LV3「ダンジョン・アイランド」・33
“三浦レイジ”は、もしもの事態に備えて、自分の知り得る限りのローA生徒たちの情報を“明智ハルカ”に渡していた。
彼女の【最適解】は、情報があればあるほど提案できる選択肢が増えていくからだ。さすがの奇策を得意とするレイジでも、緊急事態では即時に名案は浮かばない。ただ、彼女のユニークスキルなら。
瞬時にして、数ある選択肢の中から、最善の策をチョイスしてくれるはず……と、信じていたのだ。
「地の底より、現れ出でよ!地獄の亡者!!」
リィンと召喚ベルを三浦が鳴らすと、大地から無数の骸骨兵軍団が出現する。既に、【最適解】を導き出した明智が通話機能を通して、クラスメイトたちに指示を飛ばしていた。
まずは、三浦の
ただし、下位の
だが、それで良かった。
圧倒的な物量で、少しでも足止めできれば十分だ。
「アルファ!ベータ!……イオタ・バインド、セット!!」
次に、朝日奈の二機のドローンがベヒーモスの近くに陣取ると、光のワイヤーで繋がりグルグルと敵の周囲を各機が逆回転して捕縛していく。
『ヴァルキュリア』の魔改造によって新たに備わった新機能“イオタ・バインド”。
ただ、特位種の中でもベヒーモスのパワーは規格外だった。何重にも巻かれた光のワイヤーを、純粋な力だけで打ち破ろうと筋肉を隆起させる。
これで、一旦は全ての魔物を足止めできた。
いよいよ、作戦の本丸が動き出す。
「ヒカル!行くよ!!」
「うん!!」
神坂の伸ばした手を月森が掴むと、二人は光の階段を駆け上がって、心臓の上空を目指していく。
ワイバーンのいない今、最も安全なのは“空”だった。神坂の“光の足場”を伝って、上空から即死のナイフを突き立てる。
それが、明智ハルカの導き出した【最適解】だった。
【虚飾】が、【ヒプノーシス】rank100に代わりました
「自己暗示:一撃強化……」
“イオタ・バインド”の拘束を今にも破ろうというベヒーモスの眼前では、一人の男が右拳に膨大なオーラを溜めていた。
そう、ベヒーモスを捕縛したのは足止めの理由もあったが、もう一つ。彼に、一撃必殺の準備時間を設けさせることにあったのだ。
そして始まる、魂の詠唱。
「我が一撃は、巨人の如く……全ての壁を、打ち砕く。我が一撃は、巨人の如く……全ての闇を、討ち払う。我が一撃は、巨人の如く……死の
その異様なオーラ量に、初見の者たちは目を丸くする。冷静な三浦カズキも、それは同様だった。
「なんだ、アレは……何を、する気だ?」
「
【虚飾】が、【こぶし】rank100に代わりました
することは、特別に変わったことではない。
ただの単純な右ストレート。
しかし、その一撃は……大量の気が練り込まれた、巨人さえも薙ぎ倒すほどの拳だった。
「
ちょうど、光のワイヤーの拘束を破ったベヒーモスだったが、時すでに遅し。植村ユウトの必殺の一撃が敵の腹部へと命中すると、衝撃に耐えられず、吹き飛ばされるよりも早く、怪物の巨体は光となって霧散した。
(特位級を、一撃で……植村ユウト。これほどとは)
カズキが心の中で感心していると、空から不吉な鳴き声が響き、ハッと視線を上にあげた。
着々と心臓上空まで昇っていた二人のもとへ、どこからともなく再び現れたワイバーンの群れが襲い掛かろうとしている。
それには、弟のレイジも誤算だったのか、珍しく慌てふためいている様子を見せていた。
「馬鹿な!?ワイバーンは、一掃したはず……まだ、身を隠していたというのか?」
「いや、違う。あれも、心臓の力だろう。強制的に周囲の魔物を
「冷静に分析してる場合か!どうにか、できないのか?兄貴!!」
「まだまだだな、レイジ。戦場の指揮官は、常に冷静でなければならない。こういう時こそ、心は熱く、頭は冷やせ」
そう言って、三浦兄は天に向かって両手をかざした。
すると、ワイバーンたちが仲間同士で争い始める。
一体、何が起きたのか分からなかったレイジも、すぐにそれが兄の仕業だと理解した。
「兄貴のユニークスキル……【幻惑】か!」
「簡単な幻を見せることぐらいしか出来ないハズレスキルだが……知能の低い魔物相手には、それなりに効果があるようだな」
同士討ちを始めたワイバーンの間を掻い潜り、ついに心臓の真上まで到達する神坂と月森。
しかし、そこへ幻にかからなかった一体のワイバーンが、大きな口を開けて突撃してくる。
「ヒカル!あとは、任せた……しっかり、決めてよね!!」
神坂は、月森の肩をポンと叩くと繋いでいた手を放し、襲ってきたワイバーンに向かっていく。
「ナオ!?」
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