第9章 レギオンレイド

花火大会・1

 色々あった夏休みも、あっという間に過ぎ、もうすぐ新学期が始まろうとしていた。

 そんな中、俺は最後の夏の思い出作りとして、とある駅前で人を待っていた。


 日が暮れかけているが、駅前は様々な人でごった返している。それというのも、今日は近くの河川敷で花火大会があるのだ。

 江戸時代から始まる伝統は、この時代でも続いていた。浴衣姿のカップルも多いが、俺は普通のラフな服装で着てしまった。そもそも、持ってないし。



 待ってる間も退屈なので、動画を鑑賞しながら時間を潰す。今、話題のダンジョン攻略・ライブストリームだ。


 実は、ついに龍宝財団がダンジョン内の映像を記録できる最新鋭ビデオカメラの開発に成功したのだ。

 その技術を一般に流通させたことで冒険者事情も、ちょっとした革命が起きていた。


 まず、ギルドの下見にかかるコストが大幅に軽減したと共に、“ストリーマー”という新たな記録専門のポジションが設立される。

 そして流行り出したのが、ダンジョン攻略のライブ配信である。


 龍宝財団の『エクスプローラー』が、初のライブをしたことが話題を呼び、再生数を稼いだ。

 それに続くように中小ギルドも配信を始めて、一般人までもが肝試し感覚でダンジョンに潜るようになったのだ。

 良くも悪くも、ダンジョン攻略自体が稼げる時代に突入し、ギルドの資金稼ぎは楽になったと思われる。もちろん、再生数は潜る冒険者の人気や知名度にも、依存するが。




「うわああああっ!!」




 陽気な一般人の配信者が、クリーチャーに殺される。下手なスプラッタより、恐ろしい。

 一応、R指定はされてるものの、嫌なものを見てしまった。死ぬ恐怖に怯える冒険者だっているというのに、この度胸だけは見習いたいものだ。

 ちなみに、それなりの視聴者数が記録されていた。

 需要というのは、どこにでもあるんだなぁ。





「ユウト?」




 動画に夢中になってると、いきなり名前を呼ばれてハッと立体映像を切る。すると、目の前に現れたのは、浴衣姿のアスカであった。


 そう、待ち合わせの相手は“七海アスカ”だった。

 あとは、『白銀の刃』の面々が、後から合流する予定。





「ああ、久しぶり。浴衣で、来たんだ?」



「花火大会と言ったら、浴衣でしょ。お母さんの、お下がりなんだけどね……どうかな?似合ってる!?」



「うん、似合ってる。めっちゃ、可愛い」



「ちょ!う、嬉しいけど。そんな、ストレートに言われると、逆にさぁ……」




 頬を赤くしながら、満更でもない感じでモニョモニョと何か喋っている彼女。俺としては、思ったことを言っただけなんだが、なんだかんだ喜んでくれたようで安心した。




「ユウトは、着てこなかったんだ?浴衣。ちょっと、期待してたんだけどな」



「えっ、そうなんだ?あれば、着てきたんだけど……家に、なくってさ」



「そっか、残念。結構、似合いそうだったのに」




 父親のお下がりすら、無かったもんなぁ。まぁ、俺が産まれた時から海外だから、無理もないけど。




「周防さんたちは、まだ来てないみたい」



「そっか、そっか。まぁ、混んでたもんね〜。始まるまで時間あるし、気長に待っとこ?」




 そう言って、彼女は俺の横にちょこんと立った。

 久々に会うアスカは、少し背が伸びてるように感じる。まぁ、成長期だし当たり前か。


 しかし、彼女との会話には慣れてるはずなのに、こうしたシチュエーションで二人きりだと、謎に緊張してしまって、話しかけられない。

 チラリと横を見ると、青と白のコントラストが印象的な鮮やかな色彩の浴衣で、本当にアスカに似合っていた。




「そういえば、ユウト。勧誘は、進んでる?」



「勧誘?ああ〜、ギルドか……まぁ、一応。一人だけは、確実に」



「まだ、一人!?月森さんとか、三浦くんとか……とりあえず、10人までは誰でもいいから声を掛けまくっとけ!いつまで経っても、ギルドが発足できないでしょうが」



「うっ、すみません。夏休みが明けたら、やっとくんで……」




 ギルドメンバーの勧誘か、すっかり忘れてた。

 神坂さんは入ってくれるって約束はしてたけど、あれも俺からスカウトしたわけじゃないからな。

 新学期が始まったら、本格的に誘っていこう。


 そんな反省をしていると、遅れて『白銀の刃』の面々が、揃って浴衣姿で到着した。




「ごめん、ごめん。遅れちゃった〜」




 赤い浴衣の周防さん。

 紫の浴衣の京極さん。

 黄色い浴衣の西郷くん……いや、派手だな!一人。


 てか、俺だけ浴衣じゃないのか。気まず。




「このメンツで集まるん、何気に久しぶりやな。てか、植村だけ私服やん。ノリわるぅ〜」



「西郷くんも、相変わらずそうで何よりだよ……あはは〜」




 正直、一番浴衣の似合っていて艶っぽい京極さんが、俺の顔を見て、にこっと微笑む。




「久しぶりやね、植村くん。今日、呼び出したんは理由があるんやけど……アスカから、聞いとる?」



「へっ?花火大会を、一緒に観に行く……んじゃないの!?」




 慌てて、横のアスカの顔を見ると、わざとらしく吹けない口笛をして、知らぬ存ぜぬといった素振り。


 あぁ……なんか、ハメられたっぽい。






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