ラーズグリーズ作戦

戦闘服に着替え、準備を整えた俺が中庭に足を運ぶと、先程の面々も戦闘服に身を包んで綺麗に隊列を作っていた。


白と青のコントラストが特徴的な『ヴァルキュリア』の戦闘服は、男女で微妙にデザインが異なっていた。しかし、どちらも身体にフィットして動きやすく、非常に軽い。防刃・防弾耐性があるというから、もっと重々しい素材かと思っていたが、さすが未来は発展している。


そんな俺らの姿を確認して、ライアン先生が副団長に声を掛けた。




「副団長。全員、集まったわよん」



「ありがとうございます。目標は、着々と都心部へ向けて進行中のようです。辿り着くまでに、必ず我々で食い止めましょう。その前に、いくつか」



「あら?何かしら」



「本来ならば、今日の合同演習でやる予定だったのですが、こういう事態になってしまったので、簡潔に口頭で伝えます。団長の、もうひとつの錬金兵装『七層盾姫ブリュンヒルデ』攻略について、です」




もうひとつの錬金兵装……騎兵槍姫ゲイルスコグルだけじゃなかったのか。千機のドローン軍団だけでも、相当に厄介だというのに。


その錬金兵装を知ってるのか、蓮見さんが口を開いた。




「『七層盾姫ブリュンヒルデ』か……確か、七層のバリアを展開させる錬金兵装だったね。仲間でいた時は頼もしかったけど、敵に回すとなるとイヤになってくるねぇ。どうやって、破る?」



「あのバリアは一枚を破るごとに、技の威力を半減させてしまいます。つまり、大技1発では全てのバリアを貫通させることは困難に等しいでしょう」



「なら、大技を連発させるのは?」



「あのバリアの一番、恐ろしいところは修復の速さです。大技を放つとなると、それなりの充填時間チャージ・タイムは必要となるでしょう。しかし、少し間を与えれば即時に破れたバリアが復元してしまいます」




七層あるだけじゃなく、一枚一枚の修復速度まで速いのか。まさに、“絶対防御の壁”って感じだな。


続けて、副団長が説明を続ける。




「つまり、単独で破るには間髪入れずに大技を連発しなければならない。相応の威力のある技を時間差を入れつつ、ほぼ同時に7つ放射。もしくは、強力な大技を2〜3発、続け様に放つ。どちらも、S級冒険者でも出来るかどうかの芸当です。不可能と考えて、良いでしょう」



「複数人で、攻略するしかないってことだね」



「はい。団長班のメンバーで攻略するとなると、エリザさんが4枚、イブキさんが2枚、私が1枚、破ることが出来れば……」



「ちょっと、待ちな。私とイブキは分かるが、ユウカも頭数に入ってるのかい?アンタ、アンサーだろう」



「私にも、団長から譲り受けた錬金兵装があります。一枚ぐらいなら、何とかなるでしょう。ぶっつけ本番には、なってしまいますが」




一枚のバリアに、どれほどの耐久値があるのかが問題だな。それにしても、4枚や2枚を破れると期待されている蓮見さんや姐さんも凄いな。




「わかった、信じよう。私たちも、やってみないことには成功できるかは分からないからね」



「はい。ウイルス部隊が早めに合流できれば、選択肢も増えるはずです。その時は、また改めて作戦を伝えたいと思います。ただ、『七層盾姫ブリュンヒルデ』の前には、『騎兵槍姫ゲイルスコグル』が立ち塞がっています。その猛攻をくぐって、全員のフィニッシャーが団長に接近しなければならない……どちらにせよ、厳しい難易度といえるでしょう」



「なぁに。やるしかないなら、やるだけさ。けど、破った後は?団長は、どうするつもりなんだい」



「気絶させます。団長が、洗脳状態にあるのは明らかです。それを解除するには一度、意識を失わせる必要があるようです。確証はありませんが、正気に戻らずとも身柄を確保することは出来ます」




おそらく、俺がテンたちに伝えた情報を信じてくれたのだろう。今回の洗脳が、黒岩さんの時と同じ主犯格の仕業かどうかは分からないが、そうだとしたら同じ方法で解除することは出来るはずだ。




「そういうことなら、団長自身の戦闘力は低い。バリアさえ全て破ることが出来れば、私がで眠らせてあげるよ」




ゴキゴキと指を鳴らしながら、蓮見さんが息巻く。

何か、下手すれば殺してしまいそうな勢いで怖い。




「注意喚起は、以上となります。あとは、現場で臨機応変に対応していくこととなります。これより、本作戦名は、“計画を壊すもの”……『ラーズグリーズ』と命名します。何百万の人の命と、我々『ヴァルキュリア』の未来が懸かった作戦です。皆さん、気を引き締めて行きましょう!」



「「「了解!!!」」」



「『セーブ・ポータル』を起動させます。皆さん、それぞれ仲間の身体の一部に触れて下さい。全員が繋がっていれば、一斉転移が可能となります」




みんなが数珠繋じゅずつなぎのように、手を繋いでいく。俺も慌てて周囲を見回すと、スッとナギが手を握ってきた。

ドキッとしながら、彼女の顔を見ると、いつもの冷静そうな表情から一転して、不安そうに唇を噛み締めていた。先輩の冒険者でも、やはり年相応の女の子なんだと実感した。


俺は黙って頷くと、彼女の目を見ながら、その手をきゅっと強く握り返した。



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