個人レッスン(エリザ)

「首都浄化計画」まで、あと3日




「ぶはあっ!終わった……!!」



 昨夜の天国のような混浴風呂から一転、今朝は完全回復した蓮見エリザ氏による、地獄の個人レッスンから始まった。




「次、スクワット500!!」



「えっ!?今、腹筋500回、終わったところですけど……?」



「アタシのメニューに、何か文句でもあるのかい?」



「い、いえ!やります!!」




 レッスン内容は、シンプルな筋トレだった。腹筋やスクワット、腕立て伏せなど地味にキツいことを何百回もやらせてくる。

 幼い頃から、多少の筋トレは日課として続けてきたからか、何とか耐えてはいるが、そんな俺でも既に全身が悲鳴をあげつつあるほどハードだった。


 絶対、昨日の腹いせだ。倒されたことを、根に持ってるに違いない。


 文句を言ってやりたいところだったが、ちゃっかり俺と同じメニューを涼しい顔で彼女もこなしてるのを見させられると、ぐうの音も出なくなった。

 こんなハードな練習を、日課としてるのか?そりゃあ、あんな鋼のような肉体になるよな。




「何か言いたそうな顔だねぇ。アタシが、ボウヤに意地悪してるとでも思ってんだろ?」




 チラチラと見ていたのを、気取られてしまったか。しかし、こっちはまともに会話も出来ないほど疲弊しきってるというのに、余裕で喋ってくるな。

 正直、スクワットに集中させてほしいんだけど。




「いえ……45、全然……46、ハァ、ハァ……47」



「正直に言えば、いつもより練習量は増やしてる。昨日の仕返しだよ」



「やっぱり……48!」



「でもね。トップどころのギルドなら、冗談抜きで、このぐらいのトレーニングは積んでるもんなんだよ。覚えておきな」




 そうなのか?時代錯誤のような気もするけど、上手く丸め込まれてるんじゃないだろうか。


 そんな不信感が態度に出てしまったのか、続けざまに蓮見さんが口を開く。




「確かに、冒険者の素養は持ってるユニークの強さで大抵は決まっちまう。強力なユニーク持ちだったら、大した努力をしなくとも、ある程度の地位までには行けるだろうさ」



「は……はい」



「けど、S級と呼ばれるトップ中のトップに行く為には、それだけじゃダメだ。そこにいる連中は日々、己を鍛え上げている。持ってるユニークスキルの潜在能力ポテンシャルを最大限に発揮できるようにね」



潜在能力ポテンシャルを最大限に……」




 言わんとしてることは、何となく分かった。

 俺の【虚飾】だって強力だが、それなりに基礎体力がなければ最大効果を発揮することはできない。


 要するに、いくら高級なエンジンを搭載していても、それに耐えうる車体ボディでなければ意味がないということだろう。




「どんなにユニークスキルが強力でも、最終的に頼れるのは人間としての体力だったり、根性だったりするもんさ。こういう地味でキツいトレーニングは、それを鍛えるのに最適なんだよ。古臭い考え方かもしれないけどね」




 根性か……前世の俺は、嫌なことがあったら、すぐに逃げ出していたぐらいの根性なしだったからなぁ。耳が痛い。


 もちろん、逃げることも時には大切だけど、それと同じぐらいに困難に立ち向かう勇気も大切なんだよな。厳しい運動部に所属しているような人たちは、根性ある人が多い印象だし、こういう練習も確かに意味があるのかもしれない。




「よーし、俺……頑張ります!あれ?今、何回でしたっけ!?」



「忘れたのなら、仕方ないなぇ……最初からだ。あっはっはっは!」



「えぇっ!そんなぁ!?」




 てか、蓮見さんが笑ったところ初めて見たな。

 想像通り、豪快な笑い方をする人だ。怖いけど、嫌な人では無さそうなことは良くわかった。




「ボウヤ。気付いてたかもしれないが、アタシは男が嫌いでね。無意識に、きつく当たることもあるかもしれない……その時は、堪忍しておくれ」



「い、いえ!全然、きついとか思ってないんで。でも……何で、そんなに男が嫌いなんです?言いたくなかったら、言わなくていいですけど」



「くだらない理由だよ。ガキの頃から、アタシは周りの男子よりガタイが大きくてね。そのせいで、よく馬鹿にされてたんだよ。怪獣だの、巨人だのってね。それがムカついて、鍛え始めた。アタシを馬鹿にした男どもを、力でねじ伏せる為にね」



「そ、それで……ここまで、強くなっちゃったんですか」




 子供ってのは残酷だからなぁ。いや、大人だって同じか……むしろ、大人の方が時に残酷だったりもする。




「そういうこと。そう考えたら、男共に感謝しないといけないかもね。アタシを、ここまで強くしてくれてありがとうって……あっはっはっは!!」




 笑い飛ばしてはいるが、その頃の蓮見さんは普通の女の子だったわけだし、相当なショックだっただろうな。そりゃあ、男を嫌いにもなるってものか。




「じゃあ……今回の、団長の計画とか、本当は止めたくないとか?」



「……本音を言えばね。ただ、そこまではやりすぎだってことぐらい分かるさ。男の中にだって、マシな奴もいるだろう。気は乗らないが、助けてやらなくちゃね」




 良かった。蓮見さんが団長側についたら、ヤバいからな。

 しかし、だいぶ印象が変わったな。やっぱり、ちゃんと話してみないと、人って分からないよなぁ。



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