花火大会・2

 花火大会に向かう道すがら、俺が呼ばれた本当の事情を京極さんから説明される。




「レギオンレイド?」



「そう。龍宝財団の『エクスプローラー』が、レベル4のダンジョンを見つけたらしいんやけど、敵戦力が予想以上に多かったみたいで、助っ人を募集しとるんよ」




 レギオンレイドとは、人数が必要とされる大規模戦闘の総称である。林間学校の最終戦に近い状況だと思うが、今回の場合はレベル4のダンジョンということで敵の強さも跳ね上がるはずだろう。


 すれ違う浴衣女子を目で追いながら、西郷くんが会話に加わってきた。




「そこで、お声が掛かったのが、ワイら『白銀の刃』っちゅうこっちゃ」



「へ〜。なんで?」



「それは、もちろん……この、西郷マサキの力を頼りにしてやろ!」




 鼻息荒く答える西郷くんは、ボケた感じではなく本気の様子だった。聞く相手を間違えた。

 すかさず、周防さんがフォローを入れてくれる。懐かしいな、この感じ。




「んなわけないやろ。龍宝財団とは、前身の『漆黒の鎌』時代から親交があったみたいやで?うちのギルド。ほんまは、同じ規模のギルドには協力要請は出さへんねんのが業界の風習やねんけど……ほら、ね」




 言わずとも察してくれといった感じで目配せを送ってくる周防さん。

 昔は五大ギルドの一つと数えられていた『白銀の刃』だが、現勢力的にはそこまでの勢いは無くなっているだろう。だからこそ、声を掛けられたのかもしれない。


 そして、京極さんが話を続ける。




「せやけど、うちらも別ダンジョンの攻略を準備中で、そこまで人手が割けへんねん。そこで、こっちはこっちで助っ人をスカウトしようっていう話になってな」



「助っ人の、そのまた助っ人ってわけか。それで、俺とアスカに白羽の矢が立った……と」



「うん。ちなみに、アスカちゃんはお相手から直々のご指名やけどな」




 俺が反射的にアスカの方へ顔を向けると、彼女は小さく溜め息を吐きながら、釈明を始めた。




「お相手ってゆーか……“天馬カケル”から直接、頼まれたんだけどね。幼馴染を、何だと思ってるんだか」




 あぁ〜、そういうことか。天馬先輩も、『エクスプローラー』所属だったな。しかし、幼馴染とはいえ直々の指名とは……よほど、アスカの実力を買っているのだろう。




「それで、アスカは引き受けたの?もう」



「ユウトがやるなら、やる。真面目な話をすると、こういう大型レイド戦の経験が出来る機会って貴重だから、参加するだけでも価値はあると思うんだ……どうする?」




 確かに。さすがの学園でも、ここまで高レベルのレイド戦は経験させてもらえないか。冒険者としては、やっておくのもアリかもしれない。




「わかった。良い経験だと思って、参加させてもらおうかな」



「ほな、決まりやね。一応、バイトのようなもんやから、日当は出るで。その代わり、秘宝を入手できる権利はあらへんけどな」



「あくまで、主役は『エクスプローラー』って、ことだね。了解」




 俺の返事に、京極さんも苦笑しながら頷いた。

 そんな彼女の気持ちを代弁するように、西郷くんが心境を吐露した。




「ほんまは、ワイらかて敵対ギルドの引き立て役なんて、まっぴらごめんやで?せやけど、下手な日雇いバイトより稼げるんよな〜。これが」



「あ、そうなんだ?」



「しかも、『白銀の刃』の母体にもカネが入る。うちらの現状は、活動資金の調達にも苦労してる状態やからな。ほんま、弱小ギルドの辛いところやで」



「弱小って……今でも、大手のギルドには変わりないでしょ」




 色々と、西郷くんたちも大変そうだな。芸能人がスキャンダルから復帰するようなもんか。下手な悪評が立つと、払拭するのにも時間が必要なのだろう。

 そう考えると、ギルド運営も難しそうだよな。俺なんかに、出来るのだろうか?


 ちょっと暗くなった空気を、笑顔の周防さんが変えてくれる。




「まぁまぁ!とにかく、二人が協力してくれるんなら、勝ったも同然ちゃう?微力ながら、私もいるし」




 そんな彼女に、ハッと気付いてアスカが答えた。




「そっか。そういえば、ホノカも今は『白銀の刃』を抜けてるんだったね。同じ、助っ人枠か」



「そうやで〜。二人ほど活躍は出来ひんかもやけど、私も冒険者養成校ゲーティアで少しは成長したと思うから。役には立てると思うんやけど」



「ほう、自信満々じゃん。何か、新しく修得した?」



「んー、新しく修得したというより、ユニークスキルの応用を覚えたって感じ。まぁ、楽しみにしてて!」




 ユニークスキルの応用か。確かに、大事だ。

 むしろ俺の場合、それだけでここまで来たような節もあるからな。

 すると、西郷くんも何やら俺に睨みを効かせて。




「林間学校では、良いところを持ってかれたからのう。ここでは、借りを返させてもらうで!植村ぁ」



「あ、そっか。西郷くんはミドルクラスだから、参加してたんだ……全然、見なかったから忘れてた」



「うぐっ!お前……煽るの、上手くなったやんけ」




 余談だが、西郷くんらの所属するミドルクラスBはクラーケンと突然のエンカウントをしてしまい、運悪く半壊状態になってしまったらしい。

 煽るつもりは無かったんだけど……なんか、ごめん。







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