LV3「ダンジョン・アイランド」・1

 簡単な説明が終わると、「旅のしおり」ならぬ「ルールブック」を渡されて、俺たちは緑のゲートをくぐった。


 その先にあったのは、目の前に広がる海と白い砂浜。反対側には森林と、小高い山も見える。かなり広い島のようだ。




「すっごー!本当に、無人島だねぇ!!」




 キョロキョロと周囲を見回して、興奮しているのは朝日奈さんだ。確かに、冷静に考えると不思議な空間だ。扉の中に島と海が存在しているのだから。

 まあ、正確に言えば、がダンジョンという位置付けなのだろうけど。




「さて、と。ここから、どうするんだ?委員長」




 渡されたルールブックを熟読しながら、三浦が学級委員である明智さんに声を掛けた。




「えっ!?どうするって……なんで、私?」



「これは、クラス対抗戦なんだ。クラスをまとめて、指示を出す人間が必要だろ?そこは、やっぱり学級委員長の出番なんじゃないか」



「そ、そうかもしれないけど……私、そういうのは向いてないかも」





 確かに、明智さんは規律正しく真面目なイメージはあるが、先頭に立ってクラスを引っ張るという性格ではないような気がする。

 そんな不安そうな彼女に、月森さんが寄り添うように話しかける。





「大丈夫。私たちも、フォローするよ!委員長が、代表して指示を出してくれた方が一番、かどが立たずに済むと思うから……やってくれないかな?」



「月森さん……わかった。じゃあ、やってみる」




 オドオドしながら周囲を見回す彼女に、近くにいた俺たちも力強く頷くと……。




「あの!みんな、集まってくださーい!!これから、ローAの方針を決めていきたいと思います!!!」




 バラバラに島を見て回っていたローAの生徒たちが、委員長の必死な大声に反応して集まってくる。

 その様子を確認して、三浦が読み終えたルールブックをポケットにしまい、みんなに話し始める。

 本当に、参謀ポジションが似合う男である。




「全員で固まって動いても、バラバラになっても、どちらも効率が悪い。ここから先は班を分けて、適材適所で動いてもらうのがベストだと考えている」



「班分けは?」




 まるで、お手並み拝見とばかりに腕を組みながら、三浦に聞いてきたのは、霧隠シノブくんだ。




「まず、拠点を作る班。おそらく一日やそこらで解ける謎ではないことを考えると、一週間は体を休められる拠点は必須だ。クラフト系の技能を持つ者は、ここに所属してほしい」




 テントがあればベストなんだろうけど、あの上限金額じゃ用意は出来ない。しかし、一クラス分の寝床を作るだけでも大変そうだ。




「次に、食料班。ある程度は持ってきた者もいるかもしれないが、一週間は保たないだろう。そこで、現地調達する必要がある」




 何か発言しなければと思ったのか、隣で黙って聞いていた委員長が思ったことを尋ねた。




「この島から採れた食料って……本当に、食べれるのかな?」



「食える。確か、文献で同じように長期のサバイバルミッションに挑んだ冒険者が、ダンジョンで調達した食料で飢えを凌いだと記録されている。つまり、この島の植物や生物も現実世界にあるものと同じ……もしくは、忠実に再現されていると考えていいだろう」



「へぇ……そうなんだ。じゃあ、陸地で野草とか、海で魚とか?」



「あれば、ベストだな。なので必要な人材は、食材を見極める鑑定眼を持つ者、狩猟の知識のある者、あとは料理が出来る者も必要だな」




 いよいよ、無人島生活みたくなってきたな。よくテレビ番組では見てたけど、実際に自分が経験することになろうとは。ん?そういえば……。





「あっ!俺、料理スキルある!!」



「アホか。お前は、探索班の戦闘員だ」



「えっ!?何で?」



「基本的に、スイーパーのポジションにいる者は探索班だ。もしくは、生活班の護衛役な。島にはクリーチャー共が徘徊してるらしいし、何より他クラスからのPKも有り得るからな」




 三浦の言葉に反応して、隣で立っていた神坂さんが俺の肩を叩いて、小声で聞いてきた。




「ねぇねぇ、PKって何?ペナルティーキックだっけ」



「あ〜、それはサッカーの方だね。三浦が言ってるのは、プレイヤーキラー。ゲーム用語で、プレイヤーがプレイヤーをキルするっていう……」



「えっ!生徒同士で、殺し合うってこと!?」




 つい、大声が出てしまう神坂さんに、みんなの視線が一斉に集まると、それに気付いた彼女は恥ずかしそうに黙ってしまう。




「そういうことだ。ルールブックでは、PK行為も許容されていた。他クラスの連中が襲ってくることは、十分に想定できる」




 謎解きだけでも難易度が高そうなのに、生徒間の妨害まであるのか。しかも、相手は格上のミドルクラスもいる。色々と、厄介そうだな。




「みんなー!わかったよ〜!!」




 すると、離れたところに一人でいた朝日奈さんが何やら作業を終えて、大きく手を振りながら、俺たちの輪の中に加わった。










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