船の中にて

「ねぇ。ユウトは、何の役にも立ってないとか言ってたけど……本音を言うとね?あの時、私を迎えに戻ってきてくれたこと。凄く嬉しかった。めちゃくちゃ、不安だったから……」




 うっすらと地上が見え始めてきた頃、忍頂寺が思い切って心中しんちゅうを語り始める。




「それでユウトに背負われて、凄く安心しちゃって……実は、ちょっと泣いちゃってたんだよ?それで……それでね!?改めて気付いたんだ、自分の気持ちに。私、やっぱり、この人のことが……」




 意を決して忍頂寺が、植村の顔を注視すると……目の前にいた彼は、大きな口を開けて爆睡していた。




「は?いや、このタイミングで寝るか!?フツー!!」




 つい、胸ぐらを掴んで起こしてやりたくなる気持ちに駆られたが、気持ちよさそうに寝ている植村の姿を見て、彼女は出した手を静かに下ろすと、穏やかに微笑みながら、彼の寝顔を見つめた。




「……ま、頑張ってたもんね。そりゃ、疲れてるか」




 まるで、ペットの子犬をでるかのように、植村の頭を優しく撫でる忍頂寺。その時、那須原からのコールが掛かり、誰に見られてるわけでもないのに、慌てて彼から距離を取った。


 通話に出ると、親友の珍しく大きい声が響く。





「テン!無事?生きてる!?」



「う、うん。ちょっと、怪我はしてるけど……生きてるね。今、脱出艇に乗って帰ってるとこ」



「そっか……良かった、本当に。朝日奈さんから、大体は聞いたけど……一体、何があったの?」





 忍頂寺は謎の男の存在など、あった出来事を詳細に説明した。





「……で、今に至るってわけ」



「じゃあ、その『万魔殿パンデモニウム』って奴らが、今回の事件の黒幕?」



「奴の言うことを、信じるなら……ね。それで、空中戦艦レギンレイヴは奪われちゃった」



「それは、仕方ないよ。二人が、生きて帰ることが最優先だから……そうだ!ユウトは!?無事?」





 その質問に、忍頂寺はチラッと横目で爆睡する男の姿を見ながら、答える。





「うん。今は横で、ぐっすり寝てる。そっちは!?みんな、無事?」



「大丈夫。ヒナノが治療して、負傷してた人たちも今は安静に休んでる。副団長は、都市部の状況確認と並行して、団長の様子を監視中」



「そっか……作戦は、成功で良いんだよね?」



「今のところ、首都に異常はないみたいだから。団長の計画を阻止するっていう当面の目的は達成したんじゃないかな。また、新たな問題が発生したけど、それは後で考えればいいでしょう」




 スッキリとは言い難い終わり方ではあったものの、首都にいる人々の命は確実に守られた。

 忍頂寺も、ようやく安堵したのか、肩に入っていた力を抜いて、座っていたシートに全体重を預ける。





 一方、空中戦艦レギンレイヴの玉座には、マモンと名乗った男がレトロな携帯ゲーム機を操作しながら、胡座あぐらをかいていた。




「マモン。進捗状況を報告しろ」




 突如、耳に響いた声は彼の同胞・ルシファーからの通信であった。それに、彼はゲームを操作しながら答える。




「黄河シオリの計画は失敗した。予定通り、第二プランを遂行して、空中戦艦レギンレイヴの強奪には成功……んで、今は我が家に帰宅中」



「驚いたな。“七層盾姫ブリュンヒルデ”を攻略するとは。さすがは、五大ギルドといったところか」



「いーや。攻略したのは“植村ユウト”が実質、ほぼ一人でやってたようなもんだ」



「“植村ユウト”……また、か」




 画面に“ゲームオーバー”の文字が表示されると、マモンは持っていた携帯ゲームを床に投げ捨てた。




「ちなみに、逃げ遅れたと鉢合わせたが……言われた通り、手は出さないで逃してやった」



「……そうか。作戦遂行、ご苦労だった」



「仲間に引き入れるつもりなら、早くしとけよ。あのまま放置してたら、いずれまた俺たちの障害となって現れるぞ。奴は」



「わかってる。ただ、奴には私の【傲慢】が通じない。引き入れるなら、それ相応の準備が必要だ。それまでは、泳がせておく」



「まあ、何でもいいさ。そういう仕事は、アンタに任せとく」




 かぶっていた仮面を口元だけズラし、噛んでいたフーセンガムを膨らませるマモン。




「ついでに、聞いておきたい。お前の見立てでは、“植村ユウト”の大罪スキル……どう、評価している?」



「詳細は、まだ分からんが……戦闘寄りの万能型って感じだろうな。それ単体でも強いが、更に厄介なのがって点だ」



「成長するスキル……?」



「“植村ユウト”が経験値を増やすごとに、スキルも成長している節が見受けられる。具体的な仕組みは分からないが、前回の黒岩ムサシ戦に比べて、格段に戦術の幅が増えていた。確実に、奴のユニークが関係しているはずだ。放っておけば、手のつけられないところまで上り詰める可能性がある……まぁ、あくまで俺の“見立て”だが」



「……そうか、わかった。貴重な意見として、受け取っておく。無事の帰投を祈る」





 そして、ルシファーの通信は途切れた。


 光学迷彩ステルスに包まれた空中戦艦レギンレイヴは一人、マモンを乗せて空を移動していく。


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