特攻

(“騎兵槍姫ゲイルスコグル”が、動きを止めた……?奴らめ、一体何を!?)




 障害物のいなくなった女王までのルートを、植村と忍頂寺が勢いよく駆け抜けてくる。




「スクルド!そいつらを、止めなさい!!」



「!?」




 黄河シオリが叫ぶと、半壊していたはずのスクルドが自己修復を終えて、ほぼ完全な姿で戦線へと復帰してくる。彼女のドローンは止めてみせたものの、まだオートマタが生きていた。


 蓮見が命懸けの一撃で負わせたダメージを、この短時間で回復した守護者ガーディアンの姿に、黒宮は驚きの顔を隠せなかった。




『王にあだなす者……全て、排除する!』




 自身の“加速装置アクセラレータ”を発動して、まずスクルドが狙いを定めたのは、忍頂寺の方だった。




「やば……ッ!?」



『……シールド・バッシュ!!』




 ドンッ!と、まるで交通事故にでも遭ったような音と共に、スクルドの高速突進を真正面から受けた忍頂寺が、再び部屋の入口付近まで吹き飛ばされてしまう。

 不意を突かれたのと加速装置による高速化で、さすがの彼女も対応することが出来なかった。




「テン!!」




 植村が、彼女を案じて振り向くと、「次は、お前だ」とばかりにスクルドが踵を返し、今度は彼に向かって突撃を開始する。

 先にテンを狙ったのは、“植村ユウト”の力を察して警戒したからなのかは分からなかったが、その状況判断は正解だった。


 ここで、植村は一瞬で頭をフル回転させる。



 どうする!?


騎兵槍姫ゲイルスコグル”が再起動を完了してしまえば、作戦の続行は不可能に近くなる。

 つまり、守護者級こいつとの戦闘に時間を割くことは出来ないということ。


 正解のルートは、ただ一つ。


 




【虚飾】が、【ヒプノーシス】rank100に代わりました




「詠唱省略!一撃必殺ワンショット・ワンキル……」




 詠唱をすれば、暗示が強まり威力も増大する“一撃必殺ワンショット・ワンキル”だったが、そんな言葉を悠長に唱えている暇は無い。


 威力は落ちるが、それでも守護者級こいつを一撃でほふるぐらいは出来るはず……いや、出来てもらわなくては、困る。



 キイイイイイイン



 植村の右腕が赤く光り輝くと、接近してきたスクルドへ振り向きざまの一撃を放り込む。




【虚飾】が、【こぶし】rank100に代わりました




巨人拳ギガン・インパクト!!」



 ズドンッ!!!




 その拳は、スクルドの機械の体を貫くと、一撃のもとに敵の意識もろとも刈り取った。


 だが、勝利の余韻に浸ることもなく、すぐに植村は腕を引き抜くと、再び団長のもとへと走り出す。




 糸の切れた操り人形のように、膝から崩れ落ちていく守護者の姿を見て、黒宮は驚きと共に、予想以上だった彼のに若干の恐怖さえ抱いた。




(エリザさんが、あれだけ苦戦した相手を、たった一撃で仕留めるなんて。なぜ、こぞって皆が彼を推薦したのか……ようやく、理由が分かった)




 呆然としていた黒宮だったが、すぐ近くから聞こえる切迫した声に、ハッと我に返る。




「神のご加護を……この者のあるべき姿へ、時よ戻れ!」



 パアアアアアアアッ!



 負傷して倒れている忍頂寺へ、雲雀の【修復】による回復が施されている。時間が無いことを心得ているので、全力で応急処置を敢行していた。


これにより、蓮見と安東の処置は出来なくなるが、忍頂寺がいなければ、この作戦は完遂できない。

雲雀の判断は、正しかった。




 そんな後ろの様子を確認している暇は無い植村だったが、“テンなら必ず戻ってくる”と信じて、自分の任務を全うすることに全力を傾ける。



 まずは、「七星剣術・六つ星“武曲ミザール”」を使って、消耗していた体力スタミナを全快させる。そして、すぐさま左手に持っていた光剣クラウ・ソラスに黒い刃を宿すと……。




【虚飾】が、【ヒプノーシス】rank100に代わりました




武曲ミザール”の効果で、即時使用が可能になった【ヒプノーシス】を再度発動させると、今度は詠唱も唱え始める。




「我が一太刀は、光の如く……全ての闇を、振り払う。我が一太刀は、光の如く……全てのよこしまを、打ち破る。我が一太刀は、光の如く……七つに輝くつるぎとならん!」




 キイイイイイイン




 植村の持つ光剣クラウ・ソラスの刃が、黒から七つの虹色へと変化してしてゆく。

 彼の“チャクラ”で構成されている光の刃は、いわば“植村ユウトの身体の一部”のようなものだ。

 それならば、【ヒプノーシス】による「自己暗示:一撃強化」の効果が及ぶのではないか?


 そうして、彼が密かに修練を積んでいたのが“この技”だった。




一刀両断ゴルディオンノット・カット……」




 団長の“七層盾姫ブリュンヒルデ”に近付いてくると、彼は光剣クラウ・ソラスを両手持ちに変え、大きく振りかぶる。


 すると、七色だった光刃が分離していき、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫、各色の七つの刃へと徐々に枝分かれしていく。




「くっ!お前のような軟弱な男に、“七層盾姫ブリュンヒルデ”は破れはしない!!」




 自慢の錬金兵装ブリュンヒルデに、絶大な自信を持っていた“黄河シオリ”ではあったものの、目の前でスクルドを一撃のもとに葬り去った、この“謎の男”の脅威に、その自信は揺らぎつつあった。


 そして、放たれる必殺の一太刀……もとい、





【虚飾】が、【近接戦闘(刀剣)】rank100に代わりました




「……極光剣ノーザン・ライト!!!」


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