LV3「ダンジョン・アイランド」・25

 ドローンによる直接攻撃。オーラが纏われてない分、劣化版“スコグル・ストーム”といったところか。それでも、十分な威力だ。


 高所に晒されていた生徒たちは、神坂さんが光の足場を渡って救出する。俺は、ちょうど目の前に浮かんでいた月森さんの体を抱きかかえた。



 ゴボゴボゴボゴボ……!!



 すると、触手を切られた痛みからか、ついに本体が海中から姿を現す。


 その正体は、巨大なイカ。上位種の魔物クリーチャー・クラーケンであった。

 そのデカさに圧倒されるが、更に困ったのは、ここが海中ということだ。さすがに、海の中での戦闘までは訓練を積んでいない。どうやって、戦う?



 俺が悩んでいると、神坂さんが誰かと一緒にクラーケンの頭上まで光の足場で移動してるのが見えた。


 手を繋いでいる相手は、綾小路さん……か?




「今ですわ!お離しになって下さい!!」



「わ、わかった!!」




 若干、躊躇してから神坂さんが手を離すと、光の足場に乗れなくなった綾小路さんがクラーケンの頭上へと落下していく。だが、それこそが彼女の狙いだった。




「レイカ式ミサイルキーック!ですわ〜!!」



 スドオオオッ!!!




 彼女のユニークスキル【怪力】によって、本物のミサイルさながらの威力で激突したドロップキックによって、巨大なクラーケンの頭がぐらりと傾く。

 とんでもないパワープレイ。だが、効いている!


 そこへ、強化された『デルタ・ワスプ』の三機が、今度は一斉に麻痺針パラライズ・ニードルを射出した。その全てが命中し、敵の身体に電流が放出されると、クラーケンは動きを止めた。

 海の魔物の弱点は、大体がと相場が決まっている。その効果は覿面てきめんだった。



【虚飾】が、【目星】rank100に代わりました



 すかさず、俺は【目星】で敵の急所たる心臓の位置を正確に割り出すと、ぐったりとした月森さんを左手で抱えたまま、右手でブラスターを構えた。



【虚飾】が、【射撃(拳銃)】rank100に代わりました



 バシュッ!!



 俺のブラスターから放たれた一筋の閃光は、見事に敵の心臓を貫くと、クラーケンは全身の力を失い、プカプカと海に浮かんだ。





「ふぅ……何とか、倒せたか」



「おーほっほっほ!巨大イカ、ゲットですわ〜!!今日の夜は、イカ料理のフルコースですわね!!!」



「え……食うの?食えんの!?」




 なぜか、「あやのこうじ」と書かれたスクール水着を着ていた綾小路さんが、水に浮かんでいるクラーケンの屍の上で仁王立ちしながら高笑いしている。色々とツッコミどころは満載だが嬉しそうなので、そっとしておこう。


 ふと、そばにいた月森さんが何やらモジモジとしていることに気付き、よく見ると……何やら、両腕で胸のあたりを隠していた。




「み、見ちゃダメ!あっち、向いてて!!」



「はいっ!わかりましたッ!!」




 言われて、すぐに明後日あさっての方向に視線をそむけた。

 すると、消え入るような声で彼女が呟く。




「どうしよう……水着が、外れちゃった」



「ま、マジすか!?」




 おそらく、クラーケンの触手に掴まれた時に外れてしまったのだろう。【ナビゲート】を使えば、探せるかもしれない。


 ただ、「月森さんの水着がある場所!」と声に出すのは、俺的にも彼女的にも恥ずかしいだろう。どうしたものか。




「ん、何ですの?この、白い水着……」




 クラーケンに引っ掛かっていたのか、白いビキニトップを手に持ち、まじまじと綾小路さんが見つめていた。




「それ、私のです!!」

「それ、月森さんの!!」




 ほぼ、同時に俺たちが指を差すと、月森さんの様子に綾小路さんも気付いたらしく、こちらへ持っていた水着を渡そうとすると……。




「……月森さん。あなた、水着にアクセサリーとか付けてらっしゃって?」



「付けてないけど……どうして?」



「錆びた鍵のようなものが、くっついてましたわ。何なのかしら?コレ」




 水着に付いていた錆びた鍵を、こちらに見せつけてくるお嬢様。近くに行かないと、よく分からないが、現実世界で使うような鍵とは形状が違ってるのは見てとれた。

 だとするならば、ここに来た冒険者たちの落とし物というよりは、元々存在している島のアイテムなのかもしれない。




「どこかに対応する扉や宝箱が、あったりするのかもしれない!一応、大事に持ってた方が良いかも!!」



「承知しました。この鍵は責任を持って、この綾小路レイカが持っていてあげますわ!おーほっほ!!」




 自分の手柄だと思っているのか、気持ちよさそうに再び高笑いを始める綾小路さんに、月森さんが必死に訴えかけた。




「あのー!どうでもいいけど……私の水着、早く返してよ〜!!」



「あら、そうでしたわね。すっかり、忘れてましたわ。ごめんあそばせ」




 ふぅ。とにかく、これで落ち着いたか。一時は、どうなることかと思ったけど。

 しかし、ホッとしたのも束の間。今度は、神坂さんが陸地を指差し、俺を呼んだ。





「ねぇ、植村くん。向こうが、何か騒がしいよ?何か、あったのかも」



「えっ?今度は、何!?」


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