剣持アイリ

「“戦い”の詩……フロックの雪!」



 剣持が『アダマントソード』を地面に突き刺すと、周囲に巨大な雪の結晶が出現し、ミサイルに触れて誘爆を引き起こす。

 これも、チャクラによって自然エネルギーを操る技術の一つであった。


 その爆破をすり抜けるようにして、再びフリストへ突撃して、接近戦を仕掛けていく。



 ギンッ!!



「早く行って!!」




 普段は温厚な剣持から発せられた鬼気迫る声に、ついにテンも覚悟を決めたようだった。




「行くわよ、みんな!!」




 ライアンを先頭にエレベーターの中へと入っていく三人を見て、フルフェイスの兜の中で安堵の表情を浮かべる剣持だったが、彼女の真の戦いは




『……加速装置アクセラレータ、起動』



「!?」



 ギャギャギャギャギャ!!!




 突如、スピードアップしたフリストは、徐々に剣持を押し返し、鎧や剣を削り取っていく。“速さ”を武器としている彼女にとって、ここで上回られてしまうと戦局は大きく変わってくる。




『まずは、貴様を排除だ!次に、逃げた奴らを一人ずつ処刑してやる!!クククッ』



「なら……こっちも、使わせてもらおうかな?加速装置を!」



『なに!?』




 彼女が、装着していたベルトに付属していたダイヤルを、一気に右回しする。


 それは、“重力ベルト”という自分自身に重力フィールドを発生させ、過負荷を上昇させるという未来のトレーニング器具だった。


 だが、“重さ”を“速さ”に変換できる『剣持アイリ』が使用する時に限り、それはトレーニング器具から強力な加速装置へと変貌を遂げる。




「“剣”の詩……グンの火!!」




 フリストのチェーンソーによって、ところどころ削り取られてしまった装備で、再び剣持が息を吹き返す。敵の加速を更にまた上回る速度で、まずは両腕のチェーンソーを斬り落とすと、烈火の如き勢いで十字剣を振り乱していく。




『面白い……世界が違えば、こうもニンゲンの出来が違うものか!』



「何を、言ってるの?あなたは、もう……終わりよ!!」



『いいや、まだだ!!』




 突如、敵の腹部から飛び出してきたワイヤーが、剣持とフリストの身体を強く巻きつけ、密着状態にすると……。




「な、何をする気!?」



『零距離で、貴様のその自慢の鎧ごと融解させてやろう!ヒート・ブレイザー!!』



「……っ!?」




 今度はフリストの胸部が展開すると、真っ赤に光り輝いた直後、灼熱の光線を放射した。





 ドゴオオオオオオオン!!!




 凄まじい爆発は一人と一体を飲み込んで、周囲に爆風を轟かせる。


 すでに、メガロ・ソーの斬撃によって損傷していた『アイギスメイル』は、その凄まじい熱量に耐えきれず、黒焦げとなって、床に落ちた。





『直前で、鎧を排除パージして難を逃れたか。良い判断だ』





 大量のエネルギーを消費したのか、赤く輝いていたフリストの胸部は次第に消灯していく。

 とはいえ、先程の爆発に巻き込まれたダメージは見受けられない。自身の放った攻撃なのだから、当然といえば当然なのだが。



 対する剣持はというと、鎧を排除しつつ後方へと飛んでダメージは逃したものの、ところどころに火傷を負って、鎧も失うという窮地に立たされていた。




「はぁ……はぁ……」



『ニンゲンにしては、楽しめた。感謝の念を込めて、貴様の愛用していたで、トドメを刺してやろう』




 斬り落としたはずのフリストの腕だったが、切断面から飛び出てきたコードのような束が人工筋肉のような形に変わって、あっという間にヒトの手の形へ再生すると、剣持の落とした『アダマントソード』を拾い上げた。


 かなりの重量があるはずなのだが、さすがは機械生命体オートマタ。パワーも、並の人間を軽く凌駕するほどのものだった。




「…………」




 鎧も失い、剣も失った彼女は、もはや勝機は無いと悟ったのか、敵が近付いてくるのを、静かに目を閉じ、座して待った。




『ほう、知っているぞ。貴様は、“騎士”ではなく“武士”だったか!良かろう、介錯かいしゃくしてやる』




 完全に勝利を確信したフリストは、座る剣持の前でピタッと止まると、『アダマントソード』を振りかぶる。介錯……彼女の首を、ねるために。




「“運命”の詩……オージンの乙女」



『……?』




 ズンッ!!!




 剣持の言葉に、一瞬だけ停止したフリストの体を、天から降ってきた巨大な光の大剣が真っ二つに貫いた。断末魔の声さえも挙げる暇なく、白き守護者は逆に介錯されてしまったのだ。


 それは、剣持アイリの切り札。


 今ある生命エネルギーのほとんどを犠牲にして創り出した光の大剣。座って攻撃を待っていたのは、宙に創造を始めた大剣に悟られないよう、敵の視線を下へと誘導していたのだった。


 辛くも勝利したものの、気力も体力も限界まで削れてしまった剣持は、ふぅと息を吐くと床に転がった十字剣を拾い上げる。



 そして、気付く。



 周囲が、新たにやって来たオートマタ軍団によって包囲されていることに。


 一瞬、彼女の頭に“絶望”の二文字が浮かんだが、すぐに仲間たちの顔が浮かんで、その言葉を掻き消した。意を決して、彼女は再び立ち上がる。




「さて……行ってみるか。限界の先へ」




 剣持アイリの第二ラウンドが、始まった。

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