LV3「ダンジョン・アイランド」・18

 三浦レイジの兄・三浦カズキは、元は純粋に冒険者に憧れていた少年だった。


 しかし、ユニークスキルや身体能力に恵まれず、自身には冒険者としての才能が無いことに気付いてしまう。

 一時は、別の道を歩もうかとも思ったが、彼は諦めなかった。そして、決意したのだ。


 どんな手を使ってでも、這い上がってやる……と。



 才能の無い三浦カズキが唯一、持っていた他の冒険者たちに対抗しうる武器。それが、であった。

 決して、IQが高いというわけではないものの、相手を出し抜くような、いわゆる悪知恵に長けた男だった。魔物やライバルの情報を、とことんまで調べ上げて、最も効果的な方法を持って排除する。


 そうやって、徐々に頭角を現していった彼は、冒険者を養成するジュニア・スクールから勝ち上がり、少しは名の知れた中堅ギルドにスカウトされるほどになった。



 しかし、彼の野望はそれだけでは満足していなかった。新設された冒険者養成校ゲーティアで結果を残し、今度はトップギルドに移籍するチャンスを伺っていたのだ。


 その為に彼が初めにしたことは、適当な嘘を駆使して、留年の道を進むことだった。本来ならば、弟であるレイジの一歳上である彼は二年生であるはずだったのだが、なぜ留年してまで一年生を続けたのか?

 それには、理由が二つあった。



 まずは、そのまま二年生に進学してしまうと、同学年に厄介な期待の新星がいることで、自身が目立つことが出来なくなると踏んだからである。


 その新星こそ、【勇者】・天馬カケルであった。

 圧倒的なユニークスキルと身体能力。自分に欠けていたものを両方とも兼ね備えたカリスマには、下手な策略は通じないと思った。

 悔しいが、この世界には、いかなる緻密な戦略を持ってしても、凶暴なまでの戦術の前では通用しないということを、彼は悟っていたのである。

 そして、そんなスターが存在しない一年生に留年することを決めた。それが、一つ目の理由。



 二つ目の理由は、手駒を増やすこと。自身に戦う力のない戦略家にとって、必須となるのは従順な兵士たちである。実際、一年多く学園に滞在していた経験を持つ三浦カズキが、ミドルクラスの生徒たちを掌握するのに、それほどの時間は必要なかった。

 もちろん、それも綿密にクラスメイトの性格を下調べして、口車や心理学を駆使して人心を掌握していったからなのだが。



 そして、こうしたクラス対抗の行事こそ、三浦カズキが最も得意とする分野であり、着々と準備して来たものを出す最高の場でもあった。



 すでに、この三日間で彼の率いるミドルクラスAによるPK行為によって、ミドルクラスB、ロークラスBの主力部隊がリタイアさせられていた。


 残す脅威はロークラスAのみ。最初の襲撃は失敗に終わったが、次こそはと彼が狙いをつけたのは敵の拠点へのダイレクト・アタックであった。


 事前に監視を配置して、「植村ユウト」や「三浦レイジ」など厄介な生徒がいない隙を狙い、襲撃を実行に移したのだった。

 拠点を制圧してしまえば、戦闘部隊も補給がままならなくなり、長期の探索は困難となるだろう。

 直接的にリタイアさせることが不可能ならば、間接的にリタイアへと追い込んでやろうというのが、三浦カズキの目論見であったのだ。




「全員、武器を捨てて手を挙げろ!指示に従わない者は、躊躇なく撃つ!!」




 突如、襲って来たミドルAの生徒たちに、月森と綾小路を筆頭に戦える者は必死に抵抗してみせたが、すぐに飛び道具を持ったシューターたちに取り囲まれると、手も足も出せず投降するしかなかった。




「くっ!また、あなた達ですの!?どこまでも、卑劣な!!」



「褒め言葉として、受け取っておこう。まずは、お前らの持っている、この島の情報を全て提供しろ。どこまで、調べ上げている?」



「おーほっほ!残念でしたわね。なーんも、分かっていませんことよ。提供できる情報なんて、ございませんわ!!」



「本当か?なら、お前らと行動を共にしている、あの白人は何者だ。明らかに、生徒ではないだろう」




 両手を挙げながら、月森ヒカルは何とかして打開策は無いかと考えながら、その場を静観していた。




(アレックスさんのことも、知ってるということは……ずっと、こちらの様子を伺ってたんだ。こんなことなら、強力なレア武器を引き当てて待っていれば良かった)




 月森ヒカルの秘宝アーティファクト『ガチャコッコ』はガチャを引くのにも時間を有するほか、運要素も強いので、緊急事態には適していない。

 実際、今回の襲撃もガチャを引く余裕がなく、昨夜に引き当てていた“ひのきの棒”で応戦するしかなかったのだ。

 彼女のユニークスキル【適合者アデプタ】の恩恵で、それでも善戦した方だったが、さすがに戦力差には勝てなかった。




「ふん。何も言う気はありませんわ!どのみち、喋っても撃つ気なのでしょう?どうせ、死にゆく命でしたら、わずかな情報たりとも差し上げてなんて、あげませんことよ!!おーほっほっほ!!!」



(綾小路さん……!)

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