LV3「ダンジョン・アイランド」・8

 それは、墓場のダンジョンで悪魔・ビフロンスを倒して入手したベル型の召喚器だった。


 突如、地中から出現した骸骨兵スケルトンの軍勢に、ミドルクラスAの生徒たちは混乱している。




「な、なんだ?魔物クリーチャーを、呼び出したのか!?」



「そいつらを、蹂躙じゅうりんしろ!我がしもべたち!!」




 レイジの呼びかけに応えるように、持っていた剣や槍を構えて骸骨兵軍団が、ミドルクラスの生徒たちに向かって突撃していく。


 どうやら、このベルで召喚された魔物クリーチャーは、ベルの音を鳴らした者に従うようプログラムされているらしく、レイジは小さく安堵の息を漏らした。

 一応、武器として持ち込んではみたものの、現実世界では召喚が機能しなかった上に、ダンジョン内でビフロンス以外の者が使用して召喚が可能なのか?また、それを従わせることが出来るのか?などなど……正直、ではあったが、今の彼には頼るものが他には無かった。


 だが、そのは成功に終わったようだ。




「何なんですの!?そのベルも、秘宝アーティファクトの類なのですか?」



「いいや、違う……が、今は説明してるヒマは無い。とっとと、拠点まで退却するぞ!」




 骸骨兵スケルトンとミドルクラスの戦闘の混乱に乗じて、レイジと綾小路のもとへ植村が戻ってくる。

 それを確認して、彼は退却の指示を出した。




「逃げる?数的有利は、こちらにありますわ!また襲われる前に、倒してしまうべきです!!」



「いいや。数こそ多いが、骸骨兵一体一体は下級魔物の雑魚ザコだ。ミドルクラスの冒険者となれば、対抗するすべも持っているはず。それに……」




 チラリと友人の顔を見ると、彼は心ここに在らずのようにフワフワとした表情を浮かべている。

 長年の付き合いで、今の“植村ユウト”は戦える状態にないと判断したレイジは、話を続けた。




「とにかく、退却だ!無闇に突っ込んで、また上泉のような犠牲者を出したいのか!?」



「くっ……わ、わかりましたわ」




“上泉マコト”は、自分を守る為に飛び込んだ結果、命を落とした。それに対して、綾小路も少なからず責任は感じていたようで、珍しく言い返すことなく、三浦の指示に従う決断をした。


 そこへ、三浦兄カズキの声が響く。




「レイジ!逃げるつもりか!?」



「安い挑発には乗らんぞ、兄貴!もし、また喧嘩を吹っかけてくるつもりなら、こちらも相応のをして迎え討つ!!そのつもりで、かかって来るんだな!!!」




 そう言って、レイジは所持していた発煙筒を投げつけ、周囲を大量の煙で包み込む。





「……これまでか。魔物クリーチャーを一掃したら、こちらも体制を立て直す!拠点に、帰るぞ!!」




 潮時と感じたのか、三浦兄カズキは冷静に深追いするのをやめた。これ以上、戦闘の出来る者が減ってしまうのはミドルクラスAにとっても痛手だと判断したのだろう。


 それから、彼は的確な指示を飛ばして、ミドルクラスから一人の犠牲者も出すことなく、骸骨兵軍団を殲滅した。





 遠くから彼らの剣戟音が響く中、無事に戦域を逃れることが出来た三人は、命からがらローAの拠点がある砂浜まで辿り着く。


 一番乗りで迎えに現れたのは、拠点の護衛として残っていた“月森ヒカル”だった。

 暗い表情の面々を見て、勘のいい彼女はすぐに何かあったと察知する。





「おかえりなさい。何か……あった?」



「ミドルクラスの奴らに襲撃されて、上泉をロストしてしまった。何とか、逃げては来たがな。念の為、他の探索班にも帰還命令を出しておいた。じきに、帰ってくるはずだ」



「上泉くんが……そんな……」




 落胆する彼女の横を、ふらふらと植村が通り過ぎていくと、人のいない場所まで歩いて行った。

 その後ろ姿を心配そうに見つめる月森へ、三浦がポンと肩を叩いて言った。




「上泉を守れなかったこと。敵の生徒をPKをしてしまったこと……どちらか。いや、どっちもか。とにかく、それらが原因で今のアイツは珍しく落ち込んでる。頃合いを見計らって、なぐさめてやってくれ。事情は、後で詳しく話す」



「え……う、うん。わかった」




 ふと、残った綾小路と目が合ってしまった月森。

 緊張が走る中、彼女が発した第一声は……。




「……お腹が、空きました!食事は、用意できていて?」



「へっ?ああ、うん!今日の夕飯は、まだ現地調達した食材が揃ってないから、サバイバルグッズとして持ち込んだレトルトのカレーだって。今、料理班のみんなが準備中」



「カレーですか。庶民の料理ですが、ここで贅沢は言えませんわよね。それで、我慢して差し上げましょう!おーほっほ!!」




 綾小路が高笑いをすると、同時に彼女の腹あたりから「グゥ〜」という豪快な音が響く。

 するとお嬢様は顔を真っ赤にして、どこかへと走り去ってしまった。


 どうやら、あまり彼女は落ち込んでないようで安心した。親しいクラスメイトの脱落リタイアに、少なからず月森も気を落としていたが、綾小路の行動にちょっぴり元気を貰ったような気がした。



 ローAの拠点は、軽いキャンプ場ぐらいには設営が進んでいたが、やはりテントのように、しっかりとした寝床までは確保できておらず、担当班が一生懸命に木々を切ったり、紐で結び付けたりして土台を作成中のようだった。

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