LV3「ダンジョン・アイランド」・9

 すっかり空は暗くなり、夜となったらしい。

 ダンジョン内にも、時間という概念は存在するらしい。一日も24時間のようで、安心した。


 いったい、どれぐらいの時間が経ったのだろう。

 拠点から少し離れた砂浜で一人、波の音を聞きながら様々な思いが胸に去来していた。




「いたいた!植村くん。ご飯、持ってきたよ?カレーライス。量は少なめだけど、我慢してね」



「あ……ありがとう。もう、そんな時間だったんだ」




 紙皿に盛られたカレーライスと、プラスチックのスプーンを月森さんから受け取る。確かに、量は少なめだが贅沢は言ってられない。現実世界から持ってきてくれた人に、感謝だ。




「隣、いいかな?」



「えっ!?あ、ああ!どうぞ、どうぞ」




 俺は座っていた流木の場所をずらして、彼女が座れるスペースを作る。月森さんも、ちゃんと自分の分のカレーを持ってきていた。


 緊張を誤魔化すように、カレーを一口頬張ると普通に美味しい。こういう場所で食べると、違った味わいもある。

 しばし、黙々と食事をしていると、月森さんが話し始めた。




「三浦くんから、聞いた。上泉くんのこと……残念だったね」



「あ……う、うん」



「……もしかして、責任を感じてたりする?」



「ん……ど、どうして?」



「落ち込んでる感じだったから、そうなのかなって。良かったら、思ってること……話してほしいな。喋れば、楽になることってあるから」




 きっと、俺のことを心配して来てくれたんだろう。前世から、あまり人に優しくされることなんてなかったから、素直に感情を吐露するのは抵抗があったが、なぜか彼女には話してもいいという気持ちになれた。




「マコトを助けてあげれなかったことも、責任を感じてる。けど、ミドルクラスの人たちを手に掛けてしまったことにも、後悔を、感じてるんだ。自分で、自分の怒りの感情を抑えることが出来なかった」



「植村くん……」



「冒険者を目指す以上、PK行為には慣れていかないといけないんだろうけど……なかなか、難しくて」



「ん〜。私は、無理して慣れる必要ないんじゃないかな……とも、思うけど」




 意外な答えに思わず隣を見ると、不意に目が合ってニコッと微笑みかけられた。




「ゲームだと思え!とか、よく言われるけど……無理だよね。ゲームじゃないし。死ぬ直前の痛みだって、感じるわけだし」



「月森さん……」



「PKに慣れれば、一人前の冒険者にも近付くんだろうけど……私は、慣れたくないかな。“この世界”でも“現実の世界”でも、命の重さは等しくあってほしい。綺麗事かも、しれないけどね」




 慰めるための嘘だとしても、その言葉で俺の重く沈んでいた気持ちは少し軽くなった気がした。




「だから、植村くんは……その後悔の気持ちを大切に、してて?次、同じ過ちを犯さないように成長すればいいだけだから。だから、頑張ろ!上泉くんの分まで、私たちローAで島の秘密を解き明かそうよ!!」



「そう……だね。俺たちが攻略できれば、外のマコトにも褒賞が入る。罪滅ぼしの為にも、ここで落ち込んでる場合じゃない、か!」



「おっ!いつもの、植村くんに戻ってきたね。良かった、良かった」



「……ありがとう。月森さんのおかげだよ」




 真っ直ぐに目を見て、感謝の気持ちを伝えると、彼女は急に耳を赤くして、ポケットに忍ばせていた天然水のペットボトルを直飲みする。


 可愛らしい人だな。そして、優しい人だ。




「あっ。う……植村くんも、喉が渇いたよね?これ、飲みかけだけど、良かったら」



「えっ!あ、いや……でも」



「遠慮しないで?貴重な水だから、補給できる時にしておかないと。明日からは、濾過ろかとかして、浄水を作っていかなきゃならないから」




 いや、その問題よりも、間接キスになるという……まぁ、いいか。気にしてたら、俺が変態みたいだ。

 本人が良いと言ってるんだし、ここは遠慮なく。


 意を決して、渡されたペットボトルに口を付けると、隣の彼女が急にハッとした顔になり、俺の手を掴んできた。




「やっぱり、ダメ!返して!!」



「えっ!?もう、飲んじゃったよ?」



「えぇ!?だって、それ……間接……」




 月森さんも、気づいてしまったのか……。

 俺たちが、顔を真っ赤にしながら無言で見つめ合っていると、三浦・朝日奈さん・神坂さんの三人がカレー皿を持って現れた。




「……ん?お邪魔だったようだ。帰るか」



「待て待て待て!これは、何でもないから!!」



「ふっ。とりあえず、元気にはなったようだな。これからの方針を決める。夕飯がてら、会議といこう」




 三浦が目配せすると、朝日奈さんは意気揚々とレジャーシートを広げて、俺ら二人の前に三浦と朝日奈さんが陣取った。なんだかんだ、みんなも俺を心配して様子を見に来てくれたのかもしれない。


 すると、残った神坂さんは月森さんと挟むように、俺の空いていた隣に腰を下ろした。


 そこに座るの!?まぁ、嬉しいけど。



 普段は後ろで結んでいる髪は解かれていて、ロングヘアとなっていた神坂さんに、ちょっぴり色気を感じていると、不意に脇腹を誰かにつねられる。

 犯人と思われる人の方へ向くと、知らぬ存ぜぬといった様子でカレーを食べていた。


 女心は、複雑だ。



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