空中戦艦(エンジンルーム)

 ザンッ!!



 最後の一体ビッグフットの片足を、剣持さんの十字剣が斬り裂くと、敵の第二波を鎮めることが出来たようで、残ったオートマタは見当たらない。




「第三波……とか、ありませんよね?」



「この船は、並行世界から無限にオートマタを召喚できるらしいわ。重量制限オーバーにならない限りは、永遠と仕向けて来るんじゃないかしら」



「それは、困りましたね。今の量が何波も来たら、さすがに体力が保ちませんよ?」



「そうね。だから、とっととウイルスを見つけて回収しちゃいましょう。団長を止めるか、どこかにある召喚機構を破壊しない限りはオートマタの侵攻は半永久的に続くでしょうから」




 ナギとライアン先生の会話を聞いて、剣持さんが指示を飛ばした。




「じゃあ、休憩は歩きながらで。進軍を優先させよう。みんな、それで大丈夫?」




 コクリと頷く俺たちを見て、剣持さんはオートマタの残骸の間を先導して歩き始めた。

 オートマタの一つ一つの個体は、それほどの戦力は有してないが、やはり厄介なのは数にモノをいわせた人海戦術だろう。行く先々のエリアで、この数の軍勢が待ち構えてるとなると少数精鋭の俺たちには不利となる。



 ウィーン



 通路の終着点にある扉が、またしても自動で開くと、そこは広い円形エリアの奥に複雑な機構が並ぶエンジンルームと思われる一室だった。




「ここにあるエレベーターを上がれば、ウイルスのある部屋に行けるみたいです」




 俺がナビに従って、エリアの脇にあった筒状のエレベーターを指差す。戦艦内に昇降用のエレベーターまであるのが、この艦の規模を物語っている。




「……ちょっと、待って。何か、来る」




 エレベーターに向かって歩こうとすると、剣持さんが右手を横に伸ばして、俺たちの動きを制した。


 すると、彼女の言った通りに、は来た。




『貴様らが、侵入者か。少しは、骨がありそうだ』




 天井から、足裏のブースターを弱めながら、ゆっくりと着地して来る人型の機械。この時代では喋るのも珍しくはないが、ここまで流暢に会話するできるほどの高性能AIは見たことがない。これが、並行世界のオーバーテクノロジーなのだろうか。


 白い機体に、まるで鮫と人間を混ぜたようなフォルム。無機質な機械なはずなのに、なぜか殺気を感じる。




「明らかに、他の個体と違うわね。あれが、副団長の言ってた守護者級ガーディアンかもしれないわ。みんな、気を付けて」




 ライアン先生の忠告に、俺たちは改めて気を引き締めて、各々の武器を構えた。




『我が名は、フリスト。この船を守る者。主のめいにて、貴様ら侵入者を排除する』




 そう言うと、フリストと名乗るオートマタの両手がチェーンソー状の武装に変化して、激しく回転を始める。


 すると、物凄い速度で先頭にいた剣持さんへと攻撃を仕掛けていく。





「くっ!」



 ギャギャギャギャギャ!!!




 咄嗟に『アイギスメイル』の腕部から盾を展開させて、敵のチェーンソーを受け止める剣持さんだったが、その激しい振動で徐々に盾が削り取られていく。




『この俺の「メガロ・ソー」に、斬れないモノはないぞ?クククク!』



「斬れるものなら……斬ってみろ!!」




 前蹴りを放ち、フリストの腹部を蹴り上げて吹き飛ばすと、すぐに『アダマントソード』を構えながら、剣持さんが高速移動で追撃を試みる。




 ギン!ギン!ギン!




 弾ける火花。ぶつかり合う十字剣とチェーンソー。

 剣持さんの高速移動に、互角の速さで渡り合うフリストは激しい剣戟を繰り広げて、応戦していく。




「“戦い”の詩……ゴンドゥルの風!!」



 ブオンッ




 旋風を乗せた斬撃で、フリストの体を吹き飛ばし、端の壁に叩きつけると、剣持さんが叫んだ。





「ここは、私が引き受ける!ライアンは、三人を連れて、ウイルスの回収に向かって!!」



「……分かったわ!アイリも、気を付けて。あとで、合流しましょう!!」





 あっさりと、彼女の言うことを聞くライアンに、テンが慌てて食ってかかる。





「ちょっと、待ってよ!いくら、剣持さんでも一人じゃキツいよ!!アイツは、強い……私たちも、加勢しよう!?」



「そうよ。守護者級ガーディアンは、私たちが想定していた以上に強かった。だからこそ、アイリは私たちを先に行かす決断をしたの。それが、分からない?」



「わかんないよ!どういうこと!?」




 ヒートアップするテンの肩に、ポンと手を置き、なだめるように親友であるナギが、代わりに説明を始めた。




「確かに、みんなで力を合わせれば、倒すのもらくになるかもしれない。でも、もし、それで全員が消耗してしまったら?この先にも、オートマタたちは待ち受けてるだろうし、他の守護者級ガーディアンにも遭遇するかもしれない」



「そ、それは……」



「私たちの最優先事項は、ウイルスの回収。剣持さんは、その為の戦力を残しておく為に、一人で残る決断をしたの。加勢したい気持ちは、私たちも同じだけど……ここは、先に進もう」





 ナギの説得で、テンの心が揺れ動く。


 その時、壁に叩きつけられたフリストが、背中を可変させて、その中から小型のミサイル群を一斉射出すると、視線の先にいた剣持を標的に据えた。





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