選択

 俺たちが艦長室に到着すると、ちょうど蓮見さんが自動人形オートマタを抱きかかえて自爆したところを目の当たりにしてしまう。


 正確言えばは、生命エネルギーをオーラに変えて爆発させた特攻技だった。剣持もそうだったが、“九戦姫”の上位メンバーは生命力を“チャクラ”に変えて、膨大な威力を生む“奥の手”を、いざという時の為に修得していたのだろう。


 これ以上は、やられてしまうと判断し、せめて守護者級ガーディアンを道連れにしようと、命を削って起死回生の一撃を放ったのだ。




「副団長……状況は!?」




 今の自爆技で蓮見はスクルドと共に倒れ、見ると安東も傷だらけで倒れているのが見えた。

 慌てて、黒宮に状況を尋ねるナギに返ってきたのは、意外な答えだった。




「皆さん……残念ながら、作戦は失敗です。『セーブ・ポータル』を預けます。安全な所まで撤退して、“ヴァルハラ”に帰還して下さい」



「なっ……何を、言ってるんですか!?」



「エリザさんと、イブキさんは戦闘不能となりました。この時点で、我々に団長の“七層盾姫ブリュンヒルデ”を攻略する手段はなくなったのです。ですから……作戦は、失敗です」



「あきらめる……と、いうことですか?」




 ナギの強い瞳を真っ直ぐ見つめ返し、彼女は首を横に振った。




「時間を置けば、団長は再びウイルスを生成してしまう。一度、帰還すれば、再び空中戦艦レギンレイヴに転移するのも、警戒されて困難となることでしょう」



「なら!」



「ですから……私が残って、この艦を爆破します」





 黒宮がスッと取り出したのは、タイマーが記されたモニターの埋め込まれた、銀色の球体だった。

 それを見て、テンが声を荒げる。




「それ……もしかして、爆弾ですか!?」



「はい……最新鋭の小型爆弾です。こんなこともあろうかと、最後の手段で持ってきました。私は、起爆するまで、この結界内で爆弾を守ります。あなたたちは、コレが爆発するまでに、ここから脱出して下さい」



「そんな……エリザさんと、イブキさんは!?」



「まだ、息はあるかもしれませんが……“騎兵槍姫ゲイルスコグル”の攻撃を掻い潜って、回収するのは困難でしょう。残念ですが、あきらめて下さい」




 冷酷な言葉だったが、誰よりも救いたい気持ちがあるのは黒宮なのだ。だが、頭の中で様々なシミュレーションを重ねて、なるべく多くの生存者を残す為に、心を鬼にして彼女は言っていた。


 そこに、高速でキーボードを操作していた朝日奈が、凄まじい集中力で自分のドローンからの映像を確認しながら、叫ぶ。





「待って下さい……もうちょっとで、司令塔を割り出せそうなんです!そうすれば、二人を助けられるかも!!」





騎兵槍姫ゲイルスコグル”は動きを止めて、こちらの動向を窺うように空中で臨戦態勢を取っていた。だからこそ、司令塔の一機を特定しやすい状況になったといえる。


 そんな中、そのドローンたちに制止命令を出していた団長が、言葉を発した。




「随分と、慌ててるようね。らしくないじゃない?ユウカ」



「……団長」



「本気を出せば、そこにいる新人たちも、すぐに始末することは出来るけど……私の狙いは、地上にいる男共だけ。本来なら、可愛いあなたたちを自らの手になんて、かけたくなんてないの」




 わざとらしく芝居がかった悲しんでるフリをする団長。その余裕は、もはや勝利を確信してるかのようだった。

 それは、そうだろう。全ての艦内の様子は把握しているはずだ。蓮見、剣持、安東、巻島と『ヴァルキュリア』の主戦力は、ほとんど沈黙させたのである。彼女の頭にあった不安要素は、ほぼ無くなっていた。




「このまま、大人しく帰還するというのなら、黙って見逃してあげるわ。5分の猶予を与えます。自分たちの運命を、選択しなさい」




 一度、帰還してしまえば、おそらく二度と、この戦艦内に転移することは出来なくなるだろう。

 そして、確実に大量殺戮ジェノサイドが実行に移される。


 団長の中に僅かに残っていた良心が、その選択を与えたのか。それとも、本当に男を始末することにしか執着がなかったのか。その真意は分からなかったが、この選択が重要なものであることは、この場にいる誰もが理解していた。


 そして、黒宮が小声で仲間に語りかける。




「好都合ですね……帰還しましょう。そして、帰るふりをして、私だけが爆弾と共に船に残る。そうすれば、団長の計画は阻止できます」




 だが、やはり納得できないのは仲間を思う気持ちが人一倍強いテンだった。




「そんなの……全然、ハッピーエンドじゃない!男の人たちも、副団長も団長も、みーんな助けて、この作戦は成功なんです!!置いてくなんて、できません」



「ありがとう。その気持ちだけで、十分です……ですが、これしか他に方法が無いんです。わかってください」



「やだ……やだ!絶対に、何か方法があるはずです。みんなを救える方法が……そうだ!!ユウト、ユウトなら、何か……」




 泣きそうになる瞳で、助けを求めるように俺の方を見つめてくるテン。それを、ナギが冷静に静止しようと、彼女の肩を掴んで首を横に振る。

「無茶を言うな」という意志を込めて無言の視線を飛ばすと、親友はシュンと肩を落とした。


 そして、俺はその様子を見て、ある決意を固める。




「いや……ある。みんなを助けられる方法が、一つだけ」






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