LV3「ダンジョン・アイランド」・5

 その後、再び発見したコボルトを隠れて尾行することにした俺たち。しかし、敵はグルグルと同じところを徘徊してるだけのようだった。




「ダメか。この付近を警戒するようにプログラムされてるのかもしれん。ここらにいる魔物クリーチャーを尾行しても、収穫は無さそうだな」



「何なんですの!とんだ、時間の無駄でしたわね!!わたくしに偉そうなこと言っておいて、このザマとは」



「収穫なら、あっただろ。この森には何も無いということ、そして、魔物クリーチャーは決められたエリアからは出ない……と、いうことがな」



「ふん!屁理屈な男ですわね。あなた、口から生まれたんじゃなくって?」




 さっきの一件が遺恨を残してるようで、相も変わらずバチバチしている三浦と綾小路さん。

 頭脳と筋肉の代表みたいな二人だからな、考えも両極にありそうな気がする。


 すると、鼻息を荒くしていた彼女が視線の先に何かを発見したのか、急に目を輝かせて話を変えた。




「あれは……宝箱じゃなくって!?絶対、そうですわ〜!」




 綾小路さんが指差した方に全員が目をやると、確かにド派手な宝箱が森の中にポツンと置いてあった。


 不自然なほどに。


 三浦も同じことを思ったのか、俺に聞いてくる。




「ユウト。どう思う?」



「……怪しすぎる。ここには、何人もの冒険者たちが挑んでるはずだ。あんな目立つ場所にあって、手つかずなのは変だ」



「同感だ。そういうことだから、アレは無視して行く……ん!?」





 俺たちが会話している一瞬の間で、吸い寄せられるように綾小路さんが宝箱へと駆け寄っていた。宝に目がない令嬢なんて、聞いたことがない。





「綾小路さん、ストップ!それ、罠かもしれない!!」



「そんなもの、開けてみなくちゃ分かりませんことよ!」




 あ〜、思い出した。そういえば、試験迷宮クノッソスでもミミックに追いかけられてたな。学習能力が無いのだろうか。


 意気揚々と彼女が宝箱に手を掛けようとした瞬間、は消え、代わりに彼女の周囲の木々から男たちが降ってきて、銃や弓などの飛び道具を一斉に構えた。

 男たちの着ているジャージは、冒険者養成校ゲーティア指定のものだ。





「あっはっは!噂通りの脳筋だな、綾小路のご令嬢は。こんな単純なトラップに引っ掛かってくれるとは」




 降りてきた男子生徒の一人、天然パーマで切れ長の目が特徴的な男が喋り始めると、三浦が軽く舌打ちをして小声で言った。




「ちっ。魔物クリーチャーかと思ったら、奴らの仕業だったか……ミドルクラスAの連中だ」



「ミドルクラス!?なんで、わかる?」



「そりゃあ、分かるさ。アイツは、三浦カズキ……だからな」



「えっ!お、お兄さん!?」




 言われてみれば、三浦のお兄さんも冒険者だったな。けど、まさか……こんなところで、顔を合わせることになろうとは。




「誰かと思えば、お前か。レイジ」



「兄貴……攻略初日から、PK行為かよ?」



「ここでのPKは、禁止されてはいないからな。それなら、まずは邪魔なライバルたちを蹴落としてから、気兼ねなく島を探索した方が効率的じゃないか?」



「効率……ね。兄貴らしいぜ、まったく」




 三浦の兄・カズキは持っていた小型銃ベレッタを綾小路さんに向けて、警告を発する。




「この女の命が惜しかったら……お前ら全員、武器を捨てろ!」




 その言葉に、俺たちは視線を合わせて、様子を伺う。


 捨てたところで、綾小路さんを解放してくれるとは言い切れない。最悪、俺は素手でも何とか戦えるが、レイジとマコトが心配だ。どうする?




「誰を、人質にしてるつもりですのッ!?」




 そんな緊迫した中、綾小路さんが三浦兄カズキに向かって突進していく。本当に、怖いものなしな人だ。



 バキューン!!




「きゃあ!……うぐっ!!」




 三浦兄カズキは躊躇なく銃の引き金を引くと、その弾丸は綾小路さんの足に命中し、彼女は崩れ落ちるように、その場に倒れ込んでしまう。




「アンタのは、折り込み済みだ。圧倒的なパワーを持つ【怪力】のユニーク持ち。で、あるなら……接近戦は厳禁。距離を取って戦えば、どうということはない」



「か……身体が、しびれ……て……」



「魔物専用・即効性の麻痺弾を撃ち込んだ。しばらくは、動けないだろうさ」




 綾小路さんのユニークを、事前に調べていたのか。最初から、俺たちローAを標的にする為に、木の上に張り込んでいたのだろう。




「もう一度、言う。武器を捨てろ!さもなくば、次は……コイツの頭を、撃ち抜くことになるぞ!!」




 三浦の兄貴か……まるで、レイジに非情さを更に付けて加えたような人物だ。言う通りにしなければ、本当に彼は発砲するだろう。


 俺が覚悟を決めて武器を捨てようとした、その時……!




「七星剣術・三つ星……禄存フェクダ




 マコトが、自らの足にチャクラを通すと、縮地の歩法を発動させる。チャクラの爆発力によって、その一瞬の脚力は凄まじいものとなり、一息の間で彼は三浦兄カズキの前まで躍り出ると、鞘に納めていた妖刀を抜く。


 そう、“禄存フェクダ”とはチャクラによる超高速移動を伴った居合い斬り。

“静”の気の性質を持つ彼が、新たに修得していた七星剣術の型であった。





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