LV3「ダンジョン・アイランド」・20

 一方、光の階段で山頂付近に到着した植村と神坂の二人は、岩陰に隠れて辺りの様子を伺っていた。

 激しい傾斜だったふもとに比べると、ここらはなだらかな坂となっており、比較的に動きやすくはあったが、地面にはごろごろとした岩が敷き詰められていて、足元は悪かった。




「思った以上に、徘徊してるな。あの毛むくじゃらの巨人は……何だっけ?」



「トロールだね、確か。授業で習った。怪力と再生が特徴的な上位種。感知能力は低いから、不用意に近寄らなければ気付かれることはないと思う」




 一応、俺と神坂さんは手を繋いだままで、【隠密】rank100を発動させていた。そこら中に敵がいるので、一度でも戦闘が起きてしまうと、一気にトロールたちに気付かれて包囲されるだろう。




「見える範囲に、怪しいものは無さそうだ。あとは裏側と、山頂にある火口ぐらいか」



「じゃあ……火口を確認して、帰りは裏側から帰ろうか。そうすれば、全部をチェックできる」



「うん、そのプランで行こう。大きめの岩場を経由しながら、なるべく音を出さずに移動する。大丈夫そう?神坂さん」



「了解。それじゃあ……行こうか」




 静かに周囲を警戒しながら、より上にある岩場を目指して歩いていく。いくら【隠密】スキルといえど、何も遮蔽物が無ければ完全に気配を消すことはできない。慎重に、行かなくてはならない。


 すると、小声で神坂さんが囁いてきた。




「何か、思い出すね。体育祭の時のこと」



「え、ああ……あったね、そういえば」




 神坂さんをスカウトからかくまった時か。あの時も、一緒に手を繋いで【隠密】を使ったっけ。

 いや、この状況でドキドキさせないで欲しいんだが。謎に意識してしまうじゃないか。


 違った意味で心臓の鼓動が早くなる中、何とか敵に見つかることなく岩場渡りを完走させていき、ついに火口のところまで辿り着く。

 トロールの知覚は、想像以上に低くあってくれたようだ。これなら、余計な戦闘は避けていくことが出来そうだ。




「植村くん。周り、見ててね」



「了解」




 ひょこっと火口の中に顔を覗き込む神坂さんの身を守る為に、俺が彼女の周囲を監視する。




「何、あれ……」



「ん?何か、見つけた!?神坂さん」



「何か、巨大な臓器みたいなオブジェクトを、大勢の魔物たちが守ってる。あれが何なのかは分からないけど、絶対に怪しいよ」




 トロールたちが近寄ってこないのを確認して、俺も少しだけ火口の中に、顔を覗き込むと……そこは、大きな空洞となっており、神坂さんの言う通り、ドクンドクンと脈打つ謎の臓器を守るように、魔物の軍勢が周辺を警戒している。


 その異様な光景に二人が目を奪われていると突如、小さな悪魔が目の前に飛び出て来て「ケケケケケッ!!」と、不快な鳴き声を上げる。




「きゃああああっ!!」




 その驚きとパニックで、大きくバランスを崩してしまった神坂さんは、のけぞるようにして後ろへ倒れ込んでしまうと、そのままの勢いで坂を滑落してしまう。ひゅるひゅると俺に繋いでいた命綱が伸びてゆく。このままでは、彼女が危険だ。




【虚飾】が、【跳躍】rank100に代わりました




「神坂さんッ!!」




 俺は、空中にダイブして彼女の身体を抱きしめると、自分の身をクッションにしながら衝撃を緩和させ、神坂さんの頭部だけは確実に守る。大きな岩にでも激突してしまえば、最悪の場合だと命にも関わる。

 今、着用している冒険者養成校ゲーティア指定のジャージは制服と同じく、耐久性に優れた加工が施されていると聞いた。ある程度のダメージは、減らしてくれるはずだ。




 ザザザザザザザッ!!!




 頂上付近から、だいぶ滑落したところで、ようやく身体が止まってくれた。どうやら、神坂さんも意識はあるようで、最悪の展開は防げたようだ。




「ケケケケケケケッ!!!」




 安心したのも束の間、聞き覚えのある鳴き声と共に、さっきの小悪魔インプが飛来してくる。

 まるで、アラームのように鳴き続けるだけで、攻撃らしい攻撃は仕掛けてこない。


 アラーム?そうか!コイツの役割は……戦うことではなく、周囲の仲間に俺たちの存在を知らせることだ。


 素早く取り出したブラスターで、小悪魔インプを撃ち抜き消滅させるも、時すでに遅し。

 気付けば、のそのそと周りで徘徊していたトロールたちが俺たちのもとへ集まってこようとしていた。




「神坂さん、しっかり!俺たちの存在が、奴らにバレた!!退却しよう!!!」



「う……ん、わかった」




 彼女を引き起こすと、俺はぎょっとした。


 すぐ目の前まで迫って来ている一体のトロールを見つけてしまったからだ。俺は、慌ててブラスターを敵に目掛けて連射していく。


 全弾命中するも、敵は進行を止めようとはしない。ハイオークと同タイプの魔物クリーチャーのようで、撃たれた箇所は瞬時に再生を開始していた。


 追撃しようとするも、ブラスターが撃てない。連射可能な弾数を消費してしまい、リチャージタイムが必要となってしまったのだ。

 俺は覚悟して、光剣クラウ・ソラスに手を伸ばす。


 アレックスさんの言葉を思い出せ。目の前の敵を倒すことだけに、集中するんだ!

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