日常


 あれから、無事に地上へと帰還できた俺は、色々とバタバタしていた『ヴァルキュリア』とは、後日ゆっくりと再会の場を設けてくれることを約束してもらい、一旦の別れを告げた。


 そして、一週間が経過した今日が、その再会の日。




 ここは都内にある野外ライブ会場。もうすぐ、ここで“フギン・ムニン”によるデビュー記念のミニライブが開催されようとしていた。


 既に会場には、抽選で当選したファンたちがペンライトやメンバーの名前が書かれたマフラータオルを持ち、二人の登場を待ち侘びている。

 いつの時代でも、こういう文化は健在のようで、少し嬉しくなった。


 その様子を木の影から遠巻きに見守っていると、ビシッとしたスーツ姿に身を包んだ副団長こと“黒宮ユウカ”さんが、軽く手を挙げて近付いてくる。



「植村さん、お久しぶりです。戦いの疲れは、取れましたか?」



「あ、はい!そちらは、どんな感じですか?黄河団長の容態とか……」



「特に大きな外傷も無かったので、身体的には問題はありません。洗脳は解けたようですが、そのことを思い出して罪悪感にさいなまれているようで……精神的に立ち直るまでは、私が団長代理として『ヴァルキュリア』を管理していくことになりました」



「そう……ですか。お大事にと、お伝えください」




 やはり、黒岩さんの時と同じだったか。救いだったのは、今回は罪を犯す前に洗脳を解除できたことだろう。もし、ウイルスが散布されて大虐殺ジェノサイドを引き起こしていたら……とてもじゃないが、良心の呵責かしゃくどころの騒ぎじゃないからな。




「それと、これは……団長から、あなたに。希望されていた成功報酬です」



「えっ!?」




 小さめのジュラルミンケースを受け取って、中を開けてみると、そこにあったのは空中戦艦レギンレイヴで戦った自動人形オートマタ・ヒルドが所持していた光線銃レイガンだった。

 計画が成功したので、望むものを報酬として渡したいということだったので、サブ武器ウェポンとして使えそうな錬金兵装を希望していたのだ。




「それは、『マナ・ブラスター』。大気中のマナを取り込んで、光線に変える銃です。12発まで連射可能、リチャージに3秒の時間を要するそうです。スタンモードにすれば、敵を傷付けることなく気絶させることも出来ます」



「わざわざ、病み上がりで錬成してくれたんですか!?団長さんが」



「ええ。是非、あなたには礼をしたい、と。それぐらいの錬成だったら、すぐに出来るという話でしたので。どうぞ、受け取って下さい」



「あ……ありがとうございます!」




 この時代では冒険者が銃器を携帯するのは禁止されてはいないようだが、持ち歩くのは抵抗があるな。しばらくは、学園内とダンジョンだけに持っていくようにしよう。

 何にせよ、これでまた戦術の幅が一つ増えた。もちろん、射撃の練習はしなくちゃいけないけれど。




「おう!ボウヤ。元気にしてたかい?」




 この豪快な挨拶は、やはり蓮見さんだ。


 見ると、“九戦姫”の面々が黒服姿で揃い踏みしている。みんな、元気そうで安心した。




「お久しぶりです。キマってますね?そのスーツ」



「ああ、これかい?実は、これから二人のライブの警備をしなくちゃいけないんだよ。私たちでね」



「えっ!?皆さんが、警備するんですか?」



「ま、これも冒険者の副業ってヤツさね。そうそう、ダンジョンなんて見つかるもんじゃないからねぇ。ウチらも、普段はヒマ人なのさ」




 そりゃ、めちゃくちゃ信頼できる警備隊だけど、不審者とか現れたらボコボコにされそうで心配だな。逆に、不審者の方が。

 すると、つかつかと歩み寄ってきた剣持さんから何やらグッズ一式らしきものを差し出され、俺は慌てて持っていたジュラルミンケースを床に置き、それを受け取った。




「ユウトくんも、見てくんでしょ?ライブ。それ、公式の応援用グッズだから。フル装備で、声援を送ってあげな〜」



「え?あ、ああ……ありがとうございます。見てって、いいんですか!?」




 そう尋ねると、黒宮さんが笑顔で答えてくれた。




「二人のリクエストで、あなた用に最前列の席を確保してあります。急ぎの用事が無ければ、応援してあげてください」



「えっ、二人が……そういうことなら、お言葉に甘えて」




 どのみち、遠くから見守ろうとは思っていたが、まさか最前席までプレゼントされるとは。

 関係者とはいえ、ファンの方々を差し置いてのVIP席には抵抗はあるが、本人たちから用意されたら断れないよな。その代わり、全力で応援しよう。




「よ〜し。じゃあ、ユウト!私が、コールを教えてあげるから。今から、みっちり練習だー!!」




 突然の大声と共に現れたのは、背中に“フギン・ムニンLOVE”と書かれた法被はっぴを身に纏って、もはや一オタクと化した朝日奈さんだった。




「あ、朝日奈さんも招待されてたのね……はは」




 こうして俺は彼女から、みっちりと二人のデビュー曲「ふぎむに」に入れるコールを叩き込まれたのだった……。

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