合同演習・1

 蓮見さんのレッスンが終わり、午後は全員が集まっての合同演習があるようだ。

 集合した部屋は、VR設備が置かれた大部屋だった。温泉や訓練施設まで、本当に充実している。さすがは、五大ギルドの一角である。




「へぇ。思ったより、ピンピンしてるじゃないか。アタシのレッスンが終わった直後は、死にそうな顔をしてたくせに。もう、回復したのかい?」



「えっ?あ、はい……まぁ。何とか、はは」




 思ったより元気そうだった俺の姿を見て、蓮見さんが不思議そうに聞いてきた。小一時間の昼休憩はあったものの、とてもじゃないが回復できるような疲労ではなかった。

武曲ミザール”を使わなければ、こうして立っていることすら困難だったかもしれない。

 疲労を回復する七星剣術の技、これだけ動けるようになったということは、成功したと言っていいだろう。こうしたトレーニング疲れも取り除いてくれるとは、一日一回とはいえ便利な効果だ。




「皆さん、集まりましたね。これから行うのは、団長の持つ錬金兵装“騎兵槍姫ゲイルスコグル”対策の為の合同演習となります」




 ここでも陣頭指揮を取る副団長の言葉に、蓮見さんが反応する。




「“騎兵槍姫ゲイルスコグル”……およそ千機の小型ドローン軍団か。団長の主力兵器だね」



「はい、そうです。その小型ドローンは各機に高性能AIが搭載されており、基本的には操縦者が命令を下すだけで、あとは機械が独自で最適な行動を選択するという自律型マシーンとなっています」



「戦闘力は?」



「内部に光線銃レイガンが、仕込まれています。それほど殺傷能力は高くはありませんが、数百の機体から一斉に撃たれれば、確実に致命傷となるでしょう。よって、デコイとなるメンバーが、なるべく多くの機体を引きつけなければなりません」




 そう言いながら、何やら副団長が機械を操作し始めると、部屋の中に無数の機械の球体が出現した。

 いや、正確に言えば、全て立体映像ホログラムなのだが。





「仮想“騎兵槍姫ゲイルスコグル”を、シュミレーターにプログラミングさせました。一応、このドローンの破壊は可能ですが、中途半端に破壊しただけでは、自己修復機能で10分も経たずに形状を復元させてしまいます。ですから尚のこと、ヘイトを集める盾役タンクは必須なのですが……」



「副だんちょー。もしかして、このシュミレーターを使って、盾役タンクの適性を見つけ出す感じですか?」



「ええ、その通りです。立体映像ホログラムなので、実際に撃たれてもダメージはありません……が、攻撃を受け過ぎると判断されたら、自然とゲームオーバーにされてしまう仕様となっています。やってみますか?テンさん」



「やりましょう!今度は、こっちの成長も見せてあげないと……ね」




 そう言って、テンは俺の方を見ると、不敵に微笑んだ。そういえば、強くなったって自分で豪語してたからな。どれほどのものなのか、お手並み拝見といこうじゃないか。




「では……シュミレータ、起動!試しに三分間、逃げ延びてみてください」




 副団長の忠告を真剣に聞きながら、テンは自身の両手の人差し指を合わせると、何かを小声で呟き始めた。




「ニンジャ・スクロール、展開!シノビ・アーツ……『影分身パラレル・シャドウ』!!」




 テンが叫ぶと、彼女の周囲に広げられた巻物のような映像が浮かび、次の瞬間……その身体が、何体もの姿に分裂、いや、した。





「分身の術……忍法なの、か!?」



「レベル3の秘宝アーティファクト、“ニンジャ・スクロール”。アプリ型の秘宝で、インストールした者は様々な忍術が使えるようになるの。あれが、“九戦姫”になったお祝いに『ヴァルキュリア』から、テンへ授けられたもの」




 ナギの説明を聞き、ようやく理解した。

 しかし、アプリ型の秘宝アーティファクトか……俺の持つ『ダンジョン・サーチ』のようなものが、まだ存在していたとは。


 それにしても、あんな大袈裟に術名を叫ばなくても。全く、忍者っぽくないぞ。



 いや……違う!そうだった、忍頂寺テンのユニークスキル【不忍しのばず】は忍ばないほど速くなる。

 つまり、目立てば目立つほどに速くなる!





 ズバババババババッ




 気付いた瞬間には、百機近くのドローンが真っ二つに切り裂かれていた。もしかして、あの分身は攻撃も可能なのか?きっと、そうに違いない。

 そうでなければ、いくら加速したところで、あれだけの機体を一瞬で討ち取ることなど不可能だ。




「また、つまらぬものを斬ってしまった……な〜んちゃって」




 彼女が手にしていたのは黄金色の短刀。よく見ると、精巧な機械仕掛けで造られており、刃からはバチバチと目に見えるほどの電流が放出されていた。

 それが、忍頂寺テンの第二の武器。かつて、優しかった頃の団長より授かった錬金兵装……『雷光刀ヴァジュラ』であった。



 凄い……当たり前だけど、あの頃とは別人のように強くなってる。それもそうか、当時から既に大器の片鱗は現れていた。それが、開花しただけの話だろう。


『ヴァルキュリア』の最高戦力の一人と、なるほどまでに。






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