LV3「ダンジョン・アイランド」・15
鈴虫の音が鳴り響く丑三つ時。眠れなかった俺は、幻影を相手に剣術の訓練を重ねていた。
というか、昆虫まで再現されてるのか。この島。
明日は、神坂さんと山の探索だ。いざという時に、また
「こんな時間まで、稽古デスカ?偉いデスネー!」
「アレックスさん!?す、すみません!起こしてしまいましたか?」
「お気になさらず、続けてクダサーイ。でも、夜は静かな島ですカラ……他の皆さんを、起こしてしまわないように気を付けて下さいネ」
「は、はい!気をつけます」
その場に座り込んで、俺の練習を見学し始めるアレックスさん。あんまり見られると、集中できないんだけど……。
「剣に、迷いが見えますネ。何か、あったんですか?」
「えっ!?じ、実は……仲間を目の前で倒されてしまい、その敵を斬ってしまったんです。殺さなくても、制圧する方法はあったはずなのに」
「フムフム。ダンジョン内のPKは、初めてでしたカ。しかし……そこまで悔やむだなんて、アナタは優しい人なんデスネ」
「そ、そんなことは……ただ、冒険者としての覚悟が足りてないだけかもしれません」
「ソウデスネ。高レベルのダンジョンでは、ギルド同士のPKは日常茶飯事だと聞いたことがありマース。今のアナタの心構えでは、大変かもしれませんネ」
そうか……そうだよな。いちいち、このぐらいのことでイップスにかかってるようじゃ、高レベル帯の冒険では心が保たないかもしれない。
「デスケド……私は、アナタのような冒険者は嫌いじゃありまセーン」
「えっ?」
「“植村ソウイチロウ”と呼ばれる冒険者を、アナタは知っていますカ?」
「も、もちろん……知ってますけど」
実の父親だからな。でも、この場合は多分、いち冒険者としてのことを言ってるんだろうから、余計なことは喋らないでおこう。
「私の憧れの冒険者なんデース。彼に憧れて、私は日本に来まーシタ」
「えっ!?そうなんですか?」
「彼は、とても慈悲深い人間デス。敵でも味方でも命を尊重し、PK行為は数十年の冒険者人生で数度しか行わなかったと聞いてマース」
そうだったのか。俺の場合、前世の記憶が残ってるから遺伝ではないのかもしれないけど、そういう人が父であってくれたことは素直に嬉しい。
「それゆえに、危険に晒されることも多かったと聞きますガ、その代わりに多くの人々から愛されマシタ。だからこそ、最強の冒険者が
「多くの人々から……」
「ハイ!ですから、アナタも彼のような冒険者を目指して欲しい。その為には、味方はモチロン、敵も救えるほどの強さを持たなければならない。
敵も救えるほどの強さ、か。
この場合の強さは、“物理的な強さ”だけでなく、“精神的な強さ”も含まれているのだろう。
まだまだ前者も足りないが、後者は圧倒的に足りてない。「怒り」や「悲しみ」に左右されないだけの強靭なメンタルが欲しいものだ。
「大丈夫。アナタなら、デキマス!私のシックスセンスが、そう感じていますカラ。モット、自信を持ってクダサーイ」
「あ、ありがとうございます!頑張ってみます」
彼はニカッと満面の笑みを見せながら、親指を突き上げると、また奥の寝床へと戻っていってしまった。色々と謎の多い人だが、彼が優しいことだけは分かったような気がする。
あんな外国の冒険者にまで慕われてるなんて、改めて俺の父親は凄い人だったんだな。いずれは、ちゃんと会ってみたいものだが、その時は胸を張って冒険者と言えるぐらいの実力は身につけておきたいものだ。
とはいえ、まずは己の心の弱さを乗り越えなければ。このまま一生、剣が使えなくなるのは、さすがにマズい。再び、素振りを再開しようと剣を構えると……微かだが、人の足音が聞こえた。
警戒しながらも、音のあった方に顔を向けると、誰かがコチラに向かって走って来ていた。ジャージを着ているのでクラスメイトのようだが、暗いせいか誰かまでは視認できない。
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