LV3「ダンジョン・アイランド」・22

 地面が迫り来る刹那、神坂さんが右脚を伸ばして“光の足場”を作り出すと、それを強く蹴りつけた。その反動によって、空中で大きく横移動すると、再び足場を生成して、同じように蹴りつける。


 それは、いわゆるクッションの役割だった。

 そうやって、足場を経由させることで落下の衝撃を緩和させる神坂さんの機転。

 狙い通り、俺たちは最小限のダメージで地上へと生還することに成功したのだった。



ズザザザザザザッ!!!



「ふぅ……何とか、助かったね」



「神坂さんのおかげだよ。ありがとう」



「私こそ、感謝だよ。植村くんが庇ってくれなかったら、今頃はワイバーンに……そうだ!ワイバーンは!?」




 ハッとなって、宙を見上げるとワイバーンたちは空中を旋回しながら、しばらくすると再び元いた火口へと引き返していくのが見えた。




「やっぱり、ここの魔物クリーチャーたちには行動範囲テリトリーあらかじめ設定されているのかもしれない。ワイバーンは、頂上付近からは出ることができないんだ」



「良かった……ここまで、追撃してこられたら、それこそゲームオーバーだったもんね」



「うん。とにかく、報告しに拠点へ帰ろう。動けそう?」



「大丈夫。行けるよ」




 パンパンとジャージについた土を手で払いながら、神坂さんが力強く頷いてくれた。


 そういえば、拠点は無事なのだろうか?

 すっかり忘れていたが、不穏な空気が漂っていた気がする。俺ら以外は、全滅……なんてことは、勘弁してくれよ。



 拠点の前まで到着した俺たちは警戒しながら、中へと歩みを進めていくと、ミドルクラスAの生徒たちを、三浦の指示のもとローAのみんなが拘束しているところを目撃する。




「レイジ!これは、一体……?」



「おっ。二人とも、無事に戻ってこれたか。こっちは、こっちで色々とあったが……ま、簡潔に言えば、兄貴のPK集団を捕まえてやった。以上だ」



「は!?簡潔すぎだろ!でも、どうやって……かなりの戦力差があると、思ってたけど」



「今回の立役者は、あそこにいる二人だろう。どちらも敵に回したくないタイプの冒険者だが、仲間に引き入れられたら心強いもんだ。意外とな」




 レイジの視線の先にいたのは、両手に焼き魚の串を持って大口でかぶりつく山田くんと、黙々と目の前にある焚き火に薪をくべる霧隠くんだった。




「あの二人、いつの間に戻って来てたんだ!?」



「霧隠は、俺の密命で影を潜めててもらった。山田は……ただの通りすがりだ。腹が減って、戻って来たところだったらしい」



「はは……まるで、歩く天災だな」



「ちょうど、兄貴たちの拘束も終わったところだ。お前たちの調査報告を聞こう。委員長のところへ、行くぞ」




 悪友に促されるまま、その足で委員長のところまで歩いて行った俺たちは、山であったことの一部始終を二人に報告した。




「巨大な臓物を守る悪魔の群れ……か。まるで、黒魔術の儀式だな。確かに、何かありそうな匂いはプンプンするが」



「山の裏側までは確認する余裕が無かったけど、本命は“あの場所”だと思って良いと思う」



「しかし、怪しそうというだけで突撃するには危険すぎる場所だ。もう少し、確証が欲しいな……他には、何か気付いたことは?何でもいいぞ」





 そう言われて、しばし考え込むが、特に思い当たらない。あ、そういえば……。




「山とは関係ないけど、変な音のする洞穴を見つけたんだ。そこも、調べておきたいと思ってる」



「そういえば、今朝……アレックスさんと、そんな風な話をしていたな。どうだ?ヒントには、なりそうか。委員長」





 一緒に、俺たちの話を聞いていた委員長は、持参してきていた昔ながらの大学ノートに会話の内容をメモしていた。

 彼女の【最適解】を活用する為には、より多くのヒントが必要となるからだろう。




「ちなみに、その洞穴って……島でいうと、どの辺の位置にある?大体の感覚でいいから、教えて欲しいな」




 彼女がノートとペンを俺に渡して、言ってくる。

 開かれたページには、手描きの地図が記されていた。ここに、書いてくれということか。


 書き込もうとすると、端の方に落書きのような漫画のキャラクターが描かれていた。真面目なイメージがあったけど、こういうのも好きなんだな。




「そ、それは見なくていいから!早く、場所だけ書いて!!」



「え、ああ……はいはい」




 普通に画力が高いし、上手いって褒めようと思ってのだが、あまり触れない方が良さそうだ。

 俺は、ささっと思い出した洞穴の場所を地図に記入し終えて、彼女に返した。


 これで、何か分かってくれるといいのだが……。



 そんなやり取りを俺らがしていると、ふと神坂さんがレイジに尋ねた。




「拘束したミドルクラスの人たちは、どうするつもりなの?私たちが攻略するまで、あそこで放置……は、さすがに可哀想だよね」



「アイツらは、アイツらなりに役に立ってもらおうと考えてる。キルしてしまうのは簡単だったが、後味が悪いからな。一応、生かしておいてやることにした」


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