LV3「ダンジョン・アイランド」・4

 ゴブリンよりも速い動きで距離を詰めてくるコボルト。顔の通り、犬の如き俊敏性が武器のようだ。


 先陣を切って走る綾小路さんと、剣を構えたコボルトが邂逅かいこうしようとしている。




「綾小路さん!!」




 よく見ると、彼女は武器のようなものは何も所持していない。山田くんを投げ飛ばしていたのは記憶にあるが、彼女の戦闘スタイルは近接格闘なのだろうか?




「ふんっ!!」




 飛び掛かってきたコボルトの顔面を左手の掌で鷲掴みにすると、そのまま地面に勢いよく叩きつけた。プロレス技のアイアンクロースラムの形だが、左手一本の力のみで敵の身体を持ち上げていた。尋常ならざる腕力だといえるだろう。


 さすがの三浦も、その光景には驚いたようで。




「あのキャラで、ゴリゴリのパワータイプかよ!なんちゅう、お嬢様だ」




 仲間の一匹が瞬殺されて警戒心を強めたのか、残りのコボルトたちは足を止めて背中から弓矢を取り出すと、素早く矢をつがえて、綾小路さんに狙いを定めた。ある程度の知性も兼ね備えているようだ。




「ユウト!このままじゃ、綾小路さんが!!」



「ああ!わかってる!!」




 走って行っても、間に合いそうにない。彼女が飛び道具に対して防御策を持っていればいいが、そんなことを確認している暇は無さそうだ。


 俺は走りながら、腰に携帯していた『マナ・ブラスター』を取り出す。




【虚飾】が、【射撃(拳銃)】rank100に代わりました




 あれから何度か試し撃ちをしてみたが、この銃は非常に扱いやすいものだった。通常の銃のように複雑なリロードは必要ないし、反動も無い。良い意味で玩具おもちゃの銃を使ってるような感覚だった。

で、あれば……【虚飾】のスキル代替が活きてくる。


 複雑な操作であればあるほど、rank100の効果は薄れてしまうのだが、これだけ簡単な操作ならば、あとは

 そうなれば、【投擲】と感覚は変わらない。




 バシュ!バシュ!!




 俺の銃から放たれた光線が、綾小路さん目掛けて飛来した矢を撃ち落としていく。高速で動く矢に命中させることは、相当な離れ業ではあったが、この“銃の扱い易さ”と“rank100の技能”が合わさって、それを可能にさせたのだ。




光線銃レイガンだと!?お前……どこで、そんな希少な武器を?」



「知り合いから譲ってもらった!それより、今は戦闘に集中しろ!!」




 三浦と話を交わしていると、危機を免れた綾小路さんが、またしても驚きの行動に出た。


 なんと、気を失っていたコボルトの両足を抱え込み、今度はジャイアントスイングで振り回すと、その勢いを利用して、そのまま弓を持っていた後方の敵に向かって投げ飛ばしたのだ。


 いや、豪快すぎる!女子レスラーかよ!!



 見事に敵同士を激突させると、その突拍子もない攻撃に混乱した敵陣へと切り込んでいくのは、妖刀を構えたマコトだった。



「七星剣術・一つ星…… 貪狼ドゥーべ!三連!!」



 ズババババッ!!!



 目にも止まらぬ速さで、鋭い斬撃を三つ飛ばすと、全て敵の急所を的確に切り裂いて、コボルトたちを制圧するマコト。

 普段からの地道な訓練の賜物たまものか、彼の 貪狼ドゥーべは修得した当初に比べて、斬れ味と正確さが増し、連発することも可能となっていた。




「ナイス!マコト!!」




 俺が声をかけると、マコトは振り向いてニコッと微笑んだ。同じ門下生が強くなるのは、刺激がある。




「余計なことを。わたくし一人で、十分でしたのに」




 不満そうに、手のほこりをパンパンと払う綾小路さんに、三浦が食ってかかった。




「あのなぁ……今回は、雑魚ざこだから良かったものの、もしも敵が上位種の魔物クリーチャーだったら、お前の勝手な特攻でパーティーが瓦解がかいしてたかもしれないんだぞ!?分かってるのか?」



「失礼な。敵の強さぐらい、見極められますわ。それに、いかなる上位種であろうと……わたくしのユニークスキル【怪力】の圧倒的パワーの前には、ひれ伏すしかありませんわ!おーほっほっほ!!」



「ダメだ、こいつ。早く、何とかしないと……」




 絵に描いたような令嬢キャラだな、綾小路さん。

 しかも、何と分かりやすいユニークスキル。

【怪力】お嬢様か……上手く扱えれば、心強い味方になってはくれそうだけど。


 そんな二人の険悪なムードを察してか、マコトが機転を効かせて話を変える。




「で、でも!エスケープミッションに、魔物クリーチャーが出現するなんて珍しいね。もしかしたら、秘宝の番人もいたりするのかな?」



「確かに、ありえない話じゃないな。小型クリーチャーのいるところに、大型クリーチャーあり。もしかしたら、この島のどこかに潜んでるボスを“見つけ出して倒す”ことが、脱出する条件……とか、だったりして」




 そんな俺の言葉に、しばし思案した仕草を見せて、三浦が口を開いた。




「試しに探してみるか?どうせ、闇雲に歩き回ったところで、ヒントは見つからなそうだしな」



「いいけど。探すったって、それも闇雲に歩き回るしかなくないか?」



「いや。さっきみたいな小型クリーチャーを見つけて、尾行するんだ。アジトのようなものがあって、そこに帰ることがあるなら、そこに“ボス”がいるかもしれん」




 魔物クリーチャーを尾行する……か。その発想は、無かったな。敵に帰巣本能みたいなのがあるのなら、試す価値はあるかもしれない。


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