男性殲滅ウイルス

「……大丈夫?テン」



「ライアン!」




 テンが無事な様子を見て、安心した表情で微笑むと、ライアンはガクッとその場に膝をついた。


『ヴァルキュリア』の戦闘服には、耐熱効果もあるとはいえ、至近距離であの爆発を喰らった彼へのダメージは深刻だった。

 しかし、彼が身を挺して守らなければ、テンも共々に爆風に巻き込まれていたことだろう。




「アタシは、大丈夫……死んでなけりゃ、なんとかなるわ。それより、早くウイルスの回収を!ナギ、やり方は分かってるわね?」




 ライアンの言葉に真剣な眼差しで頷くと、彼女は腰に携帯させていたケースを取り出しながら、ウイルスのもとへ歩いていく。先生の負傷に動揺しているはずなのに、それを表に出さないのは流石だった。




「ユウト。あのガラス、中のウイルスを傷つけないように壊せたりできる?」



「え……あっ、うん!俺の剣で丁寧にやれば、出来るかも!!」



「よし。じゃあ、お願い」




 慌てて光剣クラウ・ソラスの刃を、出力を最小限にして出しながら、ナギに言われた通り、ウイルスを囲っていたガラスケースに、ゆっくりと突き刺し、円を描くように削り取りながら動かしていく。



 ガコンッ



 余裕を持って、手が出し入れできるぐらいの大きさにガラスケースをくり抜いて、ナギに目配せすると、彼女は厚手のグローブを装着した手でウイルスと思われるシリンダーを回収した。


 そのウイルスを、持っていたケースの中へ慎重かつ丁寧に移し替えていくナギ。




「先生。回収、完了しました」



「ご苦労様。これで、ここに用は無くなったわ。一度、拠点まで引き返しましょう」




 テンが、ぐったりとしたライアン先生に肩を貸しながら、何とか立っている状態の彼を支えていた。




「先生。本当に、大丈夫ですか?」



「ふふっ、大丈夫……と、言いたいところだけど。すぐに、戦線復帰とはいかなそうかもねん。拠点に治療キットが置いてあるはずだから、それを使わせてもらうわ」




 治療キット……そういえば、『ヴァルキュリア』で所有している回復系の秘宝アーティファクトを持ってくるとか言ってたな。神坂さんを治した秘宝も凄い効果だったし、それならライアン先生もすぐに完治できるかもしれない。



 そうして、再びエレベーターを降りると、そこにあったのは多数のオートマタの残骸に囲まれて、肩で息をしながら、へたり込んでいた剣持さんの姿だった。





「アイリ!」



「はぁ……はぁ……ライアン?おかえり」




 手の空いていた俺とナギが、すぐに剣持さんのもとへ駆け寄っていく。よく見ると、彼女も全身に傷を負っており、思った以上に満身創痍の様子だった。




「大丈夫ですか?ウイルスは、無事に回収しました。まずは、拠点に戻って回復しましょう」




 二人で彼女に肩を貸して、両脇から華奢な身体を支える。ナギの報告に、剣持さんも安堵した表情を浮かべた。




「ないす〜。これで、あとは団長だけか……あっちも、無事だといいけど」



「何にせよ、オートマタの数が多いのが問題です。召喚速度も早くて、次から次へと軍団規模で送り込まれて来ます。少数精鋭の部隊だと、消耗は余計に激しくなるでしょうから……」



「そうだね。私も、ギリギリだったからなぁ……」




 ナギと剣持さんの会話を聞きながら、俺は自身の【近接戦闘(刀剣)】の持続効果が切れたことを確認した。基礎体力が向上しているからか、初期の頃から比べれば持続時間も伸びてきている。

 守護者級ガーディアンとの戦闘まで耐えてくれて、ありがたいと思うべきだろう。


武曲ミザール”を使えば、即時使用リセットが可能となるが、一日一回しか使えないことを考えると、なるべく多くのスキルを使い切ってから使用する方が、効率的と考えている。

 もちろん、緊急事態になったら迷わず使わなければならない。出し惜しみしたまま敗北してしまうのは、愚の骨頂すぎるからな。


 とはいえ、機械相手には【近接戦闘(格闘)】は相性が悪い。こう言う時のために、何かサブ武器でもあれば戦術も広がりそうだが、まずは今の作戦を生きて成功させることに集中しよう。




「あっ!見えてきたよ!!インスタント・ドーム」




 幸い、戻ってきたカタパルトにオートマタの気配は無く、何とか安全に拠点まで、負傷した二人を連れてくることが出来た。


 大きめのテントぐらいの広さのドームに二人を寝かせて、ナギが置いてあったコンテナボックスの中から回復用の秘宝を取り出す。




「あとは、自分で応急処置できるわ。みんなは、先に副団長のところへ合流して?」




 ライアン先生は、ナギから回復キットを受け取ると、俺たちに語りかけた。




「大丈夫なの?ライアン」



「ええ。体だけは、昔から頑丈なのよ。でも、二人が完治するまで待ってたら、時間が掛かるわ。向こうだって、少しでも戦力は欲しいでしょう。だから、ここは二人で何とかする」




 何か言いかけたテンだったが、先程の一件を思い出したのか、今度は黙って提案を受け入れる。




「わかった。でも……何かあったら、すぐに連絡してよね」



「ええ、ありがとう。100点の解答よ、テン」




 ポンッと、テンの頭に手を置いて微笑むライアン先生。そして、俺たちは二人を残し、副団長たちと合流するべく、改めて拠点を出発するのだった。


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