒険者をさせるつもりはない。いずれ、私の跡を継いでもらわなければならないのだからな」




 龍宝タイジュの子供に、男は生まれなかった。

 だからこそ、サクラには自分亡き後の財団を任せようと考えていた。




「かしこまりました。では、そのように」



「あの子は、亡き母親に似て聡明だからな。モモカの方は、私に似て好奇心旺盛に育ってしまったが……」



「はっはっは。そうですね」



「ふっ。どちらも、天賦のユニークは持って生まれては来たのだがな……サクラは、性格的にも冒険者は向いておらん」




 そんな二人の会話を扉越しで、ひっそりと聞いていたのは、猫の着ぐるみパジャマを着用したツインテールの少女・龍宝モモカであった。

 一通り、話を盗み聞くと彼女は足音を立てないよう、ひっそりと部屋の前から退散した。


 しかし、そんな僅かな気配を察知したのか、有能な執事がピクリと眉を動かすも、その足音で何者であるかを察し、何事も無かったかのようにオーナーとの話を再開するのであった。




 コンコン




 その足でモモカが向かったのは、姉であるサクラのいる部屋だった。静かにノックを数回すると、中から白いネグリジェを着た大人しそうな少女が恐る恐る顔を覗かせる。




「モモカちゃん?どうしたの、こんな時間に」



「とりあえず、中に入れて!話は、それから」




 モモカはキョロキョロと来た道を警戒しながら、半ば強引に姉の部屋へ、自分の体を滑り込ませた。




「ど、どうしたの?一体」



「パパが、藤村さんと話してるのを盗み聴きしてきちゃった」



「えっ!?お父様の話を?」




 サクラの部屋は必要最低限の物以外は、ワンポイントで花やぬいぐるみが飾ってあるだけの、女子としては至ってシンプルな内装となっていた。




「やっぱり、お姉ちゃんをダンジョンに行かせるつもりはないって」



「そう……仕方ないよ。覚悟はしてたから、大丈夫。わざわざ、ありがとうね」



「ちょっと、ちょっと!もう、あきらめちゃうの!?一緒に、冒険者になろうって言ってたじゃん!!」



「うん、そうだけど……私には無理かもしれない、やっぱり。性格的にもそうだし、ユニークスキルだって戦える物じゃないし……」




 顔を下に向ける姉の両頬を手でむにっと持ち上げると、励ますように妹は言った。




「何、言ってんの!お姉ちゃんのユニークは、世界で四人しか持っていないの一つなんだよ!?めちゃくちゃ、レアじゃん!!」



「そ、それは……でも、お父様が反対してるのなら、どうしようもないよ」



「いいや!お姉ちゃんは、アピールが足らなすぎ!!もっと熱意を示せば、パパだって納得してくれるよ。絶対」




「熱意……か」




 元気いっぱいのモモカは、自分の腰に両手を当てて、しばし考え込むと……ひとつの名案を、思いついたらしい。




「よーし!モモカ、良いこと思いついた!!」



「え……なに?」



「お姉ちゃん。次のレベル4のダンジョン、黙って参加しちゃおう!だーいじょうぶ!!私に、ドーンと任せておいて?」



「ちょ、待って!まだ、何も言ってないよ〜!!」




 こうして、龍宝姉妹の密かなミッションが誰にも知られることなく、ひっそりと開始された。












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