LV3「ダンジョン・アイランド」・27

「わざと、奴らを山に行かせるよう仕向けたのか?敵の数を、減らす為に……」




 男子生徒の質問に、無言を貫く霧隠に代わって、三浦が口を開く。




「その戦法は、実を言うと俺も考えていた。しかし、良心の呵責があって躊躇していたんだが……俺の代わりに汚れ役として、仕事してくれたってわけだ。コイツはな」



「……汚れ役を買ったつもりは無い。それが、俺たちロークラスが勝つ為に最善の策だと思ったから、実行したまでだ」





 要するに、ミドルクラスの人たちをベイトにするということだ。いくらPK行為を仕掛けてきた相手とはいえ、普通なら躊躇してしまうだろう。

 そういう意味では、霧隠くんは三浦よりも冷酷クレバーに目的を遂行するタイプだといえる。


 真意を知り、黙り込む男子生徒に霧隠くんが続けて語った。





「俺のことは、煮るなり焼くなり好きにしろ。その代わり、必ず……このダンジョンを、攻略してくれよ。そうすれば、俺にも評価が入るからな」



「ふん……正直、お前のやり方は認めない。ただ、そのは認めてやってもいい」





 完全に霧隠くんから離れて、許した様子の男子生徒に今度は三浦が話しかける。




「何も、処罰は下さずか?」



「悔しいが、俺たちクラフト班の戦力は微々たるものだ。頭数は一人でも多い方が、良いだろ?コイツには、最後まで一緒に戦ってもらう……そういう処罰だ」




 彼の言葉に、霧隠くんも思うことがあったのか、飄々とした表情から、神妙な面持ちへと変わった。


 そんな男子生徒に、三浦が続ける。




「では、そうするとしよう。ただ、これだけは覚えておいてくれ。お前たちクラフト班のサポートがなければ、探索班も十分な英気を養うことは出来なかった。適材適所という言葉があるが、ダンジョン攻略に必要なのは決して戦う力だけじゃない」



「へぇ……意外だな。もっと、クールな奴だと思ってたが、そういうフォローもしてくれるんだな」



「一言、余計だ。多様な人間性や各々のスキルを認め合い、協力する。どんなダンジョンを攻略するにも、必要なことだ。この林間学校を通じて教えたかったのも、こういうことだったのかもしれんな……考えすぎか」




 照れくさそうに笑って誤魔化す三浦。

 普段は冷静沈着だが、冷徹になりきれないところも含めて、人間らしい優しい部分も持ち合わせている。コイツがロークラスAをまとめてくれていたのは確かな事実だ。もしかしたら、人の上に立つ資質を持っているのかもしれない。


 すると、完全に怒りを鎮めた男子生徒が倒れていた霧隠くんに手を伸ばした。




「立てよ。一旦、これで手打ちだ。最後くらい、一致団結して終わろうぜ」



「ふん。散々、人を抑えつけておいて、よく言えるな。だが、そうだな……協力してやっても、いいだろう」




 二人は、いがみ合いながらも笑顔を交わした。

 何とか、争いは収まってくれたようだ。


 そして、三浦がその場にいる男子たちに呼びかけた。




「よーし、お前ら!今、海で女子たちが姿で海水浴を満喫中らしいぞ?決戦の前に、目の保養といこうじゃないか!!」



「「「うおおおおおおっ!!」」」





 三浦の言葉に興奮しながら、一斉に海岸へと駆け出していく男子たち。いや……結局、エロが世界を救うんかい。まあ、団結したなら良いか。




「セーシュンですネ。良い仲間を持って、うらやましいデース」



「アレックスさん。見てたんですか?」



「私が止めに入ろうとしたんですケド、その必要は無かったようデスネ。皆サン、若いのに立派な方々ばかりダ。見習わなくちゃ、ナリマセン」



「あの……アレックスさんも、俺たちと一緒に行きましょう!明日、この島の心臓部へ!!」



「私も、誘ってくれるんデスカ……?」



「アレックスさんの情報があったからこそ、俺たちも真相に近付けたんです。一緒に攻略して、この島から抜け出しましょう!」




 何より、アレックスさんが加わってくれれば戦力的にも頼もしい。あの心臓部が本当に攻略ポイントなのかは分からないが、このままソロで探索を続けていても時間を浪費してしまうだけだろうからな。




「……ワカリマシタ。ぜひ、協力させてクダサーイ!私も、この島から脱出シタイ!!モチロン、リタイアではなくクリアをして」



「はい!クリアして、一緒に脱出しましょう!!」



「ユウト。本当はね、私は……怖かったんデス。自分で死ぬのも、魔物に殺されるのも怖かった」



「え……?」




 いつもは、堂々と立っていた彼が、めずらしくバツの悪い顔をしながら、本音を語り出した。




「プライドなんて、真っ赤な嘘デス。私は、ただの臆病者。優秀な冒険者の家系から逃げるように日本に来て、そこで挑んだダンジョンでは死に戻りする勇気もなく逃げていた。冒険者失格なんデス、私という人間は」



「……!」



「でも、あなたたちの奮闘する姿を見て、自分が純粋に冒険者を目指していた頃の情熱が蘇ってきまシタ。もう一度。もう一度だけ、勇気を振り絞って……冒険者としての自分を、取り戻したいんデス!」

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