LV3「ダンジョン・アイランド」・19
「強気なご令嬢だ。だが、この状況下で情報を売らない意志は褒めてやろう。お前の言う通り……どのみち、ここにいる連中は始末する予定だった」
「ふっ、そんなことだろうと思ってましたわ。どうせやるなら、さっさとやりなさい!」
「そこまで言うなら、そうしよう。情報は、戻ってきた残りの連中から聞き出せばいいことだ」
三浦カズキが合図の手を挙げると、飛び道具を構えていたミドルクラスの生徒たちが一斉に射撃態勢へと移行した。
「しかし、弟も詰めが甘い。肝心の拠点の守りを、こんなに手薄にしているとはな……撃て!!」
挙げていた手をローAの生徒に向けて、射出の号令をかけるが、その瞬間……全身が痺れて、動けなくなる。カズキは混乱するも、すぐに自分たちの身に何が起きたかを理解した。
「ようやく、出番が来たか。ずっと隠れて待ってるのは退屈だったが、感謝するぜ」
「霧隠シノブ……?姿を隠して、待ち伏せていたのか。お前がクラスの為に動いてたとは、な」
「自分の利益になることなら、惜しみなく協力するさ。三浦と相談して、仲間にも内緒で身を潜めていたんだよ。お前たちに、
「まんまと、
再び、カズキが手を挙げると、後方の茂みからガサガサと音が聞こえだす。
まさか、増援を待機させていたのか?だが、相手はレイジが警戒するほどの策士。用意していたとしても、不思議なことではない。
もし、増援が来た場合、一気に形勢は逆転する。
こちらに、これ以上の策は用意できていない。
霧隠が一瞬、息を飲むと木陰から姿を現したのは、敵の増援……ではなく、意外な人物だった。
「……腹が、減った。何か、食わせろ」
現れたのは山田ジュウゾウ。両手に、ぐったりとしたミドルクラスの生徒たちの首根っこを掴んでいる。
その姿を見たカズキは、流石に驚きの表情を隠せない。
「なっ……もう一人、伏兵を用意していたのか!?」
「あん?何のことだ。俺ぁ腹が減ったから、戻ってきただけだ。そしたら、邪魔な奴らがいたからよ〜」
「何?たまたま、通りがかっただけ……だと」
「コイツらが、先に攻撃してきたんだぜ?ま、セートーボーエイってヤツだな。ん、ちげーか」
そう。それは、全て偶然の出来事だった。
ここ数日、単独で島を探索していた山田だったが当然、一人では何の情報も得られず、何とか野草などを食して生き延びていたが、空腹は限界まで達していた。
啖呵を切って飛び出して来た手前、後ろめたい気持ちもあったが背に腹は変えられず、なくなくローAの拠点に助けを求めに戻ったところで、カズキが待機させていた増援部隊と出くわしてしまったのだ。
いきなり出現した山田に、増援部隊は困惑しつつ攻撃を仕掛けるも、相手が悪かった。そもそも、増援部隊が近接戦闘を得意としないシューターたちというのもあったが、敵はローAきってのフィジカルモンスター。しかも、極度の空腹によってイライラが最高潮に達しているというオマケ付きだ。
文字通りの瞬殺で、増援部隊はたった一人の通りすがりによって全滅させられたのだった。
緻密な戦略が破られるのは、強大な戦術を前にした時。そして、もうひとつ。
誰にも想像できないようなイレギュラーな事態が起きた時。いわゆる、“時の運”というヤツだ。
山田ジュウゾウの帰還が、このタイミングになったのは、三浦カズキの運が悪かったという他なかった。
「くそッ!くそ!!お前みたいな奴に、なんで……!!」
「どうでもいいけど、どういう状況だ?コレ。俺は、メシが食いてぇだけなんだけどよ」
口では、そう言いつつも全く動揺を見せず仁王立ちしている山田に、霧隠が声をかける。
「食い物なら、用意してやる!だから、こいつらを捕まえるのに協力しろ!!山田ジュウゾウ!!!」
「あぁ?俺に
「は?クラスメイトの霧隠シノブだろ!覚えておけ!!」
「知るか。いちいち、クラスメイトの名前なんて覚えてられねーっての。しかも、お前みたいな影の薄そうな奴」
「なっ!?お、お前……!」
この二人はウマが合わない。せっかく、状況が好転したというのに、これでは再び危機的状況に戻ってしまいかねない。そう思った月森は、二人の会話に割り込むようにして、山田に話しかけた。
「山田くん、お願い!私たちに、力を貸して。負けるのは、イヤでしょ!?ここで、この拠点が潰されたら、ローAはリタイアしたも同然になっちゃうの!!」
月森の必死の懇願に、少し無言になってから、山田は口を開く。
「言ったろ?俺は、誰かに指図されんのは嫌いなんだ」
「山田くん……」
「だが……負けるのは、もっと嫌いでな。お前のは“指図”じゃなくて、“お願い”として聞き入れてやるよ」
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