LV3「ダンジョン・アイランド」・11

 二日目


 ん〜……暇だ。


 拠点の護衛ということで、朝からウロウロと歩き回って警戒はしているが、一向に敵が現れる気配は無い。

 いや、来ないことに越したことはないのだが。


 周りを見ると、クラスメイトのみんなが釣りや家具作りに汗水を流していた。自分だけ、何もしてないようで罪悪感が湧いてくる。

 おまけに退屈すぎて、眠くなってきた。

 昨夜は数少ないレジャーシートの上に女子たちが寝て、俺ら男子は流木の上など適当な場所を探して眠りについた為に、ずっと浅い眠りのままだった。

 まさか、ここまで完全な野宿を経験することになろうとは……。




「植村くん!」



「は……はいっ!何でしょう!?」




 ウトウトしかけていたところへ、急に委員長から名前を呼ばれて、一気に眠気が吹っ飛んだ。




「少しでも、ヒントがないかと思って森の方を望遠アプリを使って眺めてたんだけど、誰かが魔物クリーチャーに追われてるところを見つけちゃって……どうしよう!?」



「え!?誰かって、他クラスの生徒?」



「それが、大人みたいだったんだよね……ゲーティアのジャージも着てなかったし。誰なんだろう?」



「とにかく、救助が最優先か……よし、案内して!」




 彼女は力強く頷くと、森の中へと入って行った。

 俺も武器を構えて、それに続く。


 ダンジョン内にNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が存在するなんて事例、聞いたことがない。だとすると考えられる可能性は、俺たち学生以外の一般の冒険者ということになるが……。




 しばらく進むと、委員長がピタッと足を止めて、辺りを見回す。




「進行方向に先回りしてきたから、この辺で待ってれば来るはずなんだけど……捕まってなければ」



「ちょ、ちょっと!怖いこと、言わないでよ」




 まぁ、死んだとしても生き返るわけだから、そこまで心配することも……いや、でも命は命だ。

 守れるものなら、守ってあげたい。




「あ、来た!あの人だよ!!」




 委員長が指差した先にいたのは、ボロボロのシャツを着た、長髪で髭モジャの男。髪の色は金色で、肌の色は白かった……外国の人だろうか?


 すると、その男性がフラッと力無く、その場に倒れ込み動けなくなる。そして、その背後から、のそのそと現れたのは巨大な豚の怪物だった。




「あれは……」



「ハイオークだよ!授業で習った上位種の魔物クリーチャー。あんなのも、徘徊してるなんて……」



「委員長は、ここで隠れてて!助けに行ってくる!!」




【虚飾】が、【射撃(拳銃)】rank100に代わりました




 俺は駆け寄りながら、構えていたブラスターをハイオークに向けて連射していく。まずは、敵の注意をこちらに引きつけなくては。



 バシュ!バシュ!!



 全弾、敵の体に光線が命中するも、ハイオークは怯むことなく歩みを止めない。よく見ると、傷口も少しずつではあるが塞がれているようだ。

 打たれ強さに加えて、自己再生能力も有しているとなると、ブラスターでは有効的なダメージを与えるのは難しいかもしれない。


 俺は、即座に武器を光剣クラウ・ソラスに持ち替えて敵の前に立ち塞がるが……。



 柳生くんたちを斬った手の感触がフラッシュバックして、強く剣を握れない。

 スポーツなどでよくある運動障害イップスというヤツなのだろうか?まさか、自分がなるなんて。

 しかも、こんな大事な場面で。



 気付くと目の前まで来ていたハイオークは、両手に一本ずつ携えていた片手斧を同時に振りかぶり、俺を攻撃しようとしている。

 何をしている!?逃げろ、逃げろ!


 ついには足まで動かなくなった俺が、やられるのを覚悟した時……ポーンと後方から、何かの肉片のような物体が宙に投げ飛ばされた。



 すると、急に大きな豚鼻をひくひくとさせたハイオークは攻撃の手を止めて、その肉片を追いかけるようにして後退していく。



 何が起こったのか分からず呆然としていると、肉片を投げ飛ばしたであろう犯人が俺の方へ近寄ってきた。




「植村くん!大丈夫!?」



「委員長……今の、委員長がやったの?」



「うん。あれは、市販のビーフジャーキー。オーク族の特徴は知能が低いことと、鼻が効くこと。それを思い出して、この場を乗り切る【最適解】を導き出したの!それが、さっきの」



「強い肉の匂いを察知させて、そちらへ誘導させたのか……凄いや。そのユニークは、咄嗟の状況を解決する策にも使えるんだ?」




 なぜ隠れていなかったのかと言いたいところだったが、彼女の機転が無ければ俺はリタイアしていただろう。正直に、助かった。




「貴重な食糧だったから、迷ったんだけど……植村くんの様子がおかしかったから、思い切って使っちゃった」



「そっか……本当に、助かったよ。ありがとう、委員長」




 二人で話していると、倒れていた謎の男から「ウウ……」という声が聞こえて、俺たちは顔を見合わせると、慌てて彼のもとへ駆け寄った。




「大丈夫ですか!?」



「ハ……腹が減りました。何か、食べ物をクダサーイ」



「へっ?あ、あの……ビーフジャーキーの残りで良ければ」




 彼女の出した肉片を見て、カッと瞳孔を開くと、男はハイオークよりも貪欲に奪い取ると、ムシャムシャとあっという間に平らげた。

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