戦火のヒルド

「コイツ……本当に、ニンゲンか?」




 ヒルドが困惑するのも無理はなかった。銃火器の扱いに特化した自動人形オートマタであるヒルドの射撃は、ことごとく植村の急所を目掛けて正確に射出されていったが、その全てを光の剣で弾き飛ばしてくるのだ。


 並外れた反射神経、卓越した技巧。【近接戦闘(刀剣)】rank100の状態だからこそ出来る驚異の神業だった。




「一発必中が、叶わぬのならば……百発百中の弾幕なら、どうだ!?」




 ガコンッと両肩の機巧が展開すると、中から二基のミサイルランチャーが飛び出して、今度は植村へ無数のホーミングミサイルを発射する。




 ドドドドドドドドッ!!!




「くっ!?」




 それは、“植村ユウト”にとっては最悪の攻撃。

 逃げ場の無い圧倒的物量による一斉射撃が相手では、剣で弾くことも“自動回避”することも出来なくなるからだ。


 頭をフル回転させて、打開策を練る彼の背後から、“那須原ナギ”の叫び声が聞こえた。




「ユウト!伏せて!!」




 その言葉に、咄嗟に地に伏せて後ろを振り向くと、

 ナギの弓から、無数の矢が飛んできていた。




「インフィニティ・アロー……オーバードライブ!フルバースト・レイン!!」




『インフィニティ・アロー』には使ってしまうと、しばらく通常射撃が出来なくなる代わりに、強力な攻撃を行うことの出来る“オーバードライブ”というモードが、存在していた。


 この「フルバースト・レイン」は、100本の矢を宙に装填セットして、一気に掃射するという広域殲滅型の大技だった。




 ボボボボボボボン!!!




 飛来するホーミングミサイルを、無数の矢で迎撃し、ユウトに着弾する前に誘爆させていく。更には、何本かの矢が爆風をすり抜けて敵に襲いかかると、ヒルドは腕部から盾を展開して、それを防ぐ。




「私たちだって、ただ見てるだけしか出来なかった……あの頃とは、違う!そうでしょ?テン!!」




 それは、彼女たちが初めて植村と出会った山中でのこと。強力な傭兵のリーダーと激突した彼の戦闘は、その頃の二人には介入できないほどであり、ただ大人しく見守ることしか出来なかった。


 しかし、あれから歳月は流れ、二人は様々な経験を積み、急激な成長を遂げていた。





「そういうこと!ニンジャ・スクロール、展開。シノビ・アーツ……『火遁ファイア・ボール』!!」



 ゴウッ!!




 植村の頭上を、ぴょんと一回転しながら飛び越えたテンは、指で印を結ぶと豪火球を出現させて、ヒルドの全身を包み込み、焼き焦がしていく。




『ぬるいッ!!』




 ボディーに相当な耐熱効果が付与されているのか、すぐに身に纏わりついていた炎を振り払うも、それも織り込み済みだったテンが、雷光刀ヴァジュラを逆手に突撃していた。




「はあああああっ!!」



『ナメるなよ!?ガキが!』




 ヒルドが自分の腹部のパーツを強引に剥ぎ取ると、中からガトリング・ガンが姿を現し、テンに向かって引き金を引く。


“戦火のヒルド”は、全身に銃火器を仕込んだ自動人形オートマタ。まさしく人型の兵器であった。



 ズドドドドドドドッ!!




「テン!!」




 目の前で、ガトリング・ガンによって蜂の巣にされてしまったテンを見て、思わず名前を叫ぶ植村。

 だが、次の瞬間……その蜂の巣にされた“忍頂寺テン”の姿は、大きな丸太へと変化する。


 シノビ・アーツ『変わり身』。瞬時に、自身の姿を丸太に変えて、ダメージを無効化する忍術だ。




『な……に!?』




 唖然とするヒルドを他所目よそめに、敵の背後バックを取っていたテンは、一気呵成に忍術を展開させていく。




「シノビ・アーツ……『影縫い』!」




 トトトトトッ




 戦闘服に忍ばせていた投げ苦無くないを数刀、ヒルドの影に撃ち込むと、敵の動きが停止する。





『体が……動かん!?』



「シノビ・アーツ……『雷遁サンダー・バード』!!」





 ズバッ!!!




 まるで雷鳥のようなオーラを放ちながら、電光石火の一太刀でヒルドの首を斬り落とすテン。

 バチバチと全身をショートさせて、敵の胴体は崩れ落ちていく。



 しかし、空中に放り出された敵の頭部には、まだ意識が残っていた。目を怪しく光らせ、テンに目掛けて最後の意地から、アイ・レーザーを放とうとしている。

 完全に勝利を確信したテンは、その気配を感じ取ってはいないようだ。



 あわや、レーザーが射出されようとした、その瞬間……突如、飛び込んできたモヒカン男が、その頭部を思い切り強く蹴飛ばすと、ヒルドの頭蓋は壁に激突して爆破した。




「せっかく、褒めてあげようと思ったのに!最後の最後で、油断したわね?テン。80点!!」



「えっ、ウソ!?まだ、生きてたの?さっきの奴!」



「危うく、光線に貫かれるところだったわよ?ま!とにかく、無事に倒せて良かっ……」




 いや、待て。いくら、四人で力を合わせたといっても、あっさり行き過ぎなのではないか。まだ、何かあるのでは?


 そんなライアンの用心深さが、崩れ落ちたヒルドの胴体から微かに流れているチチチチチ……という、不快な音に気が付かせる。




 爆弾だ!頭部にはレーザー、胴体には自爆装置。それが、敵の持っていた“切り札”だったのだ。




 ライアンは、着ていた戦闘服をバッと大きく広げて、テンの前に立ち塞がった。


 そう、彼女を爆発から守る為に……。






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