LV3「ダンジョン・アイランド」・3

 班決めが終わり、各班長に決まった生徒の指示で作業を開始し始める。今のところは、キャンプのようで楽しいが、これはただの林間学校ではない。


 準備を整えた三浦が、俺たちに言う。




「よし。俺たちも、行くか。準備は、出来たか?」




 探索班は、小回りのきく四人ずつに分かれてパーティーを編成していくこととなり、色々と相性などを考慮した結果、俺は三浦レイジ、上泉マコト、綾小路レイカと組むこととなった。


 レイジとマコトは、いつものメンバーだが、綾小路さんとは入学初日のトラブル以降、まともな会話を交わしておらず正直、不安だった。




「俺は、大丈夫。二人は?」



「いつでも、いけますわ」




 見た感じ、手ぶらに見えた綾小路さんが堂々と答えると、マコトも黙って首を縦に振った。

 それを聞き、レイジは朝日奈さんから渡された島の全体図を立体映像ホログラムで確認しながら、探索の目的を説明する。





「今日は、とりあえず近場の森を散策する。ついでに食材になりそうな果物や野草、拠点作りに使えそうな木材も回収していく。魔物クリーチャーや他クラスの生徒には、十分に警戒してくれ」



「了解。怪しいものを見つけたら、即報告……で、いいな?」



「ああ。常に武器は出せるよう、手に所持しておいてほしい。何か、質問は?」




 三浦の問いに、腕を組みながら綾小路さんが突っかかる。




「さっきから、偉そうに指示を出してますけれど……あなたが、私たちの班長ということでよろしいのかしら?三浦くん」



「悪いが、指示厨なのは単なる俺の性格だ。班長という立場が欲しいのなら、やってもらって構わんぞ?俺としては、誰でもいい」



「誰でもいい班長でしたら、わたくしがやる意味はありませんわね。お好きな方が、どうぞ」




 出発する前から、バチバチな二人のやり取りを見て、俺とマコトが辟易へきえきしていると、軽く溜め息を吐いて、三浦が言った。




「……だ、そうだ。ユウト、班長は任せたぞ」



「はぁ!?何で、俺?」



「特にやることはないから、安心しろ。いざという時に、指示だけ出してくれればいい。そういうのは、得意だろ?」




 得意なんじゃなくて、いざという時にしか発言できないだけなんだけど……まぁ、いいか。自分で言うのもアレだけど、この中なら俺が班長をした方が一番、丸く収まる気がする。




 そうして、先行き不安なパーティーで森の中を進行していく。とりあえず、使えそうな木材などをリュックに入れていくが、謎解きのヒントになりそうなものは見当たらず、見渡す限り木々しかない。


 マコトも何か見つけてきたらしく、俺の方へトコトコと歩いてくると……。




「ねぇ、ユウト。この野草、食べれそうかな?結構、生えてるから持っていこうと思うんだけど……」



「ん。どれどれ……」




【虚飾】が、【鑑定】rank100に代わりました




【鑑定】を発動させると、植物図鑑のようなテキストが表示される。まぁ、脳内ネットで調べても良いのだが、こちらの方が格段に早く正確な情報を手に入れられる。




「これは、『ツルナ』だね。食べれる野草だよ。しかも、美味しいってさ。一杯、待ってこうぜ」



「えっ、見ただけで分かったの?もしかして、【鑑定】スキルとか、持ってる!?」



「いや……たまたま、知ってただけ」




 下手に【鑑定】スキル持ちとか言うと、どんどん頼まれそうだからな。俺のスキル代替だと時間制限があるから、立て続けに【鑑定】はできない。説明も長くなるし、ここは誤魔化しておこう。




「……ストップだ!」




 突如、真剣な声で俺たちを制する三浦に、全員が足を止めて息を呑む。




「何ですの?いきなり」



「あれを見ろ。魔物クリーチャーだ」



「えっ!?」




 綾小路さんに続いて、俺ら二人も三浦の指差す方向に視線を移すと、全身が灰色の獣人のような魔物クリーチャーが数体、武器を手に徘徊していた。まだ、こちらには気付いてなさそうだ。




「ゴブリンか?いや……違う」



「よく見ろ、犬のような顔をしている。あれは、コボルトだろう。ゴブリンより鼻が効き、俊敏だ」



「さすが、歩くクリーチャー図鑑。で、どうする?」




 これは、ゲームじゃない。魔物クリーチャーを倒したところで、経験値も宝箱も入手できない。

 気付かれていないのなら、このままやり過ごすのがベストな選択といえるだろうが……。




「かかってらっしゃい!犬っコロども!!」



「え?」




 そう叫んで、コボルトの群れに突っ込んでいくのは綾小路さんだった。いや、好戦的にも程がある!

 死ぬのが怖くないのか!?そりゃ、ダンジョンだから生き返るけどさぁ!!


 呆れ顔で、三浦が俺に聞いてくる。




「早速、いざという場面が来たぞ?指示を頼む、班長」



「あ〜……もう。全員、突撃!綾小路さんを、フォローするぞ!!」




 半ばヤケクソ気味に、俺が武器を持って飛び出すと、仕方ないといった表情でレイジとマコトも後に続いてくる。


 そして……もちろん、コボルトも俺たちの存在に気付いて、臨戦体制を取ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る