信頼

 植村ユウトが剣を振り下ろすと、七色の刃が残像のように、その軌道をなぞって時間差で一枚ずつ“七層盾姫ブリュンヒルデ”のバリアを切り裂いていく。


 一つ一つの威力が必殺級の七回連続斬撃。


 この技の性質は、対“七層盾姫ブリュンヒルデ”に非常に相性の良いものであったが、もちろん植村が狙って開発していたわけではない。まさしく、偶然の産物といえるだろう。




「何だ?一体……何なんだ!?お前はッ!!」




 初めて危機感を覚えたのか、黄河シオリが荒々しい声で叫んだ。

 それもそのはず、得体の知れない男が急に現れて、自慢の守護者級ガーディアンを一撃でほふり、更には“七層盾姫ブリュンヒルデ”までも、単身で攻略しようとしているのだ。

 予期していなかった伏兵の登場に、彼女は確実に



 そして、ついに全てのバリアが破られる。





「テン!今だ!!」




 しかし、焦っていたのは植村ユウトも同じだった。『極光剣ノーザンライト』を使えば、しばらく自身は動けなくなる。もう少しで、“騎兵槍姫ゲイルスコグル”の再起動が終了してしまう。

 もし、テンの回復が間に合ってなければ、ここで詰む。しかし、彼は後ろは向かず、彼女の名を叫んだ。必ず、戻って来ることを信じて。




「ニンジャ・スクロール、展開。シノビ・アーツ……『土遁ランド・スライド』!忍頂寺テン、忍ばず参る!!」




 その期待に応えるように、“忍頂寺テン”は回復していた。いや、この場合は最速で彼女が動けるまでに治療してみせた“雲雀ヒナノ”を褒めるべきだろう。


 彼女の忍術によって戦艦の床が、まるで波のように唸りをあげると、再び団長のもとへと走り出したテンを押し出して運ぶように、加速を促す。




 しかし、またしても予期せぬ展開。




 予想以上の速さで再起動を終えた“騎兵槍姫ゲイルスコグル”が、彼女に向かって突撃を始めた。




 本能的に、テンを近づけてはならないと察知したのか、“黄河シオリ”は『ゲイル・ストーム』を発動させ、騎兵たちに渾身の命令を下す。





「そいつを、近付けるな!排除しろ、“騎兵槍姫ゲイルスコグル”!!」



「……っ!!」




 しかし、テンは足を止めない。急がなければ、せっかくユウトが破ってくれたバリアが再生してしまう。スピードを落とすわけには、いかなかった。


 そして、何より。彼女も信じていた。


 後ろに控えている最高のシューターの腕前を。




「インフィニティ・アロー……オーバードライブ・フルバースト・レイン!マルチ・ロックオン!!」




 那須原の秘宝ゆみやから放たれる百本の矢が、忍頂寺に突撃していく騎兵たちを、次々と射抜いていく。


 高速で動くドローンを、


 そう、那須原ナギのユニークスキル【皆中】によって、全ての矢に命中補正が掛かったのだ。百発百中、そんな言葉を体現するような美技である。




 ボボボボボボボン!!!




 騎兵の爆風を駆け抜けて、ついに忍頂寺は植村のもとに辿り着くと、彼が差し出していた透明の刃を宿した光剣クラウ・ソラスを受け取って、団長の眼前へと迫っていく。




「団長……お覚悟ッ!!」



「甘い!!」




 待ち構えていた団長は、隠し持っていた光線銃ブラスターの銃口を、突撃してくるテンに向けた。


 そして、躊躇ちゅうちょなく引き金を弾こうと指を動かした、その時……!





「うああっ!?」




 全身に痺れが襲い、光線銃ブラスターを落とす団長。それは、身に覚えのある痛み。




「用心深い貴女あなたなら、銃の一つや二つは所持してると思ってました」




 黒宮ユウカが、艦長室限定で発動させていた【罰則】。そのトリガーは、「ここにいる自分の仲間に危害を加えようとすること」。

 機械である自動人形オートマタ騎兵ドローンには効果の無い【罰則】だったが、ただ一人“黄河シオリ”の為に、彼女は罠を張っていた。



 そして、ついにテンの光剣が団長の胴を捉える。



 その“慈悲の刃”は、彼女の身体を傷つけることなく、あしき心だけを斬り裂いた。




「わ……たし……は」




 ドサリと、意識を失って倒れる団長。ようやく終わったと、安堵の息を吐いたテンだったが、残っていた“騎兵槍姫ゲイルスコグル”が襲いかかってくる。


 その魔の手は硬直の解けたユウトにも及び、自動回避で何とか攻撃を凌いでいると、急に全てのドローンが機能を停止した。

 あるじたる“黄河シオリ”が倒れたことで、役目を終えてくれたのだろう。


 しかし、まだ危機は続く。




 ブーッ!ブーッ!!




『自爆プログラムが起動されました。これより、本艦は10分後に自爆します。繰り返します……』




 最後の最後、黄河シオリは空中戦艦レギンレイヴの起爆スイッチをオンにして、気を失っていた。彼女の執念で、最悪の一手が打たれたのだ。




「皆さん、急いで拠点まで引き上げましょう!倒れている仲間を、保護してください!!」





 黒宮さんとナギが、二人がかりで重い蓮見さんの身体を抱える。残るは、姐さんと団長だが……。




「その二人は、私に任せて!」




 名乗り出た朝日奈さんが、『デルタ・ワスプ』のドローンを一機ずつ、それぞれの上空へと移動させると、機体からアームが飛び出して二人の身体を固定し、空中に持ち上げてしまう。




「100キロまでの重さなら、ベータとガンマで運搬できるよ!急ごう!!」


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