LV3「ダンジョン・アイランド」・6

 マコトの太刀が、三浦兄カズキの持っていた銃を真っ二つに斬り裂く。


 突然の一撃に、その場にいた誰もが動きを止める。

 



「どりゃああああ!!!」



 目の前の敵にのみ集中していた綾小路は、油断した相手に向かって突撃していく。

 慌てて矢と銃弾を彼女に向かって放つが、その圧力プレッシャーに照準が定まらない。




「ひいっ!!」



 ドンッ!!




 両腕を大きく広げて二人の喉元にダブル・ラリアットを叩き込み、体を一回転させる剛腕お嬢様。

 撃たれることに恐怖を感じていないのも、また凄い。


 一気に形勢逆転かと思われたが、三浦兄カズキは動揺した表情も見せず、上泉に話しかけた。




「上泉マコト……お前の情報も、調査済みだ。天敵を、用意しておいてやったぞ」



「天敵……?」




 三浦兄カズキが合図の右手を上げると、彼の後ろから“柳生やぎゅうムネタカ”と三人の舎弟が刀を構えて出現した。

 かつての兄弟子、いじめられていた相手……確かに、“上泉マコト”にとっては最悪の天敵だった。




「よう、おぼっちゃん。ここでなら、正々堂々とお前をボコボコに出来ると思って、楽しみにしてたぜ。まさか、こんな早くに出会えるとはな」



「柳生くん……!」




 過去のトラウマが蘇り、剣を持つ手が震え始める上泉。その様子を見て、植村も駆けつけようと走り出すが、飛び道具を構えていたミドルクラスの生徒たちが標的を、彼にも定めた。




「くっ。スタン・モード!」




 しかし、植村は自動回避で敵の射撃を避けながら、ブラスターを命中させて次々と気絶させていく。だが、その間に“柳生ムネタカ”は、ジリジリと上泉との距離を縮めていた。




「どうした?来いよ。お友達がいないと、何も出来ないのか!?どこまでも、情けない野郎だぜ!」



「うぅっ!し……七星剣術・三つ星!禄存フェクダ!!」




 鞘に納めていた刀を、再び抜刀しようとする上泉だったが、手が震えて指を動かすことすら出来ない。

 彼の抱えていた心的外傷トラウマが、発症し身体に影響を及ぼしたのだ。それこそが、三浦兄カズキの狙いだった。




「な、何で!?動け!動いてよ!!」



「あぁ?何の一人芝居だ。少しは、楽しませてくれると期待してたのによぉ……結局、何も変わってねーな。お前は」



「……っ!?」




 冷めた瞳の柳生ムネタカは、硬直して動けなくなった上泉の前に、ゆっくりと歩いて行くと、躊躇なく持っていた刀で彼の身体を一突きに貫いた。




「マコト!!」




 友人の背中から、柳生の刀が飛び出してくると、そこからドクドクと血が流れていく。その姿を見た植村は、悲痛な叫びをあげると、再び彼のもとへと必死に駆け出す。




「か……はっ」



「ん?まだ、息があんのか。おい、お前ら」




 刺した刀を抜き去り彼の血を払って鞘に戻すと、柳生が興をそがれたように、舎弟たちを呼び込み……彼らはその指示に従い、自らの刀を抜いて、次々と満身創痍の上泉を斬りつけていく。





「もう、やめろ!!!」



「ごめん……ね、ユウ……ト」




 薄れゆく意識の中、植村の方を振り向いて彼は最後の言葉を振り絞った。口から血を流しながら。

 次の瞬間……上泉マコトは、光の粒となって消滅してしまった。


 植村にとって、ダンジョン内で仲間が死亡ロストしてしまうのを目撃するのは、これが二度目だった。

 しかし、最初の時は魔物クリーチャーの攻撃による、いわゆる災害のようなものだった。


 今回は、同じ人間によるで、上泉は消滅した。

 守ることが出来なかった自分への不甲斐なさもあったが、それ以上に目の前にいるPK《プレイヤーキラー》たちへの怒りが、植村の心に沸々ふつふつと湧き上がっていた。





「ちょうどいい。次は、お前だ。あの時、俺に恥をかかせたこと……この場で、後悔させてやるぜ」





 おそらく、入学式の日のことを未だに根に持っていたのだろう。しかし、今の植村にとって、そんなことはどうでも良かった。




「最初の一太刀で、勝負は着いていたはずだ。なぜ、追い討ちをかけさせた?」



「勉強だよ。冒険者たる者、人殺しには慣れておかないとだろ?だから、経験を積ませてやったんだ。“人を斬る”って、感覚をな」



「なん……だと?」



「そういう意味じゃ、あのぼっちゃんにも感謝してほしいぐらいだぜ。ダンジョンで死ぬっていうのが、どういうことか……俺らが、させてやったんだからよ。ククク」




 その言葉に、植村は思わず持っていたブラスターを柳生に向かって発射する。




 キンッ!!




 しかし、それを瞬時に抜刀した武器で防ぐ柳生ムネタカ。腐っていても、彼の剣の腕は確かなものであった。




「柳生シン陰流……燕飛えんひ!!」





 それは、伝統的な柳生新陰流にチャクラの要素を掛け合わせて発展させた、枝分かれの現代流派・シン陰流の技。


 ツバメのような衝撃波が植村を襲うと、彼は寸前で体を地面に回転させながら、それを回避した。




「まだまだァ!柳生シン陰流……花車かしゃ!!」




 体勢を崩した植村に、柳生は追撃の手を緩めない。その一振り一振りに必殺の威力が込められた、怒涛の連撃を繰り出していく。



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