LV3「ダンジョン・アイランド」・16

「植村くん!」




 アレックスさんと入れ替わるようにして、こちらへ駆け寄ってきたのは月森さんだった。もしかして、また起こしてしまったのだろうか。




「月森さんか……ごめん!うるさかった?」



「え?ううん。起こされたのは、森の中から聞こえた変な音のせい」



「変な音?」



「うん。ゴォ〜って……こんな時間だから、みんな眠ってて気付いてないけど。気になって、眠れなくなっちゃって」




 何の音だろう?そんなに風も強くないし、夜中に徘徊している魔物クリーチャーでもいるのだろうか。




「音のした方向を、教えてくれる?ちょっと行って、調べてみるよ」



「なら、私も行く。一人じゃ、危ないよ」



「いや、でも……」



「どうせ、音の正体が分からないと、眠りにつけそうにないし。気付いたのは、私だから……ね?」




 こうして、俺は月森さんと“謎の音”の正体を探る為に、森の中へと入って行くことになった。RPGとかだと、夜に出てくる魔物は強力なことが多いし、二人で行った方が確かに安全かもしれない。




『コケーッ!』




 手首に着けたニワトリ型の秘宝アーティファクトに月森さんが10円玉を投入すると、銅色の卵が生み出され、中から武器が出現する。




 ひのきの棒

 等級:コモン

 ひのきで出来た棒。そこらに落ちてる木の棒よりは、頑丈で強い。




「あちゃ〜。ハズレだ……やっぱり、ケチると良い武器でないなぁ。コレ」



「まぁまぁ。ちょっと、行って見てくるだけだし、良いんじゃない?ヤバくなったら、またガチャを引けば」



「そう、だね。いざとなったら、植村くんもいるもんね!」



「えっ……う、うん。まあ、そうだね」




 また剣が振れなくなったら、どうしよう?

 しばらくは、ブラスターをメインで戦っていくか。



 真っ暗な森の中を、月の光だけを頼りに先へと進んで行く俺たち。この世界では、月や太陽まで再現されてるらしい。深く考えても構造などは理解できないので、考えないようにする。


 すると、不意に月森さんに手を握られて、俺の心臓は別の意味で跳ね上がった。




「つ、月森さん!?」



「ごめん、急に……やっぱり、怖くて。手、繋いでてもらってていい?」



「あ、ああ!全然、いいよ。うん」




 そういや、墓地の時も怖がってたような記憶がある。そりゃまあ、怖いか。真夜中の森……しかも、魔物が徘徊してるとなれば、尚更だ。




 ガサガサガサッ!!



「きゃあああああ!!!」




 急に、草むらから音がして、月森さんが叫びを上げて俺の腕にしがみついて来る。


 か、かわいい……!


 とか、思ってる場合じゃない。慌てて、ブラスターを構えるが、音の出た茂みから飛び出してきたのは、可愛らしい野ウサギだった。

 そのまま、ぴょんぴょんと跳ねて、どこかへと消えて行ってしまう。


 この森には、魔物だけでなく普通の野生動物も存在するのか。だから、アレックスさんは一年間もサバイバルしてこれたのかもしれない。




「月森さん、ただのウサギだったよ。大丈夫」



「ほ、ホント?はぁ……びっくりした〜」




 ウサギさん……深い意味は無いが、ありがとう。

 こんなん、ちょっとした肝試しイベントですやん!

 実を言うと、俺も幽霊みたいな怖いのは苦手なタイプなんだけど、ここはビビってる姿は見せられない。




「えっと……音のした方って、このへん?」



「うん。方向的には、こっちで合ってると思うけど……あっ!植村くん、あれ!!」




 何か見つけた彼女が指差す先にあったのは、二つの大きな洞穴ほらあなだった。恐る恐る、近寄ってみると、中の方から腹の底まで響くような音が聞こえた。



 ゴォーッ!ゴォーッ!!




「この音……で、合ってる?」



「合ってる!ここから、聞こえてたんだ。でも、何の音だろう?」



「中に入ってみないと、分からないけど……だいぶ、深そうだね」




 光剣クラウ・ソラスの光刃を照明代わりにして、中の様子を覗き見ると、だいぶ先まで続いており終わりが見えない。どうするべきか?

 そもそも、この二つの穴は繋がっているのだろうか。




「魔物の巣窟とかだったら、危険だよ。ここは一旦、拠点に戻ろう?」



「そうだね、それがいいかもしれない。情報だけ、持ち帰ろう」




 アレックスさんは、この穴には潜ったことがあるのだろうか?調べてないのは山ぐらいと言っていたし、既に入ってる可能性は十分にあるだろう。


 侵入困難な魔物の山に、謎の音を発する二つの洞穴ほらあなか……これが、島の謎に関わるかどうかは分からないが、何かヒントが得られると良いのだけれど。



 そうして、警戒しつつ帰りも手を繋ぎながら暗い森の中を通って、拠点へと帰還した俺たち。

 魔物に遭遇しなかったことに、内心では少し安堵していた。




「ヒカル!良かった。起きたら消えてたから、心配したんだ……よ!?」




 キョロキョロと、おそらく月森さんを心配して探し回っていたであろう神坂さんが、森の中から出て来た俺たちを発見して声を掛けると、二人が手を繋いでいるのを見て、その動きを止めた。




「あっ!ちちち……違うよ!?これは、森の中が怖かったからで、深い意味とかないから!!」



「ふ、深い意味!?」




 その後、二人で神坂さんの誤解を解くのに結局、朝までかかった。ね、眠れない……!



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