LV3「ダンジョン・アイランド」・34
作り出した足場をバウンドしながら、突撃してきたワイバーンの後頭部へ加速された蹴りを放つ神坂。
そんな親友が見事に撃墜を成功させた一方で、月森は心臓に向かって落下していく。
すると、危機を察知した心臓から無数の触手が伸びてきて、彼女の全身を捕獲した。
「ヒカル!!」
「う……ぐっ」
両手両足を捕捉され、次に月森の首へと巻きついてこようとする触手。ここで、彼女がリタイアしてしまえば、戦況は一気に劣勢となるだろう。
地上にいる者たちも、何とか救い出そうと支援を試みようとするが、それよりも先に状況を打破したのは捕縛されてる彼女自身だった。
右手のナイフを器用にクルッと回して、まずは手首の触手を切断すると、流れるように首、左手、右足、左足と次々に自らの拘束を解除していく。
【
全ての拘束を解き、再び落下が始まる。
しかし、触手による攻撃も止まらない。
またしても襲いくる魔の手を、今度は接触される前に切り払っていく。
猛攻を退けつつ、ついに辿り着く敵の喉元。
「はあああああっ!!」
そして、ついに突き刺さる即死の短剣・デスブリンガー。その瞬間、巨大な心臓が紫に変色していき、その動きを停止させる。
地上では、骸骨兵軍団が押し込まれ危機を迎えていたが、心臓が止まった瞬間……周囲の景色が、白一色の何も無い世界に変わったのだった。
ミッション クリア
生き残った生徒の目の前に、一つの宝箱だけがポツンと置かれている。
この状況で第一声を発したのは三浦レイジだった。
「これは……月森が、やったのか?」
「うん。何とかね……それで、クリアしたんだと思う」
「やはり、あの島自体が秘宝の番人だったのか。倒してしまったことで、世界自体が消えてなくなった……そういうところか」
みんなが動揺してザワつく中、三浦兄が切り出す。
「さっさと宝箱を開けて、元の世界へ帰るぞ。クリアしたのは、ローAのお前らだ。さっさと、だれか開けに行かせろ」
「よーし!んじゃ、俺様の出番だな!!」
颯爽と腕まくりをして、前へと躍り出たのは山田ジュウゾウだった。ベヒーモスの攻撃を受けたが、気を失っていただけで、リタイアはしてなかったようだ。
「お待ちなさい!ここは、今回の功労者が代表すべきでしょう。出戻りの誰かさんは、引っ込んでおいでなさいな」
「あぁん?誰が出戻りだ、コラァ!」
さっきまでは、息の合ったコンビネーションを見せていた二人だったが、すっかり元の犬猿の仲に戻ってしまったようだ。周囲の生徒も疲れているのか、特に止めようともしない。
呆れながら、神坂が会話に加わる。
「功労者に開けてもらうのは、私も賛成。今回、活躍した人は?もちろん、みんな頑張ってたのは前提だけど」
功労者か。神坂さんの“光の足場”は各所で活躍していたし、月森さんは名誉あるラストアタッカー、霧隠くんも裏MVPと言ってもいい働きっぷりだった。
そう考えると、本当に全員が頑張って掴んだクリアだったんだといえるが……。
「でも、今回は……やっぱり、委員長。明智さんじゃないかな?」
「へっ!?私?何も、してないよ!」
俺からの推薦に、彼女は必死で首を横に振る。
しかし、クラスメイトたちも同意だったようで。
月森さんも。
「うん。私も、委員長で良いと思う。島の謎を解いたのも、最後の作戦を考えてくれたのも委員長だし」
レイジも。
「そうだな。思えば、初日からリーダー役を担ってくれたのも委員長だ。適任だろう」
朝日奈さんも。
「さんせーい!委員長、ドカンと開けちゃって!!」
神坂さんも。
「満場一致っぽいし、決まりだね。お願いしてもいい?明智さん」
さすがに、この空気には逆らえなかったのか喧嘩していた山田くんと綾小路さんも、渋々ながらも納得したような表情を見せた。
みんなから後押しされると、さすがの委員長も申し訳なさそうにコクンと頷いて、静かに歩いて行き宝箱の蓋に手を掛けた。
ギイイイ……
『ヘプタメロンの魔導書』
様々な小精霊を召喚することが出来る魔導書。呼び出せる精霊の数と質は、召喚者の精神力に依存する。使用回数は無限だが、連続した召喚は使用者の神経を疲弊させるだろう。
それは、古びた一冊の本。
書かれている文字も、見たことのないようなものだったが、明智がそれに触れると、不思議なことに理解不能だった文字群が、日本語に解読されて読み取れるようになる。
「これが……このダンジョンの、
そして、宝箱の後方に光の扉が出現した。
おそらく、現実世界へと繋がる出口だろう。
その扉を見て、ようやく緊張が解れたのか、軽く伸びをしながら、レイジが全員に声をかけた。
「さぁ、帰るぞ!俺たちの林間学校は、これで終わりだ!!」
みんなが、やりきった顔で首を縦に振ると、一斉に出口へと向かって歩き出す。
色々あったが、何とか攻略できた。
それぞれが、何かしらの成長を遂げたのは間違いないだろう。
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