LV3「ダンジョン・アイランド」・14

 それから、拠点では特に何も起きず、探索部隊の面々が帰還した。主要なメンバーが集まって、ミーティングが始まる。




「こちらは、今日も目立った収穫はゼロだ。PKを警戒して進んでた分、探索スピードも落ちたのも原因としてはあるだろうが……やはり、森の中には何もないのかもしれん」



「そう……か」



「……で、“あの人”が例のフリーの冒険者か」




 一応、アレックスさんについては三浦に通話で報告は済ませていた。貴重な情報源だと感じてくれたらしく、協力することにも賛同してもらった。


 少し離れた場所で猛烈に腕立て伏せしている彼の姿を何とも言えない表情で、三浦が見つめている。




「うん。彼の言うことが正しければ、この島で探索できてない場所は、あとは小高い山の周辺だけらしい」



「ふむ。信じるかどうかは別として、どうやって探索する?クラスでつのれば、【登攀】スキル持ちもいるかもしれないが、敵が徘徊してるのなら戦闘者スイーパーも同行させたい」



「じゃあ、【登攀】持ちのスイーパーがいれば、ベストなんだな」



「そう、だが……多分、いないだろう。もしくは、何らかの方法で上に登るか。だが」




 何らかの方法……ユニークか、秘宝アーティファクトか。みんなが周囲の顔を伺うと、恐る恐る一人の女子が手を挙げた。神坂さんだ。




「私なら……何とか、出来るかもしれない」



「神坂さんのユニーク……あっ!光の足場!?」



「うん。ここはダンジョンの中だし、使えると思うんだ。ただ、どれほどの高度まで足場が作れるかは、やってみないと分からないけど……」




 神坂さんのユニークスキル【韋駄天】のダンジョン限定効果、宙に光の足場を作り出す能力。

 確かに、あれを階段のようにステップを踏ませていけば、山の傾斜を回避できるかもしれない。


 すると、月森さんが思いついたように提案した。




「今、試しに使ってみたら?ここなら、みんなもいるし失敗しても安全だと思う」



「そっか……そうだね、やってみようか。植村くん、来て?」




 神坂さんは俺に向かって、握れとばかりに手を伸ばしてきた。




「ん?」



「光の足場が、私以外にも適用されるのか試してみたいの。二人で上がれるなら、戦闘者スイーパーも確保できるってこと、でしょ?」



「ああ、なるほど!」




 彼女と手を繋ぐと、神坂さんは海に向かって空中に一歩を踏み出すと、そこに光の足場が作り出される。




「……行くよ?植村くん」




 そう言って、一歩二歩と光の階段を踏み出していく彼女。問題は、この足場は俺にも踏めるのかということだが……。


 意を決して一歩を踏み出すと、見事に“光の足場”に体重を乗せることが出来た。




「やった!やったよ、神坂さん!!」



「おお、いけたね!じゃあ、これは?」




 唐突に彼女が握っていた手をパッと離すと、体重を預けていた“光の足場”が効果を失い、俺は前のめりに砂浜の中へと突っ込んだ。




「ごふっ!げほ、げほっ……ひ、ひどいよ。神坂さん!!」



「ごめん、ごめん!やるなら、高度が低い時にやった方が良いかなって思って。どうやら、私と体の一部が触れてないと、足場の効果は共有できないみたいだね。完全に理解した」



「理解されたようで、何よりでーす」




 ふてくされたように言うと、彼女が俺の前に降りてきて、優しく顔についた砂を払ってくれる。


 これが、飴と鞭か!?




「怒んない、怒んない。ほら、もう一度……今度は、高度調査!次は、手を離さないから」



「う、うん……」




 もう一度、彼女の手を握ると一緒に光の階段を、上っていく。まるで空の上を歩いてるような、不思議な感覚。砂浜の方から進んで、遥か下には海が見える位置まで来た。これで万が一、落下しても比較的に安全だろう。




「あれ?」



「どうしたの?神坂さん」



「もう、光の足場が出現しない。ここが、高度の限界みたい」





 見渡すと、相当な高さまで来ていることが分かった。ここまでだとしても、十分にこの島にある山ぐらいなら頂上近くまで行けるはずだ。


 目の前にあった目的の山を眺めると、目視ではあるが同じぐらいの高さに感じた。これなら、護衛役と二人で探索に望めそうだ。




「ここまで来れるなら、行けそうだね。あの……そろそろ、降りません?」



「あれ?もしかして、植村くん……高い所、苦手かな!?」



「いや、そこまでじゃないんだけど……さすがに吹き抜けで、この高さは怖いかも。はは」



「え〜、どうしよっかなー。私は、もう少し、この景色を眺めてたいんだけど」



「いやいやいや!神坂さ〜ん!!」




 そんな二人を仰ぎ見て、地上にいた三浦は、やれやれといった表情で話した。




「なんか、イチャつき始めてるな……まぁ、いい。これで、あの山が探索できそうだ。今度こそ、何かあって欲しいものだが」



「そうだね。他のクラスは、謎解き進んでるのかな?」



「分からん。もしかしたら、兄貴のクラスに襲われてリタイアしてるかもしれんし……ともかく、あと五日しかない。俺たちは、俺たちの出来ることをするだけだ」



「うん。そう……だね」




 いまだ、何の進展も見せない探索に三浦と月森は不安を感じながらも、決意を新たにするのであった。









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