LV3「ダンジョン・アイランド」・28

 秘宝『1WAYジャンパー』。レベル2の転移系アーティファクトで、見える範囲の地点なら、どんな場所でも一瞬で転移することが出来る。

 このブルゾンを羽織った人間が、目的地を肉眼で凝視することで転移が発動。その者に間接的にでも触れることで、大人数での転移も可能となる。

 制限は一方通行であることと、一週間に一度しか使えないということ。使用から一週間が経過することで、再使用が可能となる。



 ミドルクラスの生徒が所持していた、この秘宝を使って三浦カズキたちは、ロークラスAを出し抜き、島の心臓部へと転移した。




「これは……確かに、心臓のように見える。ガセネタじゃ、なかったか」




 霧隠の素性を調査済みだったカズキは、完全に情報を鵜呑みにしたわけではなかった。

 それでも、なぜ秘宝を使って転移してきたかというと、情報の真偽を確かめるため。そして、危険が無いかを調べるためにあった。




「く、クリーチャーだ!しかも、トロールにハイオーク……上位種が、ぞろぞろといやがる!!」




 魔物たちが侵入者であるミドルクラスの生徒たちに気付き、暗闇から湧き出てくる。動揺しているクラスメイトたちを他所よそに、カズキは冷静に隣にいた一人の女子生徒に指示を与えた。




「やはり、いたか。【再利用リサイクル】を発動して、『1WAYジャンパー』の効果をリセットさせろ」




 それは、効果を失った道具をリセットして、再び即時使用を可能にする彼女のユニークスキル。

 それがあったからこそ、カズキは勇気ある転移を決断できたといってもいい。


 山の内部にある、この閉鎖された場所では元いた拠点は凝視できずに転移は不可能となるが、火口付近の外まで出れば、ここよりは安全だ。

 彼は、【再利用リサイクル】を施されたブルゾンを着て、上空に見えた火口付近の岩場に転移ポイントを見定める。




 ドクンッ!!!




 しかし、その時……巨大な心臓が、大きく脈打つ。


 そして、なぜか【再利用リサイクル】が完了したはずの秘宝アーティファクトが効果を示そうとしない。




「転送しない……どういうことだ?本当に、リサイクル出来たのか!?」



「出来たよ!出来たはずなのに……転送できない。原因は多分、他にあるんだと思う」



「他の原因……まさか、さっきの心臓音。アイツが、此処ここから出られなくしたのか!?」




 作戦が狂い、動揺を隠せない“三浦カズキ”にクラスメイトたちが指示を仰ぐ。




魔物クリーチャーたちが襲ってくる!リーダー、指示をくれ!!どうする!?」



「くっ!このエリアからは逃げられない!!戦うぞ

 ……全員、武器を持て!!!」





 バサバサバサッ!!!




 突如、上空から響き渡る激しい羽音。

 それは影に潜んでいたワイバーンの群れだった。





「ひいいっ!ド……ドラゴンまで、いるのかよ!!」



「慌てるな!飛び道具を持つ者は、先にワイバーンを撃ち落とせ!!」



「ま、待て!まだ……何か、いる!!」





 今度は、ズンズンと大きな足音を立てて、地上から現れる巨大な怪物。象の頭部を持ち、岩のようなの肉体を誇る、明らかに他の魔物とは一線を画す雰囲気を醸し出すは、威圧感だけでミドルクラスの生徒たちを動かなくさせるほどだった。




「ベヒーモス……特位種まで、いるのかよ」




 特位種。上位種と呼ばれる魔物クリーチャーより、更に危険指数の高い希少な魔物クリーチャーの総称。“秘宝の番人”たる悪魔と同等、もしくは上回るほどの戦力を有することもあるとされている。



 地上からは、上位種。上空からは、ワイバーン。そして、特位種・ベヒーモス。

 八方塞がりの状況に、さすがの“三浦カズキ”も絶望感に襲われていた。




(このままでは、確実に全滅する。こいつらを倒す方法ではなく、だけを考えるんだ!)




「オオオオオオオン!!!」




 周囲を震撼させるほどのベヒーモスの咆哮をキッカケに、心臓部を守る魔物の軍団が一斉にミドルクラスへと襲いかかっていく。

 まるで、巣に入り込んだ外敵を蹂躙じゅうりんするかのように……。




「くそッ!こんなところで!!」




 周りの生徒たちが悲痛の叫びを上げながら、次々と魔物クリーチャーたちに命を奪われていく。

 そんな中、カズキは一縷の望みを賭けて、持っていたハンドガンの銃口を“巨大な心臓”に向けた。





 バキューン!!




 見事に命中した弾丸。しかし、すぐに銃弾が心臓の中から排出されると、たちまち弾痕が自己再生されていく。やはり、この程度のダメージでは、あの心臓を止めることは出来ないらしい。


 ただ、それはカズキも想定内だった。

 彼が一縷の望みを賭けたのは、一瞬でも“その機能”が停止してくれることにあった。





「生きてる奴は、俺に掴まれ!もう一度『1WAYジャンパー』で、転移を試みる!!」





 そう。さっきの一撃で敵の呪縛が一瞬でも解けていてくれれば、今度こそ秘宝での転移が可能となる。

 それが、カズキの考えた最後の脱出方法だった。

 これが失敗すれば、確実に誰一人として生還することは出来なくなるだろう。


 生存していたミドルクラスの生徒たちが、すがる思いでリーダーにしがみつくと、転移が開始される。


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