花火大会・3

 出店が並ぶ通りに来た俺たち。射的の屋台で、アスカがクマのぬいぐるみの景品に狙いを定めている。




「あ〜、クソっ!!」




 とても、ぬいぐるみを欲しがってる女子の悔しがり方とは思えない。彼女の撃った弾は全て、残念ながら何の景品にも当たらず、ハズレに終わった。




「惜しい。ドンマイ」




 激励の声を掛けると、彼女はコチラをジッと見つめて、射的銃を預けてくる。




「あとは、頼んだ。おっちゃん、もう一回!次は、この人がやるんで!」



「えぇ……俺!?」



「可愛い子の為に、サッと取ってくれるのがイケてる男子ってもんでしょ。頑張ってくれたまえよ?」




 屋台のおじさんに電子マネーで支払いを済ませながら、俺に発破をかけてくるアスカ。

 射的はレトロな感じなのに、支払いは近代的なんだな。




「へい、毎度ありー。彼氏さん、頑張ってねぇ!」



「か、彼氏!?」




 店主の言葉に動揺する俺とは対照的に、アスカは無反応で俺の真横に来るとガッと強く肩を掴んでくる。




「いいから、集中!目標は、あのクマさんね。チャンスは三発、絶対に落とせ」



「プレッシャーえぐぅ……」




【虚飾】を【射撃(拳銃)】に代えれば楽勝なんだろうけど、さすがに卑怯なので気が引ける。

 正々堂々と、やるしかないな。




 ポン!




 あ……普通に、一発で命中した。ゲットしたクマさん人形をアスカに手渡すと、彼女は喜びより驚いた表情を浮かべている。




「はや!ユニーク使った?」



「いや、使ってないよ!正攻法で、やりましたから。ちゃんと」



「ふーん。じゃあ……あと、二回はご自由にどうぞ」




 ポン!ポン!!




 適当に撃った残り二発も見事に、お菓子とオモチャに命中した。あれ?もしかして、俺って射撃の才能があるのかも。

 いや、何回か【射撃(拳銃)】rank100を代替した時の動きを、体が覚えていたのかもしれない。


 そう考えると(格闘)や(刀剣)の基本能力も、知らず知らずのうちに上がっているのか?だとすると、【虚飾】を使うだけで大量の経験値を積めるということになる。




「あれ?周防さんたちは!?」



「先に行って、場所取りしてくれるって」



「ああ。そっか、そっか」




 アスカは、取ってあげたクマのぬいぐるみを嬉しそうに眺めている。こう言ったらアレだが、どこにでもあるような安っぽい人形なのに、ここまで喜んでくれるとは。

 こういう女の子チックな物が好きだというのも意外だった。




「見て見て、ユウト。いい感じに、ブサイクじゃない?このクマ。かわいい〜」



「え?う、うん」




 不細工なの?可愛いの?いや、ブサカワってヤツか。そういうのが、好きなのか……まぁ、喜んでくれてるならいっか。




「てか、遊びすぎたね……めっちゃ、混んでる。これ、間に合うかな〜?」




 人混みが凄すぎて、なかなか前に進まない。

 技術も進歩してるはずなのに、いまだに混雑解消の画期的発明は成されていないらしい。

 まあ、こういうのも込みで風情というのかもしれないが。




「はぐれないでね?ちっちゃいんだから」



「おい、こら。どういう意味だ?」



「え、心配してるんスよ。やだな〜」




 ちょっと怒ったそぶりを見せながら、可愛らしいグーパンチで俺をポコンと殴ってくるアスカ。

 最近、彼女のイジっていいラインというものを見極められてきたような気がする。




「おっとっと!」




 人混みに押されて、彼女が慌てて俺の腕を掴んでから。やっぱり、小柄だと人の波に巻き込まれちゃいそうで怖い。




「大丈夫?手でも、握っとこうか?」



「やだよ。カップルに見られちゃうじゃん!これで、いい」



「あぁ、そうですかい」




 腕を掴んでる状態でも、十分にカップルと間違われそうだが、そこはあえてツッコむまい。

 と、いうか……このままだと、みんなの所に着くまでに、開会の時間になってしまいそうだ。


 すると、上空から音が響いて、その場にいた人々が立ち止まって、一斉に空を見上げた。


 そこへ、綺麗な花火が上がる。



 この時代の技術なら、もっと奇抜な花火も出来そうなものだが、それは昔ながらのシンプルなものだった。

 なのに、なぜか心を打つ。

 時には、余計なことを加えなくても良いことはあるのだ。こういうのでいいんだよ、こういうので。




「綺麗……ここからでも、まぁまぁ良く見えるね。良かった〜」




 そう言って、瞳をきらきらさせながら花火を見上げる彼女の横顔は、普段よりも輝いて見えて、なぜかドキッとしてしまった。


 もうすぐ、夏も終わるのか。


 空中戦艦でバトルしたり、ダンジョンで無人島生活したりと色々あったが、それなりに夏っぽいことも出来て、充実した日々を過ごせたと思う。


 何より、近くには沢山の友人たちもいた。

 願わくば、来年は彼女なんかと花火大会をまわりたいものだが……。


 俺は、再び横にいた美少女の顔をチラリと覗く。


 まぁ、今でも十分に贅沢か。前世に比べれば、な。




 連続で色とりどりの花火が上がると、自然と周りから拍手が巻き起こり、俺とアスカも気付けば手を叩いていた。

 最後に、夏らしい思い出が出来て良かった。うん。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る