LV3「ダンジョン・アイランド」・35
「みんな、ご苦労さま!よく頑張ったね」
出口のゲートをくぐり、元の世界へと戻ってきた生徒たちに、拍手と賛辞を送ったのは、見た目は普通の中年サラリーマン。ミドルクラス教諭の田中イチローだった。
担任の突然の登場に、三浦カズキが反応する。
「田中先生。ずっと、ここで待っておられたんですか?」
「いいや、まさか。僕は、ずっとキミらと一緒に島の中にいたよ?もちろん、見つからないようにだけどね」
「ずっと!?監視していたということですか?」
「それも、ある。これが、授業の一環である以上、お目付役は必要だろう?査定も含めて、キミら全員の行動はチェックさせてもらっていたよ」
びっしりとメモの書かれた紙が挟まれたバインダーを、ひらひらと見せながら田中教諭が言った。
確かに、一部始終を見届ける人物がいなければ報酬も出しようがない。
とはいえ、これだけの生徒たちに全く気付かれることなく監視を続けていた彼の【隠密】スキルの高さが伺える。それとも、何かのユニーク持ちなのか。
そんな田中教諭に、今度は弟のレイジが質問をした。
「それで……これからの、段取りは?」
「本来なら、学園長自らが労いの言葉をかけたかったらしいけど、さすがに出てくるまで待ってるわけにもいかなったらしくてね。代わりに、私が総括をさせてもらうよ」
確かに、ダンジョン内でも時間の流れは現実世界と変わらないわけで、こちらでも同じだけの日数が経過しているのだ。いつ出てくるかも分からない生徒たちを待ってるのは、さすがに根気がいるだろう。
そして、田中教諭が話を続けた。
「まずは、ダンジョン攻略おめでとう。経験を積めれば、それだけで十分な収穫だと思ってたけど、本当にクリアしてしまうとは。今年の新入生も、優秀な生徒が揃っているようで、先生も鼻が高いよ」
今回のクリアは、もちろん個々の実力もあるが、それぞれのスキルが要所で噛み合い、運を引き寄せたことも大きかった。誰か一人でも欠けていれば、脱出は成功してなかったと言っても過言では無いほどに。
「では、次に結果発表。一応、全クラスに生存者はいたようだけど、ここは生存者の一番多かったロークラスAに攻略報酬と内部評価を贈呈したいと思う。おめでとう!」
パチパチと拍手する田中教諭に、特に異論を申し出る生徒はいなかった。それだけ、ローAの選出は妥当だと皆が感じているということなのだろう。
「ちなみに、個人的に活躍した生徒たちにも内部評価ポイントは振り分けてある。誰かは言えないけど、これは全てのクラスの生徒に当てはまることだから、ローA以外のみんなも気を落とさないで欲しい。もちろん、戦闘のみならず……サバイバル、作戦立案、サポートなどなど多方面に置いて、目を配っていたからね」
ローA以外の生徒たちが、おおっと湧き上がる。
彼らだって、この数日間、必死に生き抜いてきたのだ。それぐらいの評価は、貰って然るべきである。
「最後に、手に入れた
慌てて、手に入れた秘宝の魔導書を両手に抱えながら、明智ハルカが田中教諭に小走りで近寄っていく。
「それは、キミたちが苦労して手に入れたオタカラだ。ローAの代表者に贈呈することに決まったよ……キミで大丈夫かな?明智ハルカさん」
「い、いえ!私は、ただ代表して開けただけなので……!!」
滅相も無いといった感じで、持っていた魔導書を突き返そうとする委員長の肩に、月森ヒカルが優しく手を乗せた。
「はい!明智さんが、代表者で大丈夫です。ね?みんな!?」
彼女が問いかけると、ほとんどのローAの生徒たちが微笑みながら賛同の意思を示した。
「で、でも……」
まだ、躊躇している様子の委員長に、今度は神坂ナオが最後の一押しをしてあげた。
「なんか、難しそうな秘宝だし。委員長が、一番上手に扱ってくれそうじゃない?それを使って、またクラスのみんなを助けてよ!ね!?委員長!!」
「神坂さん……!」
そんなやり取りを黙って見守っていた田中教諭は、最後にニッコリとした笑みを見せて、その場を締める。
「では、秘宝の所有者は多数決で明智さんに決まりということで。もうすぐ、迎えのバスが来てくれます。皆さん、疲れたでしょう?わずかな時間ですが、ゆっくりと体を休めて下さい。それでは、一旦……ここで、林間学校は修了とさせていただきます。このダンジョンで学んだ多くのことは、後々の冒険者活動において大きな糧となることを祈っています」
プレイヤーキル、長期に渡るダンジョン攻略、上位や特位種の
少なからず、全員の生徒が何かしらの成長を遂げた林間学校は、見事にクリアという最高の形で幕を閉じたのであった……。
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