アレックス・マクレーン

『ダンジョン・アイランド』攻略から、二日後。




「具合は、いかがです?」



「ハイ。おかげさまで、元気もりもりデース!ただ、病院食が少なすぎて、ちょっぴりハングリー」



「ふふっ。もうじき、退院です。それまでの辛抱ですよ」




 都内にある大病院の一室。アレックスの入院している部屋に、一人で見舞いにやって来ていたのは冒険者養成校ゲーティアの学園長・白鷺しらさぎマイアであった。




「色々と、お世話になりマシタ!こんな、得体の知れない外国人に優しくしてくれるなんて、やっぱり日本人は最高デース!!」



「お世話になったのは、こちらの方です。私の生徒たちを助けてくれたそうですね。報告は、届いています。ありがとうございました」



「ノンノン!やめてクダサーイ!!私は、大人として当然のことをしたまでデス。貴女アナタが、その場にいても助けていたでショウ?」



「そうですが……助けたいと思うのと、実際に助ける行動に移すのとでは雲泥の差があります。あなたの行いは、立派な冒険者だったと思いますよ」




 学園長からのお褒めの言葉に、照れながら苦笑いを浮かべるアレックス。

 そんな彼に、学園長は話を続ける。




「退院なされたら、どうするおつもりですか?確か、今はフリーランスの冒険者として活動しておられるとか」



「ハイ……ですが、それも終わりデス。夢を諦めて、母国に帰ろうかと思ってマース」



「それは……なぜです?」



「今回の件で、自分の弱さを痛感したからデース。特位級の魔物クリーチャーすら倒せないんデス。あなたたちの生徒の方が、よっぽど強かった。心も体も」




 何かを悟ったような表情だが、その横顔はどこか寂しげに感じた。




「いえ。あなたにも才能は、あります。ただ、それを磨く環境が足りてなかっただけでしょう」



「私は、もうすぐ30歳デスヨ?今から、磨いたところで、どうにもなりマセーン。きっと」



「そうやって……また、?年齢を、言い訳にして。今度は、自分の夢から」



「そ、それは……!」




 さきほどまで穏やかな顔だった彼女の眼光は眼帯で塞がれてない片方だけでも鋭いもので、アレックスは思わず合わせた視線を背けた。




「挑戦することに、年齢など関係ありません。もちろん、どうしようもないことだってありますが……あなたの眼は、まだ死んではいない」



「あ、アナタは……一体、私にどうしろと!?」



「私の伝手つてで良ければ、日本のギルドを紹介しましょう。あなたの話をしたら、スイーパー不足で困っているようで、育成枠で良ければ会って話してみたいと言ってくれました」




 そう言いながら、白鷺はギルドの住所や連絡先の書かれたメモを、ベッドで横たわるアレックスに手渡した。




「う、嬉しいデスけど……私は」



「行くか、行かないかは自由です。帰国するのも、良いでしょう。ですが、どちらにせよ……後悔しない選択を、してください」




 アレックスが渡されたメモをジッと見て迷っていると、コンコンと病室の扉がノックされ、一人の生徒が入ってきた。




「お邪魔しま……えっ!?学園長?」



「植村ユウト……か。お見舞いに、来たのかね?」



「は、はい!これから、他の生徒も来る予定なんですが……お取り込み中なら、時間を改めて」



「いいや、構わないよ。ちょうど、話が終わったところだ」




 学園長は、ふっと笑うと去り際に植村の肩をポンと叩き、部屋を出て行く。そして、最後に一言。





「では、アレックスさん。さっきの話、前向きにご検討を……お大事に」





 完全に部屋から去った学園長と入れ替わるように、植村は定番の果物セットを片手に、アレックスの横へと近付いていく。




「お久しぶりです、アレックスさん。お元気でしたか?」



「ユウト。わざわざ、来てくれてサンキューです。私は、すっかり元気デースよ」



「ははっ。それは、良かった」




 植村が持ってきた果物カゴを台に置くと、急にアレックスが深刻な顔をして彼に尋ねる。




「ユウト……私は、冒険者に向いていると思いマスか?」



「えっ!?きゅ、急にどうしたんですか?」



「正直に、教えて欲しいデース。お願いシマス」




 その真剣な眼差しに彼の本気度を感じたのか、しばらく考えて植村は答えを出した。




「自分も見習いなので、向いているかどうかは分かりませんけど……ひとつだけ、言えるとしたら」



「ハイ」



「最後の戦いで、俺は……間違いなく、あなたの背中に勇気を貰いました」



「……!」



「俺にとっては、あなたは……強大な敵を前にしても臆せず立ち向かう、尊敬できる冒険者です。それだけは、自信を持って言える」




 真っ直ぐに、そう言う植村の言葉にアレックスの目尻から自然と涙が溢れた。

 そして、彼は涙が落ちて少し濡れた学園長のメモに再び目を落とす。




「もう一度……冒険者を目指して、頑張ってみマス。今度は、絶対に逃げナイ」



「……?」



「アリガトウ、ユウト。やはり、あなたは……ソウイチロウに、似ている。私に、勇気と希望をくれました」





 学園長に聞かされて、彼は驚いた。まさか、植村ユウトが自分の憧れていたレジェンドの実の息子だという事実に。


 だが、今、確実にアレックスからは、目の前にいる少年と“植村ソウイチロウ”の姿が重なって見えていたのだった……。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る