スコグルの嵐

 黄河シオリの音声を認識し、“騎兵槍姫ゲイルスコグル”の形状が変化してゆく。光線を放っていた銃口が、鋭い矛先に取って代わると……。



 ズバババババッ!!!



 空中に飛んだ蓮見へ一斉に突撃し、難攻不落と思われた彼女のオーラ・アーマーを切り裂くと、全身を切り刻まれて、その体は地に落とされる。




「が……はっ」



「蓮見さん!!」




 心配して蓮見の身を案ずる安東だったが、既に自分も第二形態と化した“騎兵槍姫ゲイルスコグル”に取り囲まれてることに気付く。

 そして、彼女は敵の異変を素早く察知する。




「まさか……全てのドローンに、団長のチャクラが付与されてる?」




 武器に“チャクラ”を通して強化させることが出来るのならば、たる“騎兵槍姫ゲイルスコグル”にも“チャクラ”を通せることは不思議なことではなかった。


 しかし、対象は千機に及ぶドローン。しかも、手元を離れて飛び回っている物体に“チャクラ”を通すということは、およそ常人には不可能な芸当ではあった。


“黄河シオリ”は、自身の戦闘力こそ一般人に等しかったが、“チャクラ”のコントロールにかけては天賦の才を持っていた。特別に大きいわけではない“チャクラ”を精密操作することで、最大の効果を発揮させることが出来る。


 今回の場合は、“騎兵槍姫ゲイルスコグル”の矛先のみに“チャクラ”を宿すことで、威力や硬度を上昇させていた。これこそが、『スコグル・ストーム』……彼女の、攻撃の切り札だった。




「ぐっ……多すぎる!防ぎ、きれないッ!!」




 蓮見が倒れたことで、スカーフの効果が薄まったのか、次に狙われたのは安東だった。

 華麗な剣捌きで襲ってくる騎兵たちを最初は凌いでいたが、その数の暴力で徐々に押し込まれていく。




 誤算だった。


 目の前でエースの二人が危機を迎えているのを、黙って見ているしか出来ない“黒宮ユウカ”は、自身の詰めの甘さを呪った。

 オーバーテクノロジーたる“騎兵槍姫ゲイルスコグル”の兵装が、光線銃レイガンだけのはずはない。なぜ、近接攻撃を仕掛けてくることを想定しなかったのか?なぜ、対策を練らなかったのか?


 作戦参謀も兼ねている彼女だからこそ、後悔の念が押し寄せていた。



 しかし、それこそが“黄河シオリ”が、首都上空に来る時期を早めた理由でもあった。

 常に最高の準備を怠らない黒宮に、十分な作戦を考える猶予を与えない為。そして、その狙いは見事に成功していた。



 そして、ついには黒宮たちにも“騎兵槍姫ゲイルスコグル”の凶刃が襲いかかる。




 キン!キン!!キン!!!




 だが、その攻撃は黒宮・雲雀・朝日奈を取り囲むように発生した光の結界によって阻まれた。





「レベル2の秘宝アーティファクト……『守護の魔法陣』。念の為に、使っておいて正解でした」





 彼女たちの下に敷かれた正方形のシートには、六芒星の魔法陣が描かれている。この秘宝アーティファクトの上に立っている者は、いかなる外からの干渉も受け付けなくなる絶対的な安全圏にいることとなる。


 その代わり、その上から動くと結界から外れてしまうほか、結界越しに攻撃することも出来ない。つまりは、籠城することしかできない守備専用の秘宝であった。




「うおおおおおおっ!!!」




 ついに安東も窮地を迎えた時、けたたましい叫び声と共に、傷だらけの蓮見が根性だけで立ち上がってみせる。




気炎万丈スピット・ファイア!!」



 ゴウッ!!




 彼女のオーラ・アーマーが炎となって周囲に放たれると、取り囲んでいた騎兵ドローンたちが一掃される。

 しかし、その炎を盾で防ぎつつ、体勢を立て直した守護者スクルドが加速しながら突っ込んでいく。




「こりない野郎だね!!」




 さっきと同じように、受け止めようと身構える蓮見に対し、掴まれる寸前にバックステップを挟んだスクルドは、隙だらけとなった彼女の肋骨あばらぼねにハンマーを叩き込む。



 ミシッ



 明らかに、骨が折れた嫌な音が体内から響く。そして、顔を歪めて怯んだ相手に、守護者級ガーディアンが更なる追い討ちをかけていく。



 ゴッ!ゴッ!ゴッ!



 まるで黙々と作業をこなすように、高速で蓮見の周囲を旋回しながら、身体の脆い部位を狙って、的確にハンマーで殴打するスクルド。“騎兵槍姫ゲイルスコグル”を退ける為に解放してしまったオーラ・アーマーが、守護者との戦いでは裏目に出てしまう。


 頑丈タフさが売りの蓮見が、成すすべなく壊されていく。




「朝日奈さん!まだ、司令塔は見つかりませんか!?」



 そんな二人の危機に、結界内で見守っていた黒宮も、さすがに焦った口調で朝日奈に催促をする。




「やってます……けど!急に、ドローンの動きが速くなったせいで、特定も難しくなってるんです!!」




 ただでさえ、千機あるうちの一機を見つけるという途方もない作業だというのに、団長の使った『スコグル・ストーム』のせいで、その難易度は跳ね上がっていた。

 光学迷彩ステルスで飛ばしてるおかげか

、彼女のドローンに危害は及んでいなかったが、それでも特定までには至ってなかった。




「さ……千客万来サウザンド・オブ・カスタマーズ




 何かを決意した表情で、薄れゆく意識の中、蓮見エリザは技を発動させた。


 彼女の背中から巨大なオーラの両手が広げられると、スクルドを強引に抱きしめるようにして捕縛すると……。




一蓮托生コモン・デスティニー!!!」







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